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Vol.216 2017.07.04

高齢者介護施設が学び合う場

介護される側も、する側も
「自信」「意欲」「誇り」を引き出す
「学習療法」の広がり

超高齢化社会を迎えた日本において、認知症高齢者への介護は大きな課題のひとつとなっています。公文教育研究会は、2004年より高齢者介護施設での「学習療法」の展開に取り組み、現在では全国約1500の施設に学習療法が導入されています。最近では、学習療法を利用者のケアにどう活かしていくか事例を交えて学び合う場が全国各地で開催され、学習支援にあたっている施設スタッフ同士の交流の場が広がっています。そのひとつが「関東広域マスター勉強会」。第33回勉強会が、5月23日に千葉県松戸市にある「介護老人保健施設まつど徳洲苑」で行われました。

目次

高齢者の「意欲」をかきたてるさまざまな工夫

公文式「学習療法」を共通言語に学び合う高齢者介護施設

学習療法とは、簡単な「読み書き」「計算」と「コミュニケーション」によって認知症高齢者の脳機能の維持・改善を図る「非薬物療法」のこと。2001年から3年間行われた、東北大学の川島隆太教授を中心とする研究グループと高齢者介護施設、公文教育研究会との共同研究によって学習療法が、高齢者の脳機能を活性化させることが明らかとなりました。そして2004年、当会は、全国の介護施設へ学習療法の導入・実践をサポートするため、学習療法センターを設立しました。

導入施設による学習療法の実践が進む中、首都圏で学習療法を導入している施設の学びと交流の場として、2010年に「関東広域マスター勉強会」がスタートしました。各施設でどのような工夫がされているのか、そしてどんな効果が表れているのかを、施設のスタッフ同士が学び合うことで高齢者介護の質向上を図っています。

今回の勉強会は、「医療法人沖縄徳洲会 介護老人保健施設まつど徳洲苑」で開催されました。茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川の14施設から約40名が参加。まつど徳洲苑での学習療法の見学の後、グループに分かれての意見交換というプログラムでした。

同苑では、入所介護サービスの利用者を対象に、週に3回以上、30分程度の学習療法を実施しています。学習療法の時間を「粋々(いきいき)大学」と名づけて、スタッフが「大学の時間ですよ」「今から大学に行きましょう」と声をかけるなど、利用者の意欲をかきたてるためのさまざまな工夫が凝らされています。

また、介護スタッフに限らず、ケアマネージャー、看護師、管理栄養士、事務員まで、全63名のスタッフが所定の研修を受けて「学習療法実践士」の資格をとり、導入当初から「施設全体での取り組み」として、お互いにカバーし合う協力体制がしっかりと整えられています。

「粋々大学」では利用者の方もスタッフも、お互いに笑顔で学習が進められています。同苑のスタッフは、こんな話をしてくれました。 “ある利用者の方は、粋々大学が本当に好きで、「大学に行きましょう」と自分から言ってきてくれるんです。学習療法を始めてから記憶力も改善し、最近ではお孫さんの電話番号まで覚えてしまったんですよ”

参加者が勉強会で得る学びとは?

「施設全体で」が共有されたまつど徳洲苑。
職種を超えた協力体制

公文式「学習療法」を共通言語に学び合う高齢者介護施設

利用者の方の「楽しい」を大事にしている粋々大学の様子を見学した後は、参加者の皆さんがグループに分かれて、見学の感想や自施設の状況など、活発な話し合いが行われました。

「会議や突発事項が入ると、学習療法の予定変更をお願いしないといけないことがある」という悩みを抱えている施設のスタッフは、同苑での職種を超えた安定した協力体制に「学習者も安心して『通う』ことができているように感じられた」と語っていました。

また、施設のあちこちに「粋々大学」の文字が飾られている様子を見て、「施設全体で学習療法に取り組んでいるという姿が見受けられ、スタッフにとっても利用者さんにとっても、気持ちが盛り上がる環境が作られている」という感想もありました。

他のグループでは、「利用者さんからの反応がなく、もしかしたら学習が苦痛なのかもしれない」と悩んでいるという声も。この悩みに対して、まつど徳洲苑のスタッフからは「ご家族にうかがってみては?」というアドバイスがありました。「利用者さん自身が嫌だと思っていたら、それをご家族に話すことが多いんです。ですから、ご家族とのコミュニケーションを大切にしています」という回答に、深くうなづいていました。

また、学習支援に携わるスタッフの研鑽機会については、「勉強会を開いたり、チェックシートを活用してスタッフ同士でレベルチェックをしたり、あるいはアンケートをとって振り返りをしたりしている」という同苑の工夫に、しきりに感心している姿も見受けられました。

勉強会への参加がモチベーションアップに

公文式「学習療法」を共通言語に学び合う高齢者介護施設

勉強会に参加されていた「医療法人社団優和会 館山ケアセンター夢くらぶ」(千葉)の3名に、インタビューをしました。過去にも勉強会に参加したことがあるという佐藤さんは、こう語ってくれました。

“自分の施設をより良くするために、という気持ちで参加しています。いろいろな情報を得て帰ると、自身も含めてスタッフのモチベーションが上がるんです。他の施設ではそんなふうにしているとか、他の施設も同じように苦労されていると思うと、「うちももっと頑張ろう、こういうふうにしてみよう」と思えるんです”

今回初めて参加したという堀川さんは、「これまで他の施設の取り組みを知る機会がなかったのですが、今回初めて勉強会に参加して参考になることが沢山ありました」と語ってくれました。

実際に学習療法を導入したことによって、さまざまな変化があったと言います。

“普段すれ違っただけで、利用者さんの表情の変化に気づくようになりました。それと、何より自分自身のコミュニケーション能力が高まったという実感があります。ほめると言っても、なかなか言葉が見つからなくて、最初はすごく戸惑いがありました。でも、経験を積むことによって、少しずつバリエーションが増えてきて、「少しは自分も成長したのかな」と思えたりするんです”と佐藤さん。

また、小原さんは利用者の様子について、 “「今日は学習療法はないの?」と言ってくれる方もいて、利用者さんにとって、学習療法が「勉強」というよりも「楽しい時間」となってくれているのかなと。そういう楽しみができたことによって、笑顔も増えてきていると思うと、学習療法を導入して良かったなと思います”と語ってくれました。

「学習療法はやること自体が目的ではなく、学習療法を通じて施設のケア向上や、ご家族との信頼関係をさらに深めたりと、地域により貢献できるような施設になっていただきたいというのが一番の目的」。そう語るのは、学習療法センターで首都圏の介護施設をサポートしている庄司です。「このような勉強会で、他の施設での取り組みを知り、自分の施設と比較してみることで、自分たちの仕事の効果や価値というものが見えてくるものがあるのだと思います」と勉強会の意義を語ります。

認知症高齢者、介護スタッフ双方の「自信」「意欲」「誇り」を引き出す――それが学習療法です。

関連リンク 学習療法センター 「学習療法」は介護現場の光になれるか|KUMON now! 認知症高齢者を支える周りの方々にも「希望の光」を|KUMON now! 新たに見出された学習療法の効果とは?|KUMON now!

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