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Vol.473 2023.02.28

KUMONの取り組むSDGsを考える⑤後編

いまが歴史の転換点
持続可能な未来に向かって
意識・発想の転換を

2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標が「SDGs(=Sustainable Development Goals)」。こちらの企画では、各界のオピニオンリーダーや実践者の方々をお招きして、公文教育研究会のSDGs委員会・アンバサダーメンバーの社員との対話を通じ、教育を通じて社会の課題解決へのグローバルな貢献を目指すKUMONの取り組みへの理解を深めていきます。
今回のゲストは、元・国際連合日本政府代表部大使・次席常駐代表の星野俊也先生。国連の舞台や模擬国連に関わるエピソードをはじめ、SDGsの本質にせまるお話、恩師である緒方貞子先生が唱えた「人間の安全保障」が、「公文の理念」にも通じる点についてもお話しいただきました。

目次

    星野 俊也(ほしの としや)

    群馬県出身。上智大学在学中に米国オールド・ドミニオン大学に留学、模擬国連の活動に感銘を受けて日本に持ち帰る。東京大学大学院総合文化研究科に在籍中、在米日本大使館専門調査員に就任。プリンストン大学客員研究員、日本国際問題研究所主任研究員などを経て大阪大学大学院国際公共政策研究科教授に就く。大阪大学では副学長も務める。国際連合日本政府代表部には公使参事官(2006年から08年)及び大使・次席常駐代表(2017年~2020年)として2回在勤。2023年1月からは国連システム合同監査団(JIU)監査官に就任。専門は、国際政治学、国連外交、地球規模課題、持続可能な開発、SDGs/ESG、平和構築、人間の安全保障。

    公文教育研究会 会談参加メンバー(敬称略)
    事業開発本部 渡邉
    東京WEST事務局 荒居
    法人事業部 村橋

    持続可能な未来か、持続不能な破局か、
    求められるのは「変化」ではなく、大胆な「変革」

    村橋:
    KUMONももちろんそうですが、新型コロナウイルスの流行によって、人々の価値観や世の中の様式がずいぶん変化したと思います。
    ただ個人的には、日本は世界に比べてまだ変わりきれていないとも感じます。先生はコロナ禍の現状やSDGsの進捗にどのような印象をお持ちでしょうか。

    KUMONの取り組むSDGsを考える⑤

    星野:
    変わらなきゃいけないっていうのは、本当にその通りだと思います。
    SDGsで再認識したいポイントとして、2015年の決議は”Transforming our world”(=私たちの世界を変革する)というタイトルの決議だったこと。変革という言葉を使って、これは単なるチェンジじゃない、根本的に、コペルニクス的な、天地がひっくり返るぐらいの変革をしなければいけないってことなのです。
    もちろんコロナ自体は大きな危機だったと思いますが、コロナがきっかけになって、今まで足踏みをしていたような変革がこの機会に生まれていることも事実です。例えば、授業のオンライン化がそうですね。デジタル化がそれなりに進んでいったというのも大きな変化のひとつではあったかな、と思います。ですが、村橋さんがおっしゃったように、まだ変わりきれたとは言い切れません。

    実はSDGsにおいて企業の役割はすごく大きいと考えています。
    経済規模のトップ100の主体をリスト化すると、最初の10番目ぐらいまではいわゆる経済大国でしょう。ところがそれ以下になるとだんだんとグローバル企業の名前が出てくるようになります。ですから、SDGsの実践における企業の役割というのは非常に大きくて、その意味でKUMONによるSDGsの取り組みは嬉しく思いますし、これからもどんどん発展させていく必要があります。
    特にSDGsの目標4、教育はそれ自体が重要であるとともに、ほかのすべてのゴールにも影響するような、分野横断的なゴールだと思います。そこに直接関わっているKUMONの取り組みはますます重要になってくると思います。

    今が歴史の大きな転換点にあるんだという認識を、どれだけ私たちが共有できるかが問われています。それはどういう転換点かっていうと、持続可能な未来の方に舵を切れるか、それとも持続不能な未来の破局に向かってしまうかというくらい大きな転換点です。

