アライバルオリエンテーションで「日本語テスト」に挑戦!?
学力診断テストに取り組む留学生 |
2015年3月に来日した留学生(3月~翌年1月までの年間生、3月~7月までの前期生含む)は、世界20か国・計77名の高校生たちです。約1週間、都内の施設でアライバルオリエンテーションに参加した後、全国のホストファミリーのもとへ旅立っていきます。
オリエンテーション初日には、YFU日本の江夏専務理事の歓迎のご挨拶、オリエンテーションを運営するスタッフの紹介のあと、さっそく公文式学習のオリエンテーションが行われました。公文式教材は通信学習方式で提供されること、一人ひとりの留学生に公文の指導を担当する地区委員(YFUのボランティアスタッフ)が一人つくこと、そして現在の日本語力を診断し公文式教材の適切な出発点を決める「学力診断テスト」を受験してもらうことなど説明を受けると、期待と不安、驚きの混じったざわめきが聞こえてきました。興味津々といった感じで資料を食い入るように見つめる学生もいます。
学力診断テストは、学生全員がひらがな・カタカナの読み書きの力を見る最も簡単なレベルから受験を開始。初級・中級とレベルごとに計3種類のテストがあり、自分の日本語力に合わせて初級から順にチャレンジしていきます。最も簡単なレベルで早々にギブアップする学生あり、最難度のテストに時間いっぱいまでチャレンジする学生ありという感じで、それぞれに頭をフル回転して挑戦してくれました。
学力診断テストは即時採点され、一人ひとりの学生の出発点教材が決定されます。そして、この日の夜には最初の2レベル分のプリント教材が渡されました。意欲的な学生は、オリエンテーション期間中にかなりの枚数の教材を学習してしまったそうです。
「日本語をどのように学ぶのか」ということは、学生たちの一大関心事であり、大きな不安要素でもあります。YFU日本と公文が長年の試行錯誤と改善によって作り上げてきた通信学習方式は、留学生たちの来日直後の不安を解消し、意欲的に日本での留学生活のスタートを切ることに役立っています。
「公文式の学習システムは、YFUの留学生サポート体制に一番マッチしているのです」
江夏啓子専務理事 |
長年、YFU日本の運営責任者を務める江夏啓子専務理事にうかがいました。
「YFUの活動の趣旨は、ホストファミリーの家にホームステイしながら学校に通い、異文化生活体験を通して国際相互理解を図る、というものです。高校生が受け入れ国に行き、異文化適応するプロセスを通じて人間的に成長していきます。苦労したり葛藤したりしながら、自立心やグローバルな感覚が育まれます。こうして高校時代に経験した国際相互理解が、ひいては世界の平和につながると考えています。
YFUのプログラムに関わる人は、ほとんどがボランティアです。ホストファミリーもそうですし、学校にも無償で受け入れていただいています。それからサポートする地区委員もそうです。ホストファミリーに無償で引き受けてもらうということは家族の一員になるということです。お金を払うプログラムではないので、その分しつけやルールを守るなどその家庭になじまないといけません。だからこそ、帰国後も人間関係がずっと続いていきます。ひいてはこの関係が国際相互理解や文化や言語を超えた国と国との結びつきにつながると考えています。日常の生活を共にしながら、日本人の考えや習慣を理解する若い人を育てていく必要があります。彼らがこれからの本当の国際関係を作っていくんじゃないかと思います」。
「言語力と適応力は相関します。言語力だけがコミュニケーション力ではありませんが、やはり言葉を学ぶということは影響が大きいです。日本に来るまでの間に十分に日本語を学べるチャンスがあるかというと、それほどではありません。日本に来てから一定期間、日本語教育を行うのは以前もやっていました。ただ、一か所に集めて教えることが必要であり、その期間は地方のホストファミリーのところに行けなかったのです。それなら生活させながら言葉を学ばせたほうがいいと考え、様々な方法を検討した結果、公文式がYFUのサポートシステムに一番マッチしているという判断になりました。公文式は、ホームステイして学校に通いながら、自分の自由な時間に自分の日本語力のレベルに合わせて学習できるからです。
