今回のキャラクターをあしらったPRツール
初めて「くもんの子ども浮世絵コレクション」というタイトルをご覧になられた多くの方々が「えっ!くもん?あの公文式のくもん?」と驚かれたことと思います。実は公文教育研究会では約3,200作品もの子ども浮世絵を中心とした文化史料を収集し、研究を行ってきました。
くもんが子ども浮世絵を収集している理由からお話ししましょう
風流おさなあそび(男の子)歌川広重 |
公文教育研究会は公文式学習法で日本を始めとして世界50を超える国と地域に広がりを見せていますが、どこの国の公文式教室でもその主役は「子ども」です。
そこで公文教育研究会は1986年に公文式の主役である「子ども」の生活や文化、そして歴史を知る方法を模索し始めました。ところが世界のいずれの国でも「教える側」の教育の歴史について書かれた文献はあるものの、主役である「子ども」の生活や文化について書き残されているものは殆どないことが分かってきました。そんな折フランスの歴史学者フィリップ・アリエス(Philippe Aries, 1914-1984)の絵画史料を使った子ども研究手法に触発され、公文教育研究会は江戸時代以降の子ども文化を浮世絵から探れるのではないかという発想にたちました。そして、子どもの生活の様子が描かれた浮世絵や子どもが遊びに使ったおもちゃ絵を中心に収集と研究を進めてまいりました。
この度の練馬区立美術館では公文教育研究会が所蔵する子ども文化史料の中から「遊び」をテーマとして約170作品を厳選して展示いたしました。
練馬区立美術館で今回の「遊べる浮世絵展」を企画された学芸員の加藤陽介さんに企画にかけた思いをお伺いしました
―くもんの子ども浮世絵「遊べる浮世絵」展の開催に込められた想いをお聞かせください。
開会式が終わりいよいよ入場 |
公文教育研究会が収集された子ども浮世絵は、これまでにも何度か展覧会等で拝見してきました。
これは世界的にも例を見ない子どもに特化したコレクションであること、そして構成の仕方によって幾通りもの見せ方が可能であることは確信していました。國學院大學文学部哲学科教授の藤澤先生の監修を得ることで、”遊べる“という立体的な展示が叶い、かつ当館がこれまで力を入れてきた教育普及活動とリンクすることで、今までの浮世絵展とは違う展覧会のあり方、客層が見込めるという期待も膨らみました。
―今回の展覧会の企画で工夫された点や特に力を入れたイベントをご紹介ください。
巨大な人間双六 |
絵を楽しむ浮世絵展と教育普及活動の融合により、展示物を原本とした楽しみの広がりを感じていただける点でしょうね。
フリースペースに設置した巨大な双六は展示空間と遊びのスペースを繋ぐものです。また、子どもたちは実際に工作することが大好きですから、予約などなしでその場、その空間を提供する“さんでー工作”(日曜のみ開催)は試みとして大成功だったと思います。
―観覧者の方々のご感想や記憶に残るエピソードがあればご紹介ください。
保護者連れや保育園で双六を楽しんだ子どもたちが、ここがフリースペースであることがわかると、また遊びに来てくれる。子どもたちが自主的に来館してくれるのが印象的でした。
―他の浮世絵展と違う感触や手ごたえがあればご紹介ください。
さんでー工作(日曜日のみ) |
これまで浮世絵では清親展、国芳展、芳年展と一人一人の絵師の展覧会を開催してきました。
そうした展覧会に足を運んでいただいた人たちにヒアリングしてみると、今回の「遊べる浮世絵展」は様々な時代の数多くの人気絵師の作品が見られて楽しかった、勉強になったという声を聞きました。また、子どもをテーマとした生活密着型の浮世絵なので今回は作品解説も多めにしたところ、お客さんが興味を示して、滞在時間の長い鑑賞となっていました。
―公文教育研究会が所蔵している子ども浮世絵や文化史料を実際に展示してみて、どんな点に魅力を感じましたか。
子どもに特化することで、子どもを大切にした江戸の生活ぶりがよくわかる点が魅力的でした。研究者としては、浮世絵の購買層の変化や時代によっての視点の変化が大変興味深かったです。浮世絵に対するジェンダー論はある時期に急先鋒的に盛り上がりましたが、その後落ち着いてからの後処理が放置されたままです。そうした意味で、公文の子ども浮世絵コレクションは大変有効な研究資料になると私は考えています。
―観覧者の層で特徴的なところがあればご紹介ください。
当館はおしなべて高齢者が多くを占めています。そうした中で今回の展示はやはり子ども連れのお客さんが目立ちました。また、通常の浮世絵展と比べると圧倒的に中学生以下の子どもたちの入館が多かったですね。
―その他、お伝えしたい想いは。
坂田怪童丸 歌川国芳 |
広報的には苦戦をしました。ポスター・チラシなどなるべくヴィジュアル的に楽しいものを作りましたが、一般の人が持つ“浮世絵”に対するイメージと“子ども浮世絵”という言葉を合致させるのが難しかったです。でも、実際に見ると「大変おもしろかった」という声をお聞きすることができました。第一印象との違いが大きかったということだと思います。つまりやはり“子ども絵”という言葉がまだ定着しているとは言い難いので、私たち研究者には今後も研究、調査、広報等をすすめていく余地が残されていると感じました。
今回の「くもんの子ども浮世絵コレクション「遊べる浮世絵展」は観覧された皆様にとっても、主催された学芸員さんにとっても学びや気づきが多かったようですね。
公文教育研究会が特別協力して展示した子ども浮世絵を始め、所蔵する全ての浮世絵作品をWebサイト「くもん子ども浮世絵ミュージアム」で簡単に検索してご覧いただけます。
関連リンク くもん子ども浮世絵ミュージアム