    多様性を理解して、対話を通じた相互理解を

    多様性を理解して、対話を通じた相互理解を

    星野:
    SDGsで最も大事な考え方は「バックキャスティング」です。「未来のあるべき姿」から「未来を起点」に解決策を見つける、逆算の考え方です。よく教育現場なんかでは、子どもたちに「皆さんが大人になる2030年の世界を想像してみよう。どんなことができるかな?」って話をしますよね。ところがそれは間違いです。なぜかというと、もう2030年に達成されるべき未来は決まっています。それがSDGsの17のゴールなんです。

    貧困はゼロになっていて、飢餓もなくて、すべての人が質の高い教育を得て、健康や福祉へのアクセスがあって、男女は平等で、水やトイレにもちゃんとアクセスがあって、エネルギーはクリーンで効率的に使われていて、人々が働きがいのある技術革新もしていて、そして住みやすい街で、つくる責任・つかう責任を皆さんが考えて、循環型の経済になっていて、自然環境が海と陸でしっかりと保全されている…。これが2030年までにできていなければなりません。

    ですから、今さら子どもたちに「どういう世界がいい?」と問うのは間違いなんです。SDGsって、もう2015年の段階で決まっているんですから。
    今はどういう状況ですか?と聞いて、まだそこまでちょっと遠いな、ではどこから何を始めたらいいですか?というふうに話題を持っていかなければいけません。そうすると、身の回りでできることをしていくことももちろん大事ですが、さらに大胆な変革や転換が必要だということが自ずとわかるはずです。

    荒居:
    私は公文式教室を通じて日々子どもたちに近いところで仕事をしていますが、次世代の子どもたちに向けて、「こういう力をつけてほしい」、そんなメッセージをお聞かせいただけますか?

    KUMONの取り組むSDGsを考える⑤
    星野: やはり多様性を理解することが大事だと思います。自分の考えだけが正しいのではない、SDGsにしても、それぞれの国の事情を理解しつつ、でも同じ方向に向かう必要があります。ある時は根気強く忍耐強く、対話を通じて相互理解をしていかなければなりません。相手に変わってもらうことも必要だけど、自分が変わる部分も必要。両方変わる必要がある、ということです。 自分だけ変わらずに相手だけ変えよう、という都合のいい形にはなりません。どうやって一緒に変わっていくかを見つけていく、柔軟な発想っていうのでしょうか。相手との交渉もありますが、仲間うち、内側の交渉がもっと大事なんです。じつは外交交渉の現場で交渉を成立させるために何が大事かっていうと、自分の仲間、あるいは国内を説得することなんです。 これがものすごく大変で、模擬国連の時にも子どもたちによく言うんです。本当の外交交渉の現場は、日本であれば外務省が窓口になって農水省と協議したり、経産省と協議したり、財務省と予算の話をしたり。様々な国内のプロセスというのがあって、それを大使が代弁しています。大使が自分の好きなことを勝手に言っているわけではなくて。それぞれの国の中できちんと調整をして、議論を重ね、同意を得た上で対外交渉に臨んでいるのです。

    「公文の理念」は「人間の安全保障」に共鳴する

    「公文の理念」は「人間の安全保障」に共鳴する

    ―― 先生はKUMONの取り組みにどのような印象をお持ちかお聞かせいただけますか。

    星野:
    私はKUMONが掲げる「公文の理念」、あれを読んだ時にこれこそ「人間の安全保障」に共鳴すると思いました。「人間の安全保障」とは、私の恩師・緒方貞子先生が唱えてきた、「すべての人々が恐怖と欠乏から逃れ、尊厳を全うすることができる世界を創る」という考え方です。緒方先生は難民の現場で、命からがら逃げてきた人たちが命を失う前にとにかく「保護」し、さらにその人々が自立に向けた「エンパワーメント」をする必要性を訴え、それを「人間の安全保障」という考え方に込めました。
    「エンパワーメント」とは何かというと、人間の本来持っている潜在的な力を花開かせるということ。人間というのはどこに生まれようと潜在的な力を持っています。ただその無限の可能性が、紛争など不幸な形で絶たれてしまうのはとても残念なことです。だから、それを「人間の安全保障」の政策によって無くしていこうという考え方です。
    「公文の理念」には、「個々の人間に与えられている可能性を発見しその能力を最大限に伸ばす」という一節がありますが、とても共感しました。
    どこか世界の山奥で、実は天才的な才能を持っている人がいたとして、インターネットでその人にアクセスすれば、デジタルの教材を使ってどんどん能力を広げることができるかもしれない。
    あるいは村橋さんが公文式の施設導入で取り組まれているように、障害を持たれている方にも、潜在的な才能があるわけですから、その人たちをデジタルの力でサポートすることで、その才能を開花させられるかもしれない。こうした取り組みはこれから本当に大事になっていくんじゃないかと思います。

