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Vol.574 2025.12.23

「子どもを未来につなげる奨学助成プログラム」座談会

教育インフラを太く、かつ多層化する!
コレクティブ・インパクトが広がるDTWB×KUMONの協働

KUMONは企業や財団、NGO、自治体など、多様なパートナーの皆様との協働を通して、これまで公文式を学習していただけなかった方々にも、学習機会を提供し、社会課題の解決に貢献することを目指しています。
2022年からは、一般財団法人デロイト トーマツ ウェルビーイング財団(以下、DTWB)が展開する「子どもを未来につなげる奨学助成プログラム ~Collective Impactによる【食べる×学べる=Live Well】の実現~」に協力し、助成金を元に、様々な理由で学習支援を必要とする子どもたちに、公文式学習の機会を提供しています。
今回は、3年目を迎えた本プログラムのふり返りや、今後の展望について話し合った、DTWBとKUMONの担当者による座談会の様子をご紹介します。

目次

    ■座談会 参加者紹介
    一般財団法人デロイト トーマツ ウェルビーイング財団 理事/デロイト トーマツ グループ合同会社 マネージングディレクター 梅岡 勇人さん
    一般財団法人デロイト トーマツ ウェルビーイング財団 理事/合同会社デロイト トーマツ パートナー 村松 誠さん
    一般財団法人デロイト トーマツ ウェルビーイング財団事務局/合同会社デロイト トーマツ コンサルタント 内田 佳那子さん

    株式会社公文教育研究会 ライセンス事業推進部ソーシャルビジネス開発チーム リーダー 青山 真知子
    株式会社公文教育研究会 ライセンス事業推進部ソーシャルビジネス開発チーム 山本 栞

    「教育」は重要な社会課題
    「パッション」と「共感」でスタート

    ――DTWBでは2021年6月の事業開始以来、Well-being社会の構築を目指し、様々な助成事業を行っています。その中で今回、教育をテーマに据えた背景を教えてください。

    DTWB村松 誠さん
    DTWB 村松 誠さん

    DTWB(村松):教育に関しては、日本を含め世界において様々な課題があると個人的にも感じています。未来を担う子どもたちにとってWell-beingな社会をつくっていくことはDTWBの重要なテーマです。

    我々デロイト トーマツ グループには、2030年までに全世界で累計1億人の人々にポジティブなインパクトを与えていこうという「World Class」という取り組みがあります。そこには「教育」「スキル開発」「機会創出」という3つの重点分野がありますが、中でも「教育」は我々の社会課題認識における“一丁目一番地”と言えます。

    とはいえ、我々は必ずしも子ども教育の専門家ではないので、教育分野で実績をもつパートナーと組む必要がありました。我々は、社会課題領域の解決に取り組む多様な団体と協働するコレクティブ・インパクトの創出を促進しており、協働することで社会にインパクトを与えるために、パートナー選びはとても重要だと考えています。そこでKUMONとなら、お互いの力を掛け算して発揮できるのではと考え、お声がけさせていただきました。

    DTWB(内田):様々な教育の専門機関がある中で、KUMONにお声がけした理由は3つあります。1つ目は社会的インパクトです。教育ビジネスにおけるKUMONの知名度や信頼性はとても高いため、協働させていただくことで社会にもたらすインパクトを最大化できると感じました。2つ目は社会貢献への意欲です。KUMONは子どもだけでなく、施設に通う方や高齢者など、様々な状況にある方々に学びの機会を提供している実績があります。3つ目が発展の可能性です。子どもから大人まで一人ひとりに学習を提供し、また海外にも展開されていることから、KUMONとの協働により、本プログラムも様々な形で発展していけるのではないかという期待がありました。

    DTWB梅岡 勇人さん
    DTWB 梅岡 勇人さん

    DTWB(梅岡):教育は我々にとって重要なテーマで、KUMONは我々の助成プログラムや活動との親和性が高いと感じています。また「公文式」と言えば誰もが知っている強力なワードであり、我々の活動にとって大きな援軍だと実感しています。我々の助成プログラムには、「公文式」にひかれて応募される団体さんも多数いらっしゃいます。

    ――KUMONがDTWBのプロジェクトに参画することを決めた理由は何だったのでしょうか。

    KUMON 青山 真知子さん
    KUMON 青山 真知子

    KUMON(青山):私たちのチームは2021年7月に「ソーシャル」×「パートナー」を目的に立ち上がり、そのタイミングでDTWBからお声がけいただきました。DTWBの皆さんとの初回の会合で、今回弊社にお声がけいただいた理由と、目指していきたい目的をうかがうと、私たちと目指すところが近く、パッションと共感から具体の相談がスタートできました。

