フランス語を始めたきっかけは、フランス語で書かれた本を自力で読めるようになりたいという想いから
熊谷さんは幼少期から公文式国語、数学、英語を学び、数学と英語は最終教材まで修了しました。公文式フランス語を始めるきっかけになったのは、友だちがラテン語を学習していたことに刺激を受け、当時興味を持っていたグロタンディークという数学者のフランス語で書かれた本を自力で理解できるようになりたいという想いからでした。高校1年生でフランス語の学習を始めて約1年間という速さで最終教材まで修了した熊谷さん。入会の際には、一番最初から始めさせてほしいと中島先生にお願いし、4A教材から開始しました。初月には1000枚ものプリントを提出して、中島先生をあっと驚かせたそうです。
その当時を振り返り、中島先生は「熊谷さんからは、入会するからには最終教材まで進みますという意気込みを感じました。ご自宅から教室までの距離が遠かったこともあり、頻繁には教室を訪れませんでしたが、たまに来ては100枚~200枚の学習したプリントを持ってこられ、1回来ると長い間黙々と楽しそうにプリントを解き進めていました」と話してくださいました。
そんな熊谷さんも、学習中にスランプにあったことがあるとか。1か月ほど教材を解かない時期があったそうです。その時に出合った本がフランス語で書かれたカミュの『異邦人』でした。E教材を学習中の当時、「全体を流れる重低音がスルスルと読み取れたんです」とあの時の驚きと感動がよみがえるかのように目をキラキラさせながら語ってくれました。この感動体験が熊谷さんの学習スランプを乗り越えるきっかけになり、その後のフランス語教材を解き進めることにつながりました。
教材にのめり込み最終教材修了、現在6言語を学習中
フランス語L教材(最終教材) プルースト『失われた時を求めて』 |
本との出合いにより学習の後押しとなった熊谷さんは、公文式フランス語教材への熱い思いも持っていました。
“私が公文式フランス語のカリキュラムで特に楽しみにしていたのは、最終教材に出てくるプルースト著『失われた時を求めて』 («A la recherche du temps perdu», Marcel Proust) という文学作品です。この題材を教材のフィナーレに選ばれていることにとても感激しました。フランス語教材でプルーストの作品は最高のしめくくりだと思いますし、20世紀最高の文学作品の冒頭部分を教材として学べるのが本当に嬉しかったです。最終教材に出てくるプルーストの作品に限らず、公文式フランス語の文学作品のどれもがよりすぐりの選定だと思っています。最近の教材改訂で、サン=テグジュペリ著『星の王子さま』 («Le Petit Prince», Antoine de Saint-Exupéry) が入ったと聞いて「ついに……!」と嬉しくなりました。”
教材で選定されているストーリーは有名な文学作品や歴史、評論などの本が多く、そのストーリーを読むことで、単語や文法を学びながらフランスの文学や歴史、思想に触れることができます。2019年8月にフランス語教材を修了した熊谷さんは、歴史や哲学で書かれている本を原書で読みたいという想いから、現在ドイツ語、ロシア語、ラテン語、古典ギリシア語、アラビア語、そしてスペイン語を独学しています。2020年2月には、日本言語学オリンピックにも出場し、金賞を受賞されました。
本を読むときに必要だと思うことは、自分の感性を信じること
哲学や思想、文学などの本から外国語の扉を開いた熊谷さん。どのように良書と出合ったのか、また本を読む上で大切にしていることをお話しいただきました。
“世の中にある全ての本を1人で読むことは一生をかけても不可能です。だからこそ、自分が読む価値のある良書を選択することが大切だと思います。具体的には「自分に合う本を見つけて芋づる式に関連した本を見つけていく」という方法がおすすめです。ジャンルごとにいろいろな本を読むのもよいのですが、私はそのジャンルについて信頼できると思う著者の本を一気に読み通して、その思考を丁寧に読み解くのが好きです。自分の好きな方法で自分に合う本を探すことができれば、それが一番良い本だと思っています。
私は永井均という読破したいと思う哲学者に出会いました。永井さんの著書は多数出版されているので、これから一生をかけても1冊1冊を読んでいこうと思っています。自分が納得できる座右の書を見つけるまでは、何年もかけて何千冊もの本を読んでたどり着くものだと思います。幸運なら数冊の中から見つかり、不運なら何万冊をかけても見つからないかもしれません。しかし、読める言語が増えると、興味や視野が広がり自分に合う良書を見つけられる確率が増えますし、もしかすると公文式の教材のなかにそのような良書に出合えるきっかけを見出せるかもしれません。”
私の思う日常生活の豊かさは、自分の感性で選択したことを信じ、それを楽しめるか
最後に、これからフランス語を学びたい方へのメッセージをお話しいただきました。
“私はフランス語を勉強することに多くの時間を注ぎましたが、将来どのような形で役に立つのかはわかりません。しかし、自分の感性で選択したことを信じ、それを楽しめるということは素敵なことだと思っていますし、それが人生の豊かさ、心のゆとりにつながると信じています。
フランス語学習を始める動機が受験や旅行などの外的な要因のためではなく、内なる声からであることを理解してくださり、学習ペースに緩急のあったフランス語学習を温かく見守ってくださった中島先生は、私にとって恩師であり、感謝してもしきれません。このインタビューを通じてみなさんが、フランス語やフランス文学も楽しめるようエールを送ることができたら嬉しいです。”
自ら学習を継続していくこと、そしてその過程で未知の課題に出合った時、それを上回る知的好奇心で難題への突破口を見つけ突き進む姿は、公文式が目指す自立した学習者の姿といえるのではないでしょうか。熊谷さんの学習姿勢や方法からもそう感じることができました。熊谷さんの今後の活躍がとても楽しみです。
フランス語を学ぶことでフランスの文化や生活、思想に触れてみてほしい
熊谷さんを指導されていた中島先生に、熊谷さんの印象深いエピソードとこれからフランス語を学習される方へのメッセージをお話しいただきました。
“周りの学習者も熊谷さんのすごさに近寄りがたい雰囲気がありました。遠くから憧れのまなざしでみていた方が多かったです。教材を解きながら、「やっぱり、そういうことだったのか!」と学習中にさまざまな言語の法則を発見して合点がいったときの満面な笑顔は、今でもとても印象に残っています。自分の気持ちをフランス語で話すこともあり、教室のスタッフもこれまで見たことがないと驚いていました。伸びる生徒はきっちりコツコツ学習枚数が安定しています。来室回数はマイペースでも学習ペースは落とさない、質問も細やかにされる生徒は伸びます。熊谷さんはそんな生徒でした。底力があるので、将来の日本を任せたら頼もしいなと感じました。
これから新しい外国語を学ぶ方には、その外国語を学ぶことで文化や生活、思想に触れてみてほしいと思います。新しい発見がたくさんあるでしょう。図書館や美術館に行くつもりで気軽に公文のフランス語を捉えてみてはいかがでしょうか。”
常に目の前の学習者を認め、ほめ、励ましながら学習者の主体性を引き出す中島先生の姿が、熊谷さんにとって学習の後押しとなったのは言うまでもありません。中島先生が熊谷さんの可能性を信じ、「人から教わるのではなく、自分の力で解き進むことによってこそ本物の学力が身につくこと」を信じて指導されたことが、公文式学習で自立した学習者を育てることになるのだと気づかせてくれました。
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