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Vol.116 2015.11.24

認知症高齢者に「人としての尊厳」を

学習療法で、認知症高齢者
「人としての尊厳」取り戻す

~「学習療法 実践研究シンポジウムin幕張」開催~

11月1日(日)、「学習療法 実践研究シンポジウム」が幕張メッセ国際会議場で開催されました。学習療法を導入している高齢者介護施設の関係者約800名と一般の方を含め合計約1,000名の来場者があり、高齢者介護施設からの実践発表や、経済産業省から委託を受けている調査事業の報告が行われました。

目次

「学習療法 実践研究シンポジウム」とは


続々と集まる参加者たち

「学習療法 実践研究シンポジウム」は、学習療法を導入している高齢者介護施設や脳の健康教室を実施している自治体等の方が、年に一度一堂に会し「介護ケアに学習療法をどう活かすか」を発表、情報交換する場です。今年度からは、学習療法・脳の健康教室の実践者だけが参加できる「実践研究プログラム」の他に、一般の方に学習療法をわかりやすくご理解いただくための「一般参加プログラム」が設けられました。一般プログラムでは、学習療法の共同開発者である東北大学・川島隆太教授の基調講演と、映画『僕がジョンと呼ばれるまで』*を上映。この映画の主役であるジョンさんがアメリカから来日し舞台挨拶をしました。
*映画『僕がジョンと呼ばれるまで』の詳細につきましては、記事末尾の関連リンクよりKUMON now!バックナンバーをご参照ください。

熱い想いの実践者たち


分科会のようす

午前中の「実践研究プログラム」では、10の分科会で59の発表がありました。そこでは「学習療法を日頃の介護ケアに活かす」というテーマのもと、各施設から、認知症の学習者の方がどのように改善したか、について多くの事例が発表されました。中には、実際に入所中の学習者の方を同伴し、学習療法の感想を発表するという驚きの場面もありました。その姿は、とても認知症を患われているとは思えないハキハキとしたものでした。


ポスターセッション

すべての発表に共通したのは、介護ケアにかける実践者たちの“熱い想い”です。介護の世界はいわゆる三大介護(食事・排泄・入浴)だけで、あっという間に一日が終わってしまうのが常です。そのような中で、学習療法のために1日1人に30分の時間を当てるというのは相当のモチベーションがなければ続きません。それが続くのは目の前にいる「◯◯さん」に「人としての尊厳」と「日常」を取り戻してほしい、という一人ひとりの介護スタッフの“熱い想い”があるからこそです。

SIB事業で本当に大切なこととは?

本当に大切なことは「すべての人の幸せ」

午後の全体会では、今注目されているソーシャル・インパクト・ボンド(以下、「SIB」)調査事業*の中間発表がありました。学習療法は、介護予防分野としては初めて、経済産業省が行う調査事業に採択されています。
*SIB調査事業の詳細につきましては、記事末尾の関連リンクよりKUMON now!バックナンバーをご参照ください。
 
まず、経済産業省の方から、次のようなコメントがありました。

このSIB事業の目的として、「新ビジネスの創生」、「国民一人ひとりの健康の向上」、「医療費・介護費の適正化」と述べた後、「私見ですが……」と前置きのうえ、「一番大切なことは『介護施設利用者と介護スタッフの幸せ』です」と言われました。
 
あとからお聞きしたのですが、実は午前中に上映した映画『僕がジョンと呼ばれるまで』をご覧になり、急遽発表内容も差し替えたとのことでした。「国として達成すべき目標は大事ですが、血の通った人間として目指すべきはすべての人の幸せである」と力強く語られました。
 
また、SIB調査事業の評価者のお一人である大学の先生は、「今日は(シンポジウムに)来てよかった。なぜなら、分科会の発表を聞いてすべての方々から温かさ・やさしさ・共感・人としての尊厳を大事にする、ということを感じ、改めてこの事業を広げるお手伝いをしていきたいと思いました」とコメント。また、もう一人の先生からも、「人としての尊厳を取り戻すことができる価値ある仕事、そこに関われることは誇らしい」と言っていただきました。そして、SIB調査事業の進捗についてそれぞれのご発表に加え、「SIBの仕組みにより、学習療法に関わるすべての人がWIN-WINになることへの期待」を述べられました。

アメリカでの実践者たち

映画『僕がジョンと呼ばれるまで』で紹介された高齢者介護施設、エライザ・ジェニングス(以下、EJ)から始まったアメリカでの学習療法は、2015年10月現在、10州22の介護施設に導入が広がっています。当日は、EJのクリスさんから「学習療法がアメリカで広がった経緯と今後の目標」についてご発表いただきました。映画でも描かれていますが、もともとEJは“パーソン・センタード・ケア(人を真ん中に据えた介護)”という考え方を大切にしており、その考えは公文式から生まれた学習療法の考え方と完全に一致していました。その一致があったからこそ、言葉も文化も違うアメリカという地で学習療法を根づかせることができたのだと思います。クリスさんは今後の目標として、「将来日本とアメリカの介護施設の実践者たちが交流し、学習療法や介護ケアについて語り合うことができることを夢見ている」と抱負を述べられました。

ライバルの介護施設同士が学びあうネットワークとは?

「かきね」を越えて

介護業界では、各施設に母体があり、それが違えば経営的にはライバルとなる存在です。しかし、今「学習療法」を共通言語として、母体の違う介護施設同士が、お互いに学びながら「介護の質」を上げようとネットワークを広げています。福岡の施設ネットワークである「福岡学習療法研究会」の発表では、「介護の仕事は人こそ総て。介護スタッフの育成は自施設だけでは限界があり、学習療法を介した施設同士のネットワークを介護人材の育成にも寄与させていきたい」と、学びあいのネットワークの重要性について述べられました。現在、各地で組織されている地域の「学習療法研究会」では、施設同士の定期的な会合を実施し、自施設の介護ケアの質の向上、人材の育成に役立てようと学び続けています。

可能性の追求

閉会に際し、挨拶に立った学習療法センター代表の大竹は、参加者への謝意とともに、「多くの発表を通して学習療法のさらなる進化を感じ、より強く確信を持ち、今後も実践者の皆様と学習療法の可能性を追求していくために共に学んでいくこと」を宣言しました。学習療法が生まれて15年になる来年に向け、さらなる飛躍を感じさせる充実したシンポジウムとなりました。


関連リンク ドキュメンタリー映画『僕がジョンと呼ばれるまで』メイキングストーリー|KUMON now! 介護事業を支える仕組みを構築したい―学習療法がSIB調査事業として採択|KUMON now!

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