「アート好き」になったきっかけは、小さい頃の体験
一概にアートといっても、絵を描くこと・観ることが好きな人、デザイナーとしてお仕事をしている人、三味線や着物といった和文化に興味がある人、演劇に興味がある人など、参加者のみなさんとアートとの関わりはさまざまでした。
みなさんがアート好きになったきっかけは、何だったのでしょうか。お話の中で共通に感じられたのは、小さい頃の体験が大きく影響している、ということでした。
5歳の時に見た十字架にかけられたキリストの絵に衝撃を受けたのが、絵に興味を持つきっかけというママ、中学生のときに観た「劇団四季」に感動し、それ以来ずっと劇団四季ファンというママなど、小さい時に見た絵や舞台がきっかけとなった方がいました。感受性の強い時期に見たものは印象に残るのですね。また和文化に興味のあるママたちは、「母が着物を大事に着ていた」、「日本舞踊をたしなんでいた」、「お茶やお花を習っていた」など、ご自身の育った環境が影響しているとおっしゃっていました。
子どもと一緒に楽しむ身近なアート
子どもが生まれると、美術館での作品鑑賞や劇場での観劇はしづらくなります。着物を着てのおでかけもなかなかむずかしいでしょう。みなさんは、ママになってからアートの楽しみ方がどのように変わったのでしょうか。
・家でできることを楽しむ
「お茶やお花のお稽古は妊娠しているとできないので、そのときはお休み。そのかわり、家でできることをしていました。子どもと落ち葉やお花を拾って家の中にきれいに飾ったりして、楽しみました」
・選択肢が増えた
「おでかけといえば、子どもが行きたいというので日本科学未来館の『うんち展』に行きました。自分ひとりだったら、絶対選択しなかったと思います。ところが行ってみたらすごく面白くて。大人の価値観だけではなかなか選択しないものを楽しめるようになりました」
・親子で共通の趣味を楽しむ
「上の子はもう9歳になったので、一緒に宝塚に行くようになりました。親子で楽しめると、会話も増えて楽しいです」
・自然に勝るアートなし
「子どもの描く絵を見て、色の使い方がいいなあとか、このバランス感覚、自分にはないなあとか、いいところを探すようになりました。そうすると、だんだん身近にあるきれいなものが目に付くようになりました。自然に触れる機会が増え、自然に勝るアートはないと思うようにもなりました」
きれいな夕焼けや、真っ赤な紅葉を見て、親子で感嘆の声を上げた経験は誰しもあるでしょう。
ママたちは、一流の美術館や劇場だけではなく、身近なところにもアートの楽しみがあると気づいたのですね。
子どものずば抜けた自由さを、受け入れる
「価値観の違いを認めることができるようになった」というママも。大人は、顔ひとつ描くにも目がふたつあり、鼻が真ん中にありというふうに、自分の経験と知識でものを決めてしまいがち。けれども子どもは違いますね。
「子どもってある意味、天才だなと思います」とあるママは笑います。「みかんを描いたというけれど、どう見ても四角。ママを描いたというけれど顔が真っ黒。顔からしっぽが生えていたり(笑)。でも、その子がそう言うのだからそうなんですよね。全面的に受け入れます(笑)」。その上で「『ああ、そういう見方もできるよね、なるほど、そう見えるね』と相手の気持ちに寄り添うこと。子どものずば抜けた自由さを尊重することって、すごく大切なような気がします」
このママは、子どもとアートを楽しむことで、物事にはいろいろな見方があると教えられたといいます。「自分の考えや価値観とちがうものを受け入れる、認め合うことは、いじめのない社会や国際平和にも通じることなのかも」という言葉に、皆大きくうなずいていました。
「親子」で同じものを見て、心を通わせる楽しい時間
最後に、全員で子どもが描かれた江戸時代の浮世絵を鑑賞しました。KUMONは江戸時代の子どもの文化を研究するため、浮世絵を中心とした子ども文化史料を所蔵しています。この子ども文化史料の中から一枚の浮世絵とそこに描かれた場面を楽しみました。
「雪のあした」 歌川国貞(三代歌川豊国) 文政6年 |
皆さんと鑑賞したのは「雪のあした」という江戸時代の浮世絵です。この作品には、正月の雪の朝を迎えた町屋の人々の様子が生き生きと描かれています。絵の中には親子が2組描かれています。おんぶをしている親子、抱っこをしている親子、どちらも親子で同じ方向を見ていて、母親は「何をやっているんだろうねえ」「あれあれ、冷たそうだねえ」と子どもに話しかけているようです。指をさしたり話しかけたりして他者と一緒に同じ対象に興味を向けることは、子どもの発達においても大切なコミュニケーションの形であるといわれています。
親子で同じものを見て、言葉を交わし、心を通わせる楽しい時間。その対象は時に演劇であり、絵画であり、自然であり、自分たちの描く絵であり、何気ない日常風景の中にもあります。
親が自分の価値観にとらわれず、子どもの目線に立って目の前のものを一緒に楽しむ。親子で心を通わせたそんな時間と経験は子どもたちが大きくなったとき、きっと心の財産となることでしょう。
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