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Vol.074 2023.05.26

名古屋大学 国際開発研究科 教授
山田 肖子さん

<前編>

教育の意義を体現する公文式
AI時代の今こそ
人間と教育の役割の再定義を

名古屋大学 教授

山田 肖子 (やまだ しょうこ)

名古屋大学 国際開発研究科 教授。専門は比較教育学、アフリカ研究。早稲田大学法学部卒業後、コーネル大学修士課程、インディアナ大学博士課程修了。笹川平和財団の研究員や広島大学教育開発国際協力研究センターなどを経て、2007年12月から名古屋大学に着任。おもな著書に『アフリカのいまを知ろう』(岩波ジュニア新書)、『途上国の産業人材育成:SDGs時代の知識と技能』(共編著、日本評論社)ほか。

公文教育研究会 会談参加メンバー(敬称略)
新潟事務局 野嶋
静岡事務局 八幡
学習療法センター 山崎

2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標が「SDGs(=Sustainable Development Goals)」。こちらの企画では、各界のオピニオンリーダーや実践者の方々をお招きして、公文教育研究会のSDGs委員会・アンバサダーメンバーの社員との対話を通じ、教育を通じて社会の課題解決へのグローバルな貢献を目指すKUMONの取り組みへの理解を深めていきます。
今回のゲストは、名古屋大学 国際開発研究科の教授として、途上国の産業人材育成に取り組まれる山田肖子先生。公文式学習経験者でもある先生がKUMONと協働することになったきっかけや、最前線で取り組まれているSDGsの話題まで、KUMONの社員と和やかに談義いただきました。

目次

労働人材の能力を測定してエビデンスをもとに人材育成に生かす

―― まず先生のご研究についておきかせください。

SDGsを考える

山田:もともと私の関心は、「人はどういうふうに知るのか?」「知っているとはどういうことなのか?」「何を知っていると周囲に思われることが、その社会での成功につながるのか?」という、個人の知識とそれを受け止める社会の関係にあります。
要は知識とは固定的なものではなく、まわりに褒める人がいて、その知識は大事だねという社会があって、それに対して応えていくことでその人の知識が評価される、ということなんです。
私はずっとアフリカで仕事を続けて、もう25年になります。最初は開発コンサルタントとしてキャリアを始めて、それから研究者になりました。研究者として各国政府の教育省や産業省の役人、企業の方と話すと、必ずと言っていいほど「学校はもっと人材育成に役割を果たしてほしい」、「わが国は〇年後には中所得国になる国家開発目標があるから、それに向けて教育に多くの予算をつけている。それなのにスキルギャップが埋まらない」と言われました。
”スキルギャップ”とは、企業の方からすると、「望んだような人材が出てこない」ということ。これは日本でも言われていることで、「学校は何をやっているんだ?」みたいな話があります。でも、政府は学校に予算や人を配置する以外の方法をあまり思いつかず、「じゃあ、スキルギャップって具体的に何のこと?」という疑問の答えも明確ではない。そこをちゃんと特定しないことには議論ができません。
漠然と大きなことを言っても本質にたどり着けないので、働いている若い人たちの能力を測定するようなモジュールを開発して、それでエビデンスをもとにした政策議論ができるようにしよう。こうして私たちのSKYプロジェクト(※)が始まりました。

※SKY(=Skills and Knowledge for Youth)プロジェクト:名古屋大学で研究した教育評価プログラムによって、アフリカ・アジア等の開発途上国の経済成長につながる産業人材育成への貢献を目的とする。