    KUMONの取り組むSDGsを考える⑤

    村橋:
    おっしゃるとおり、私たちの部署では障害者の方たちと日々向き合っていますが、才能の開花をたくさん見ることができます。
    先生の言う多様性はもちろん、人間をフラットに見るというのでしょうか、頭では分かっていてもなかなか落とし込めなかったところが、この部署に来て当たり前にできるようになってきています。みんながそういう思いを持ってくれれば、もっといい世の中になるのかな、と思ったりします。

    KUMONの取り組むSDGsを考える⑤

    星野:
    SDGsの理念で「誰一人取り残さない」ということがあります。言葉の取り方によっては、すごい上から目線で傲慢だ、と取られるかもしれません。
    英語で”leaving no one behind”の訳が「誰一人残さない」なのですが、”no one will be left behind”、「誰一人“取り残されない”」、そんな社会を作るっていうのが、実は我々の目指すところだと思います。その方がよりフラットでいいのかなって私は思います。
    ですから、私は最近なるべく、「誰一人“取り残されない”、持続可能な社会に向かって」と言うようにしています。一人ひとりに目を向けることの大事さ、かけがえのない生命の中核っていうのは、命だけじゃなくて可能性なんですね。命の背後にある人々の潜在的な可能性だと思います。そしてそこに最も関わるのが教育なのだと思います。

    荒居:
    公文式教室の先生方は、子どもたちの潜在的な力を花開かせようと努力しています。先生方と一緒になって、私たちは子どもたちの可能性を追求していることを折に触れて実感できるように取り組んでいきたい、としみじみ感じました。

    渡邉:
    企業でSDGsに取り組んでいこうとした時に、どうしても目標に対する距離感が見えてこないので、自己満足に陥りやすいというか、やることはやっているけど、それがどうつながっていくのか…そういう難しさがあると思います。先生はどのようにお考えでしょうか?

    星野:
    私自身、さまざまな企業が持っているいろいろなノウハウや技術革新、というものをSDGsが達成しようとしているゴールに上手くシンクロさせるように、道案内の仕事をしていければいいなと考えています。企業の皆さんもSDGsに取り組まなきゃいけないと思っていても、手探りのところが結構ある。

    KUMONの取り組むSDGsを考える⑤

    だから対話をしながら、そんないいことができるのだったら、それをこう進めるとここに貢献できますよね、みたいな。そんなお手伝いができるといいかな、と考えています。
    最近は大企業の方もそうですが、スタートアップの皆さんなんかと議論すると、私たちの想像をはるかに超えた新しい取組みを実践している人が多いんですよ、びっくりするぐらい。
    個々の企業の自助努力は大事ですが、自分たちだけで抱え込まず、できるところは他者や業界全体あるいは業界横断で一緒に取り組むとか、企業同士ももっと連携していけばいいのでは?と考えます。

    ―― 星野先生には「公文の理念」に共感いただき、私たちの事業についても賛同いただき、KUMONの取り組みをさらに前進させていきたいと勇気をいただきました。星野先生、本日は貴重なお話をありがとうございました。

    関連リンク 大阪大学大学院国際公共政策研究科ESGインテグレーション研究教育センター(ESG-IREC)


    KUMONの取り組むSDGsを考える⑤  

    前編のインタビューから

    -子どもの頃の趣味が世界に目を開かせてくれた
    -転機となった緒方貞子先生との出会い
    -岐路に立つからこそ 改めて考えたい国連の存在意義

    前編を読む

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