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Vol.493 2023.10.11

展覧会「遊べる浮世絵」のご紹介

いきいきとした子どもたちと
見守る大人のおおらかさ

「浮世絵には、江戸時代の子どもをめぐるたいへんなごやかで豊かな情景が描かれています。(中略)これら一枚一枚に、これからの家庭や教育のあり方を考えるうえでの、貴重なメッセージが含まれているのではないでしょうか」。これは『浮世絵のなかの子どもたち』(くもん出版、1993)の序文として、故公文毅がくもん子ども研究所理事長として遺した言葉です。
2023年10月7日から11月19日まで、KUMONが所蔵する「くもん子ども浮世絵コレクション」を紹介する展覧会「遊べる浮世絵」が、栃木市立美術館にて開催されます。そこで今回のKUMON now!では、栃木市立美術館の担当学芸員と館長に、このコレクションの魅力や展覧会を通して来館者に伝えたいメッセージなどについてお話をうかがいました。

目次

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「くもん子ども浮世絵」事始め

浮世絵のなかの子どもたち
『浮世絵のなかの子どもたち』(くもん出版,1993年)

1980年代前半、家庭内暴力や校内暴力の話題が日々のニュースをにぎわせるなど、日本の子どもたちを取り巻く環境は危機的な状況にありました。従来の教育のあり方が大きな転換を迫られる中、これらの問題に取り組むべく、公文教育研究会は1986年に「くもん子ども研究所」を設立します(2005年まで活動)。その活動テーマの一つとして掲げられたのが「江戸子ども文化研究」でした。

そのヒントは、1980年に日本語訳が刊行された、フランスの歴史家フィリップ・アリエスによる『〈子供〉の誕生/アンシァン・レジーム期の子供と家族生活』(みすず書房)にありました。アリエスは文献資料だけに依らず、時代ごとに子どもが描かれた絵画史料を読み解くことで、ヨーロッパで「子供」の概念が生まれたのは16~17世紀の近世であり、それ以前には「子供期」の認識がなかったこと、そして「子供」という概念が成立したことにより、家族のあり方が大きく変化をしたのではないかと提唱したのです。
このアリエスの研究は当時、KUMON社内で自主的に社員勉強会が開かれるなど話題となり、「日本における近世の子ども観を、アリエスの手法に倣い、浮世絵という絵画史料を通じて紐解くことで、現代の子どもや親子の問題の解決につなげることができないか」というアイデアにつながったのでした。

KUMONがこれまでに収集した子ども文化研究史料は、子どもが描かれた「子ども浮世絵」や寺子屋の教科書ともいえる「往来物」、そして玩具など約3200点。中でも約1800点にのぼる「くもん子ども浮世絵コレクション」は、世界で唯一無二のコレクションとして知られています。現在これらの研究史料は、インターネットを通じて公開されており、教育や育児、精神科学などさまざまな学問分野における研究素材として活用される一方、書籍や展覧会などを通じ、その研究成果を広く社会に還元しています。

いっぱい遊んで、怒られていいんだよ

栃木市立美術館
栃木市立美術館

2023年10月7日から11月19日まで、栃木市立美術館では企画展「くもんの子ども浮世絵コレクション-遊べる浮世絵」が開催されています。
そこで、この展覧会の担当学芸員である形井杏奈さんに、この展覧会の見どころや展覧会を通じて伝えたいメッセージなどをお聞きしました。

この展覧会に展示をされている浮世絵に描かれた子どもたちは、どの子もとても生き生きとして、実に楽しそうです。
また、おばけをこわがる様子やけんかをする場面、そしていたずらが過ぎて怒られてしまう様子も描かれていますが、どのような場面でも、子どもたちはその時々の気持ちに正直で、のびのびとしているように見えます。これが本来の「ありのまま」の子どもたちの姿なのだと思います。
くもんのコレクションを見ていると、江戸の子どもたちが社会の中でいかに大切にされてきたか、そして大人たちがどれだけ子どもたちを愛しいと思っていたのかが伝わってきます。また浮世絵に描かれた子どもたちが生き生きとしている背景に、それを見守る大人たちの愛情やおおらかさがあったのだということにも気づくことができるでしょう。
いまの子どもたちは、日々様々な社会のルールやしがらみ、勉強のプレッシャーなどの中で過ごしていて、中には少し窮屈な気持ちを感じている子もいるのではないかと思います。この展覧会を通じて、子どもたちには「いっぱい遊んで、好きなことを楽しもう。失敗して、迷惑をかけて、怒られたっていいんだよ」「誰もがみんな、そのままで大切な存在なんだよ」と伝えることができればと思います。そして大人のみなさんには、かわいい子どもたちが描かれた浮世絵を楽しんでいただきながら、子どもたちを見守る肩の力を抜いてみるきっかけにしていただけると嬉しいです。

 

栃木市美の杉村館長と形井さん
杉村館長と形井さん

また、栃木市立美術館の杉村浩哉館長からも、これから来館されるみなさまにメッセージをお寄せいただきました。

昨年開館した栃木市立美術館では栃木市ゆかりの芸術家の紹介を中心に活動しています。浮世絵師 喜多川歌麿もその一人です。
今回の展覧会では歌麿をはじめとする浮世絵の楽しさ、奥深さを多くの皆様に楽しんでいただきたいと思います。浮世絵に初めて接する子どもさんたちだけでなく、浮世絵通の大人にも十分楽しめる内容です。みなさまのご来館をお待ちしています。

浮世絵は庶民のメディア

藤澤紫先生 講演会のようす
展覧会開会翌日の8日には、この展覧会の監修者である藤澤紫先生(國學院大學教授、国際浮世絵学会常任理事)による講演会「浮世絵とあそぼう!―大人のまなざし、子どもの暮らし―」が開催されました。
藤澤先生はスライドを使って具体的な作品を紹介しながら、浮世絵は大人から子どもまで庶民が気軽に楽しんだメディアとしても活用されたこと、そしてくもん浮世絵コレクションに見る江戸の子ども文化の豊かさなどについて講話をされ、会場のみなさんは熱心に耳を傾けていました。

日本が幕末に開国して以降、多くの浮世絵がヨーロッパに渡りました。ゴッホをはじめとした印象派の多くの画家たちはオリジナリティあふれる浮世絵の表現や画題に衝撃を受け、表現を模索し、多くの名作を制作しました。また北斎の浮世絵に感銘を受けて代表作「海」を作曲したドビュッシーはその作品を楽譜の表紙に採用し、クリムトで有名な19世紀末ウィーンの芸術運動においては、多色木版画によるグラフィックデザインが生み出されるなど、浮世絵はヨーロッパの芸術に多大なる影響を与えたのです。そのため、このようなヨーロッパにおける「芸術作品として浮世絵」という認識が逆輸入される形で日本にも広まることとなり、現代にいたります。
しかし藤澤先生がお話されるように、浮世絵はもともと、テレビや雑誌と同じように庶民が気軽に楽しんだメディアです。そしてそんなメディアだからこそ、江戸の庶民のリアルな日常や価値観が色濃く描き込まれており、現代の私たちにそれを伝えてくれるのです。
栃木市立美術館で開催されている企画展「くもんの子ども浮世絵コレクション 遊べる浮世絵」を通じ、「子どもの天国だ」と外国人たちに賞された江戸・明治の子ども文化や子どもに対する大人のまなざしを、多くの方々に感じていただきたいと思います。

関連リンク

栃木市立美術館公式サイト

くもん子ども浮世絵ミュージアム

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