    もうひとつの理由としては、先ほど村松さんが「教育は専門分野ではないからこそパートナーと組む必要がある」とおっしゃいましたが、私たちも新しい挑戦として、社外の様々な方々と一緒に進んでいこうとしていたので、その点も重なりました。

    ――当初のお互いの印象はいかがでしたか。

    DTWB 内田 佳那子さん
    DTWB 内田 佳那子さん

    DTWB(内田):KUMONの子ども教育の専門性や認知度の高さは連携前から想像していた通りでした。「子どもを未来につなげる奨学助成プログラム」では助成内容により応募タイプが複数に分かれていますが、公文式学習を導入できるタイプのご応募が例年最も多いのは、間違いなくKUMONの社会的認知度・信頼度のおかげだと感じています。またご一緒させていただく中で、支援先の団体さんに対する励ましや寄り添いの言葉の紡ぎ方がすばらしいなと感じました。

    KUMON(青山):KUMONにとってはこども食堂での公文式学習の導入は初めてのことで、子どもたちが順調に学習できるようにと、どうしても学習の側面からの視点に寄ってしまうことがあり、もう少し施設全体を見る必要がありました。一方で、DTWBは施設を運営する方々にしっかり伴走されていて、現場の声もきちんと受け止めながら、いろんな方々の力を組み合わせて進められる様子を見て、パッションとともに柔軟性も併せもった方々なのだなと感じました。また、すぐに現場に足を運んだり、会議でテーマに上がったことは次回にはもうリサーチされていたりと、スピード感に驚きました。

    KUMON 山本 栞さん
    KUMON 山本 栞

    KUMON(山本):私もDTWBの皆さんのスピード感に驚かされることが、多々ありました。2024年1月の能登半島地震の直後に臨時会合を開催されるなど、すごいスピード感で社会課題の解決に本気で取り組まれる組織なのだなと思いました。

    実は、私は協働する前、DTWBについて「とてもクレバーな方々」という以外のイメージを思い描けていませんでした。実際に今回のプロジェクトをご一緒する中で、DTWBの皆さんはクレバーさとパッションを両立されていて、社会課題に対しても一人ひとりが、自分事として捉えることをとても大事にされていると感じました。とくに印象的だったのは、助成先のこども食堂の選考を「対話審査」とおっしゃっていたことです。単なる審査ではなく、対話と傾聴を大事にされているその姿勢に、相手へのリスペクトや懐の深さが伝わってきました。

    「勉強ができる」だけでなく
    「内面が成長」し「学びの姿勢」が変化

    ――そうしたお互いの相性の良さを実感しながらスタートしたこのプロジェクトですが、それぞれどのような強みを生かして役割を分担されたのでしょうか。

    KUMON(青山):DTWBの選考により助成先のこども食堂が決定後、私たちは各現場での公文式学習の立ち上げのサポートと、日々の学習コンサルティングをしています。個々の施設の現状を確認し、誰に対してどのような学習支援をしていくのかこども食堂の運営団体の皆さんと打ち合わせたり、研修を実施したりしています。

    KUMON(山本):個別の支援はもちろん、助成対象となっているこども食堂同士の情報交換会なども実施しています。

    DTWB(村松)

    DTWB(村松):KUMONの学習サポートは、「ここまでやるのか!」というくらいきめ細やかで驚きました。例えば「中学3年生の○○君は、こういう家庭事情があって学習姿勢はこうで」と、一人ひとりの顔を思い浮かべてフォローされています。言葉にすると「サポート」であることには違いないのですが、その「深さ」がものすごい。一人ひとりの学習者に対し、多大なエネルギーと時間をかけられていると感じましたし、このような学習サポートは我々だけではなかなかできないことです。

    一方我々は、助成先を選定して運営団体の皆さんに伴走したりネットワークを活用したりして、食材提供を含めたこども食堂運営の総合的な支援をしています。限られたエネルギーでのサポートではありますが、コレクティブ・インパクトを最大化するために、やれることは全てやる。それが我々の役割です。

    ――本プログラムがスタートして3年目に入りました。現場ではどんな変化が見られましたか。

    KUMON(山本)