―― KUMONとの協働についてもうかがわせてください。

SKYプロジェクトで、私たちが産業労働人材の能力を測定して人材育成のピンポイントな提案をしていく、ということに取り組んでいたなか、日本型教育の海外展開に文部科学省主導で取り組む「EDU-Port ニッポン」のシンポジウムで、KUMONと出会いました。
そのシンポジウムでKUMONは「非認知能力」についての話題を提供されていました。私たちも人材の能力を測定する時に、読み書きや計算といった「認知能力」、手を使って実際に仕事をする「職業技術」のほかに、やはり「非認知能力」がすごく大事だということはわかっていて、その「非認知能力」を測定するためにいろいろ工夫していたタイミングでした。ここの問題意識で私たちとKUMONに接点がありそうだと思い、シンポジウムの場でお話をさせていただいたところ、「名古屋に早速打合せにうかがいます!」と言ってくださったんですよね(笑)
そのような経緯から、KUMONと一緒に何かできる方法はあるかを模索していたところ、昨年(2022年)はちょうど日本政府が数年ごとに開催しているアフリカ開発会議「TICAD」の開催年だったことから、「EDU-Port」でもアフリカの事業をしたいとの話が文科省からもありました。そこで、SKYプロジェクトとKUMONと協働して事業を提案してはどうかとお声がけさせていただいた次第です。今回の南アフリカのプロジェクトを通じて、仕事をしている若者の可能性を学歴ではなく能力で評価できるということをKUMONと一緒に実証していきたいと考えています。

開発援助のコンサルタントから研究者の道へ

開発援助のコンサルタントから研究者の道へ

SDGsを考える

野嶋:私は新潟事務局でコンサルティング業務にあたり、公文式教室の先生方のサポートをしております。先生と一緒になって、いかに子どもたちを伸ばしていくか、伸ばせるかを日々考えながら仕事をしております。
もともと私自身はアメリカで生まれ、途中で日本に来て、また中学校から高校を卒業するまでアメリカにいたので、この経験が高じて大学時代には国際交流と国際支援のサークル活動をしておりました。
ところで先生は公文式の学習経験者とお伺いしているのですが、シンポジウムでKUMONにお声がけをいただいた際、少なからずシンパシーを感じていただいていた部分もあったのでしょうか?

山田:それは絶対あると思います。自分の実感として公文式をやってきて、私は「算数・数学は得意なんだ」「算数・数学は別に労力をかけなくてもできるんだ」っていう自負があり、小学校高学年から中学校ぐらいの時にはすごく拠り所になっていたことを思い出します。

SDGsを考える

八幡:私はいま静岡事務局で、野嶋さんと同じコンサルティング業務にあたっております。
じつは私は幼少期にフィリピンに住んでいたことがあり、当たり前のようにスクールバスに乗って学校に行くといった生活を送っていました。でもその当時、自分と同い年くらいの子たちが道端でお花を売っていたり……という風景も日常でした。その経験が、公文式を通じて世の中に貢献したいという入社動機に繋がり、いま私が社内のSDGs活動に参加している根底にあると思っています。
先生はアフリカ研究もご専門にされていますが、その道に進まれたきっかけについて教えていただけますか?

山田:もともと大学生の時に犬養道子さんの『人間の大地』(中央公論社)という本を読んだことが、途上国に関心を持つきっかけになりました。大学は法学部だったのですが、自分の生きる場所を探して迷っている時にその本を読んで、学生の頃は思い込みが激しかったもので、「途上国で何かやりたい!」と強く思いました。
こうして大学を卒業後、笹川平和財団で働くことになります。たまたまですが、幸い最初からアジアの人材育成の仕事をさせていただいて、現地で社会貢献活動をしている方のマネジメント能力の向上などに関わりました。
その後留学して、開発援助のコンサルタントになったのが、ちょうど1990年代の後半ぐらい。MDGs(※)が始まるちょっと前ですけれども、国際目標として教育の分野では、”Education for All(=万人のための教育)”というのが声高に言われていました。とくに学校教育が普及していない地域で学校を建てる、というプロジェクトが多かったんです。

※MDGs(=Millennium Development Goals):2001年にまとめられた2015年までの国際目標。MDGsに残された課題を受けて、SDGsにつながる。

