社会課題を可視化する企画づくり

今、私は新聞社の企画部門で働いています。扱うテーマは、サステナビリティや多様性、そして教育など、社会が抱える課題そのもの。企業や行政、研究者、NPOなど、多様な立場の人たちと協力しながら、勉強会やシンポジウム、紙面・Webでの発信を企画しています。
ひとつのプロジェクトは短くても数か月、長いものでは一年以上続きます。会場の設計から登壇者の人選、取材、紙面化までをトータルでプロデュースし、社会課題を「見える形」にすることが、私の仕事です。
今、特に力を入れているのは「ダイバーシティとインクルージョン」です。ダイバーシティとは人材の多様性を認め互いに受け入れ合うこと、そしてインクルージョンは多様な背景をもつ人が社会で自然に受け入れられるためには、制度や仕組みだけでなく、“心の空気”を変えていくことが大切だと感じています。けれども、それは一朝一夕にできることではありません。だからこそ、さまざまな立場の人々が対話し、少しずつ理解を広げていく「場づくり」を大切にしています。
私はこの仕事を通して、誰かの価値観や行動が少しでも変わる瞬間に立ち会えることにやりがいを感じます。例えば、ある企業の経営者が「ダイバーシティは経営のエンジンになるのですね」と話してくれた時。その気づきが次の行動につながっていくのを見た瞬間、社会を動かす種が芽生えたように思えて、胸が熱くなります。
社会課題を扱う仕事は、答えがない世界です。だからこそ、焦らず、長い時間をかけて「変化をデザインする」視点が必要になります。いつも、企画書や提案書の最初のページには“誰のどんな課題を解きたいのか”を書くよう心掛けています。それを考え抜くことが、すべての出発点です。
日々の業務では、目の前の締め切りや数字に追われることもありますが、原点にあるのは「人と社会をより良くつなぐこと」。それが、私がこの仕事を続ける理由です。多様な人たちが、それぞれの違いを認め合いながら共に生きる社会――それは、私にとって“理想”というより“使命”に近いものになっています。
多様性に「出会った」
教室で感じた世界の広がり
ジェンダー平等活動家Yasminaさんと。
世界中どこでも同じビジョンがあれば即、意気投合
振り返ると、この「人と人をつなぐ仕事」への関心の源には、子どもの頃から育まれてきた“学びの体験”がありました。幼いころ、公文式教室で感じた世界の広がりが、いまの私の価値観の核になっています。
私が通っていた公文式教室は、栃木県宇都宮市の住宅街にありました。けれども、その小さな教室の中は、まるで世界の縮図のようでした。アメリカから来た駐在員の子ども、タイの学生、日本語を学ぶ韓国人学生…、国籍も年齢も異なる生徒が、同じ机に向かって学んでいました。学校ではなかなか出会えない人たちと自然に言葉を交わし、学び合える場所。教室の中には違いが当たり前である空気が流れていました。
その光景を子どもながらに不思議とも思わず、学習における壁がないことが自然なこととして受け止めていたことが、今振り返るととても大きな経験でした。「人はみんな違うけれど、それでいい」、そんな感覚が、あの頃すでに心の中に芽生えていたのだと思います。当時の学習環境が、今の私の多文化共生社会への関心の原点になっています。
学びの内容そのものも、私にとって大切な土台をつくってくれました。算数・数学、英語、国語の三教科を学び、特に英語は最終教材まで進みました。プリントだけではなく、フラッシュカードやズンズン教材、音読など、五感を使った学習が楽しかったのを覚えています。机に向かうことが苦にならず、「もっと知りたい」という気持ちが自然に続きました。
また、公文式国語教材には“生きた言葉”が詰まっていました。たとえば、マザー・テレサやキング牧師、緒方貞子さんといった、世の中ために行動した人たちの物語。音読しながら、彼らの言葉の一つひとつが胸に残りました。
「言葉には、人の心を動かす力がある」。そのことを初めて実感したのも、教材を通してだったように思います。言葉を大切にする意識は、今企画や発信の仕事をするときにも常に意識していることです。
そして何より、公文式学習を通して身についたのは、自分のペースで進む力でした。年齢や学年にとらわれず、昨日の自分より少しでも前へ…。その積み重ねが、挑戦する勇気につながりました。あの教室で感じた安心感と刺激のバランスは、私の中で「学ぶことは楽しい」という感覚として、今も生きています。当時の教室は勉強の場であると同時に、人と出会い、考えるきっかけをもらえる場所でした。
GICへの参加
英語で世界と「出会った」夏
小学4年生の夏、私はKUMONのGlobal Immersion Camp(GIC)に参加しました。当時は英検4級を取ったばかり。英語が好きで、話せるようになりたいという気持ちが一番強かった頃でした。先生にすすめられて応募したのがきっかけです。
GIC会場に足を踏み入れた瞬間、私は文字通り“世界が広がる”体験をしました。目の前に、肌の色も言葉も違う人たちが立っていて、「ここにはいろんな世界があるんだ」と感じたことを、今でも鮮明に覚えています。それまでの私は、英語を語学学習として捉えていました。でもGICではそれが一変します。
キャンプ中はすべて英語。毎日、歌やダンス、ゲーム、ディスカッションを通してコミュニケーションを取りました。間違えても笑い合える雰囲気の中で、「英語は人とつながるためのツールなんだ」と体感しました。
初日は緊張して口数が少なかった私も、気づけば笑顔で話し、歌い、踊っていました。最後の日には、仲間と肩を組んで「We Are The World」を歌い、涙が止まりませんでした。あの瞬間に感じた“世界と自分がつながる感覚”は、これまでの人生で何度も思い出す原点になっています。

そして、このキャンプで出会ったフィリピン出身のキャンプリーダーのマリアンさんが、私の人生を大きく変えたのです。ある日、GICの活動中に彼女が「毎日学校に通えるのはすごいことなんだよ」と話してくれたのです。当時の私は、なぜそれがすごいことなのか、分かりませんでした。彼女の話を聞くうちに、教育を受けられない子どもたちが世界にたくさんいることを知り、「なぜ?」と考えるようになりました。
その疑問が、社会問題や国際協力に関心を持つきっかけになりました。後にマリアさんがロンドン大学に進学したことを知り、私も国際関係を学ぶために、マリアさんと同じ大学を目指すようになったのです。
EICで過ごした2週間は、英語力を伸ばしただけでなく、「世界を自分ごととして感じる力」を育ててくれました。学ぶ楽しさ、挑戦する勇気、そして文化の違いを超えて心を通わせる喜び、そのすべてが、今の私の生き方につながっています。
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後編のインタビューから -今に生きる公文経験伝える力・包み込む力 後編へ続く(近日公開) |