    KUMON(山本):これまで12のこども食堂に、公文式算数・数学と英語の学習を導入しています。子どもたちの計算が早くなったり英語が上手に読めるようになるといった、基礎学力面の変化はもちろんですが、それ以上に大きいと感じるのは、内面的な成長です。学習に向かう以前に、学習の土台がもろかったり、精神的な面が安定していない子どもたちも多いのですが、「今日はこれができた」「じゃあ明日はこれをやろう」とひとつずつ進めていく中で、「自分にもできるんだ」「じゃあもっとできるかも」と、自信をつけていく姿が見られました。

    私の印象に残っている一人の中学生がいます。彼は当時不登校で、人と関わることに抵抗感があり、多くの人がいる中では手が震えて学習ができない状態でした。しかしこども食堂に通い、公文式で学習を続けていくうちに指導役の大人と信頼関係を築くことができ、今では自分から言葉を発したり、年下の子のお世話をしてくれるようにまでなりました。

    その後、彼はサポート校に進学したいという目標を見つけ、指導役の大人に相談しながら合格を果たしました。単に教材を提供するだけでは、こうした変化はなかったかもしれません。教材学習を通して、自分を見守ってくれる大人がいたことが、ひとつのきっかけになったのだろうと思います。

    DTWB(梅岡):実は私は、現場を訪問した後の帰り道は、社会課題を解決するというゴールの遠さに無力感に襲われることがあります。子どもたちに何をしてあげられるのだろうかとも思いますし、そもそも「してあげられる」と思っていること自体がその場限りの解決方法の話になってしまうので、この子たちがどうしたら自分たちで歩いていけるのかな、といつも思っています。

    支援先の運営団体の皆さんは「いつもありがとうございます」とは言ってくださいますが、胸を張れるほどの支援ができているのかどうか…。ただ、KUMONにサポートいただき、「学ぶ」が単なる「勉強」から、少しずつステップアップしている気がしています。こうした機会がなければ、ドリルや学校の宿題だけで終わっていたかもしれませんが、公文式学習の指導法を見て、運営団体の皆さんも「こうするといいのだな」と気づくきっかけになったのではと思います。

    ――協働する中で、お互いに学びになった点をお話ください。

    KUMON(青山):先ほども話に出たスピード感です。DTWBの皆さんの“現場の声を捉え、次に生かしていく”早さや柔軟さに、いつもすごいなと感じています。私たちはどちらかというと慎重なので、その組み合わせがいいのかもしれません。

    同時に私たちの考えもしっかり聞いて、よい具合に調整してくださること、そして懐の深さも、大きな学びになっています。私たちだけであれば、自分たちの基準だけで進めてしまい、これまでご縁がなかった団体さんもあったかもしれません。

    DTWB(梅岡)

    DTWB(梅岡):先ほども出ましたが、公文式学習は確立したメソッドがあるため「こうやるべき」となるのだと思いますが、こども食堂に来られるお子さんには、その対応が難しい場合があります。

    そうした中で、KUMONの皆さんはかなり丁寧にサポートされていると感じます。例えば、学習が遅れていると、その子の実際の学年よりかなり下の教材から始めることになりますが、その際、運営団体の皆さんは子どもの立場に立つので、「そこまで下げると、子どものモチベーションが下がるのでは」となりがちです。

    それに対して「なぜそこからスタートすることが大事なのか?」を運営団体の皆さんにとても丁寧に説明され、理解いただいた上で学習がスタートし、なおかつ子どもたちに対しても、きめ細やかに伝えています。単に教材を勉強させる、学習レベルを上げるということではなく、「勉強に対しての心遣い」がすばらしい。我々にとって大きな学びとなっています。

    DTWB(村松):こども食堂に通うお子さんの中には、十分な学習習慣が身についていないお子さんも多く、だからこそ公文式学習がフィットしたのだと思います。本当にKUMONがパートナーで良かったです。

    子どもを支えるインフラ強化へ
    「働く」へつなげていく

    ――DTWBは今年度から「働く」につなげる新たな挑戦にも取り組んでいます。どんな構想を描かれているのでしょうか。

    DTWB(内田):本プログラム立ち上げ時から一貫しているコンセプトは、「こどもたちの教育インフラを太く多層化させる」です。プログラム立ち上げ前の課題感として、子どもを真ん中にして、1層目に保護者、2層目に学校、3層目に民間組織や行政がある、と社会インフラを考えたときに、その一つひとつが細くて、うまくつながっていないのでは、そのため子どもたちが孤立してしまうのでは、という意識がありました。

    その一つひとつのインフラの層を厚くし、つなぎ合わせていくことで、必ずどこかの誰かがその子たちに気づき、支えることができる。そういう世の中をつくりたいという思いがあって、まず「食べる」と「学ぶ」を組み合わせて子どもたちと向き合いました。そうする中で、「働く」にまでつなげられると、より子どもたちを支えるインフラを強化できるのでは、と考えて新たな挑戦を始めました。