YFUには全国に300名のボランティアがいます。その中から学生一人ひとりに対して公文の指導担当をつけています。学生一人に担当の先生を一人つけるということがとても大事なんです。言葉の学習は『自分一人でやりなさい』と言われたら大変なんですね。1対1でカウンセリングというか励ましの言葉をかけてあげて、その子に寄り添った指導をすることが日本語の上達には有効です。公文式はひとつの段階を終えたら次の段階に進めますから、本人も『やればやるだけ上達するんだ』という認識が持てます。機械的にサテライトでやる方法もありますが、それは血が通っていません。やはり顔が見える指導が大事じゃないかと思います。そういう意味でも公文式は素晴らしい方法だと思います」。
公文式は一つの学習法であるだけでなく、周囲の人たちとの良いコミュニケーションツールにもなります
地区委員 功刀峰子さん |
神奈川地区の地区委員として留学生の公文式指導に携わる傍ら、アライバルオリエンテーションの運営にも関わっている功刀(くぬぎ)峰子さんに、留学生の生活や学びの様子についてうかがってみました。
「留学の期間は1年間と決まっているので、その中でたくさんの経験やなるべく良い体験をして欲しいと願っています。そのためには、コミュニケーションをとるというのが一番大事です。そして、コミュニケーションをとるためには言葉が必要です。公文式教材を使うことは、読み書きの力を伸ばすのに非常に大きな効果があります。通信学習ですので、教材を送ってもらい、採点をして送り返すということを繰り返しますが、そのときに必ず手紙を添えて送るようにしています。読むことと書くことは公文式学習で本当に上手になります。3月に来日した留学生は、帰国する時の最後のオリエンテーションを12月末に行いますが、全員に作文を書いてもらい、それから体験談発表のスピーチをしてもらいます。そのときには全員が漢字かな混じりの作文がきちんと書けるようになっています。本当に素晴らしいです。若い人たちの学ぶ力はすごいなと思います。一所懸命やった学生は相当なレベルの日本語を習得しています。皆さんにお見せしたいくらいです。
公文式は一つの学習方法ではあるものの、私たち地区委員にとっては学生を幅広く指導できる非常に使いやすい方法です。一日の中で1時間ぐらい自由時間がある学校も多いのですが、中には公文の日本語教材を学校に持って行ってその時間で学習し、その時に先生に『こんなことをやってるんだね』と興味を持ってもらったり、日本人の学生が教えてくれて良いコミュニケーションの機会になるという学生もいます。また、ホストファミリーとのやりとりがうまくいっていない場合などは、公文式学習の進み方にもその影響がすぐに表れます。公文は、学生たちの生活やメンタルな状態を把握するうえでも非常に有効なツールになっています」。
「私が担当したある男子学生は『なぜ日本に来たの』と聞いたら、『日本のマンガが大好きなので、日本に来て日本語でマンガを読みたかった』と言っていました。そして『日本語も頑張る』と言っていました。公文のスタートは3A教材(ひらがなの読み書きの基礎レベル)でしたが、最後はL教材(原書読解を行う最終レベル)まで進み、日本語能力試験1級に合格しました。彼はとても優秀な学生でしたが、秋葉原とマンガが大好きな学生でした。お小遣いで毎週マンガを買い、本国にも送っていました。日本に興味を持つ入口は、マンガであっても、アニメであっても、音楽であっても、映画であっても何でもいいと思うんです。それがきっかけで日本に興味を持ち、実際に日本に来て生活して、いろんなことを学んでくれるのは、私たちにとっても本当に嬉しいことです。文化の違いを面白がったり、びっくりしたり、そういう経験をたくさんしてくれると嬉しいなと思います」。
最後に、もう一度江夏専務理事の一言で終わりましょう。
「私たちは幸いなことに世界60ヶ国にパートナーがいますので、そういう面で世界の相互理解に貢献できると思っています。YFU日本では、諸外国の要望に応えられるように日本の受け入れの土壌をもっと広げていくことが重要だと考えています。個々の力だけではできないので、コミュニティーの協力や周りの方々の協力をいただくことが必要だと思います。日本語習得の面では、公文式のおかげで受け入れた学生たちが帰るときは日本が大好きになり『また帰ってくるよ』と言いながら帰国しています。公文の協力によって言葉の教育が充実していることは大きいなと思います。本当にありがとうございます」。
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