SDGsを考える

学校教育が普及していない地域としてはその当時南アジアかアフリカが多く、私も教育分野のコンサルタントとして、仕事でアフリカの国々に行き始めました。一度アフリカの国に行くとまた次も、と同じような地域に行くことが重なり、そうしているうちにアフリカ各国に何度も行くことになりました。
でも、同じような調査をし、それこそ国の名前だけ差し替えたらほとんど内容が同じ報告書をいくつか書いているうちに、ふと「おそらくこのまま学校建設を続ければ、10年も経ったらこの国際協力のトレンドも変わるだろう。教育援助で重要とされるテーマもまったく違ったものになるのでは?」と思いました。
「世界の議論とは別に、現地のこの社会の人たちの文化や生活に根差した学びとか教育の意味があるのではないか」ということを考え始めたら、国際社会のトレンドに振り回されて型通りに仕事をこなす自分はこのままでいいのか?と疑問を感じてしまって……。もちろん、やりがいのある仕事なので、それが向いている人もたくさんいると思いますが。
そこで、私は一回足を止めて、研究者としてこの社会をちゃんと知ろう、この社会で「学ぶ」とはどういう意味を持つのか、知識とは何なのかをちゃんと考えよう、と思い至り、博士課程に進むことになります。
私の場合、「学校がすべてではない」という問題意識が非常に強くて、制度としての学校教育、つまり教師がいて学校があって教科書があって……ということを、ひとまず客体化する、客観視しながら学びを考えたい、というのが私の研究キャリアの原点になります。

SDGsに関する議論は将来の世代に渡って続く

SDGsに関する議論は将来の世代に渡って続く

SDGsを考える

山崎:学習療法センターの山崎と申します。学習療法というのは2001年の産官学の共同研究から生まれた非薬物療法で、高齢者の脳の健康維持・改善、認知症予防に、読み書き計算というKUMONの持っている教材ノウハウを活かす形で展開している事業です。声を出して音読すること、テンポよく計算することとともに、大きな〇をつけること、100点にすること、そして支援者がその場で「ほめる」というコミュニケーションをすることで、人のやる気や存在意義、そして原動力を掘り起こしていくことが大きな特徴だと思っています。
山田先生の原動力はどんなところから来ているのでしょうか?

山田:私の原動力って、関わった方が喜んでくれたとか、やったことにちゃんと意味があったとか、そういう嬉しいリアクション一つひとつの積み重ねです。KUMONの皆さんもそうじゃないでしょうか?やっぱり一番元気になるのは現場に行っている時で、元気をもらって帰ってきて、あの楽しい思いやリアクションをもらうために活動しているんだって実感します。

―― SDGsに関して先生の印象、また最近の動きについての見解ですとか、実際に研究者として国内外で活動されている中でどのように見ていらっしゃるのでしょうか?

山田:SDGsが策定されるプロセスも研究の一環として見ていましたけど、SDGs自体は、言っておけば安心みたいな、何となくそういうお墨付きの道具になってしまっているようにも思います。
本来、SDGsがうたう「持続可能性」って、いくつもの対立する価値観が内包された言葉なんです。
例えば従来、国際開発といった場合は、同じ世代の先進国と途上国とか、豊かな人と貧しい人とか、資源をいっぱい持っている人と持っていない人の間の公平性を保つような議論で、持っている方の国が持っていない方の国を支援する、みたいな議論だったわけです。
でも、ここに持続可能性というベクトルを入れると、将来の世代に負の遺産を残さない-つまり、今の世代のやることが将来の世代にもたらすインパクトを考慮するという時間軸も入った発想になるんです。

SDGsを考える

しかし、現代や将来の世代の他者のために自己の欲望を制御するというのは、実は放っておかれても人間ができることではない。制度や理念が必要です。だから「持続可能性」とは、公共の福祉を実現するための政治制度の課題でもあるし、一方で思想の課題でもあるし、歴史観とかでもあるんです。本質的に人間社会を今後どう考えるか、みたいな価値の問題だと思っています。
私は、SDGsという目標を建前として掲げることとは別の次元で、「持続可能性」についての議論は、たぶんこれからも永遠に続くんだろうなと思っています。

関連リンク

SKYプロジェクト

学校外での学びを促進するための技術・経験の共有:アフリカの産業人材育成支援(名古屋大学 山田肖子教授)|海外展開のヒント集|日本型教育の海外展開(EDU-Portニッポン)


SDGsを考える   

後編のインタビューから

-生成系AIが出てきた今、人間の役割の再定義が必要
-KUMONの強みは“セルフ モチベーテッド ラーニング”であること
-未来を作っていく子どもたちのために

 

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