    ――子どもたちの「Live Well」を支える上で、これから社会全体に広げていきたいことはどのようなことでしょうか。

    DTWB(村松)

    DTWB(村松):ひとつは、社会全体からするとこの取り組みは小さいものかも知れませんが、当事者のお子さんたちがサポートを受けたことをきっかけに次の誰かに恩送りしていくような広がりやつながりができれば、ということです。もうひとつは、当事者のお子さんを支えるには保護者の方はもちろん、様々な方の共助が必要だと思うので、教材提供だけではなく、いろんな人を巻き込みながら皆で支える仕組みをもっと広げていく、そんな取り組みにしたいということです。

    KUMON(青山):日頃、支援が必要な子どもたちについて、ニュースでは触れていても、自分事になるのはなかなか難しいと思います。私たちは、「どの子にも可能性がある」と信じて活動しているので、同じように、一人でも多くの大人が子どもたちに関心が向くような取り組みになるといいなと思っています。

    KUMON(山本):DTWBの皆さんとの協働を通じて、違う背景をもつ人たちが集まることで、それぞれで活動していた時には生み出せなかったインパクトを起こすことができるのだと感激しています。異なる考えを取り入れ合うからこそ、解決できる問題があり、前に進めることがある。コレクティブ・インパクトとは、こういうことなのだと実感しています。この考え方自体を、DTWBや運営団体の皆さんたちと一緒に、広く伝えていきたいと思っています。

    DTWB(内田):個人的には、より中長期的な共通ビジョンをもって取り組みを積み上げていけると、より確実に社会に良いインパクトをもたらせられるのかもしれないと思いました。また一歩引いてみると、この活動は困難を抱えている子どもたちに対する対症療法的な側面があります。それも大事なことなのですが、やはりそもそも子どもたちが困難な状況に陥らないための「予防」にも関われたらいいですね。現場での声を政策に届けるなど、根本的な取り組みとして、また別の形で広げていけたらと思います。

    ――今後、DTWB×KUMONの協働をどんな形で進化させていきたいですか。

    KUMON(青山)

    KUMON(青山):私たちも試行錯誤しながら一つひとつ形にしている段階で、もっといいサポートのあり方を検討し、かつ深めていきたいです。限られた期間の活動であっても、先ほどの事例のように子どもたちの変化は確認できているので、その子たちの成長をさらに追うことができればと思っています。また活動の「広がり」という意味では、いろんな仲間が集まり、みんなでこども食堂に来る子どもたちのことを考えていく。そんな枠組みに進化していければと思っています。

    DTWB(梅岡):これからも各団体さんやKUMONといいチームをつくりたいと思っています。今回の座談会のように、お互いの思いや方向性を大切にしながら言いたいことを言えるような関係性を構築していくことにより、さらに支援に「広がり」や「深さ」が生まれてくるのではと思います。

    私個人としては、本プログラムの対象は誰でもいいというわけではなさそう、お子さんの状態や環境により、その子にもたらされるものが変わってくるだろう、と感じています。今まではこども食堂に対して学びを支援するということで、支援対象者の選定も各団体側にお任せしていますが、もう少し進化させて、「こういう子に公文式をチャレンジさせると、より大きな変化が期待できるのでは?」ということを、我々からも提案してもいいのかなと考えています。

    一方、我々が主催するプログラムではありますが、やはりKUMONには学びのノウハウがありますから、学びのプロフェッショナルとして、さらに深く入り込んでいただけると、成果ももっと最大化していけるのかもしれません。

    DTWB(梅岡)

    もうひとつ感じているのは、学習した子どもたちの長期にわたるフォローの必要性です。本プログラムは年度単位で実施するため、進度という成果は目に見えますが、助成期間が終わると終了してしまいます。しかし、子どもたちのLive-Wellを考えると、もう少し長い目で見守ることができるといいなと思います。「あの時の経験でこうなりました」という子どもが、一人でも出てくれば大きなインパクトですし、「その先」を把握しておくことは活動自体の成果にもなります。

    KUMON(青山):おっしゃる通りだと思います。長い道のりではありますが、その子の成長を見守るというのは大事な視点だと思います。私たちも運営団体さんとのご縁が切れるわけではないので、見守って行けたらと思いますし、さらに仲間が増えていく状態をつくっていきたいです。今日のこの雰囲気も含めて、重ねてきた月日は間違っていなかったと実感しました。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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