仕事を全うできず挫折感を味わう
「やってきたこと」は確実にどこかにつながる

就職先の日用品メーカーでは、同期5人で参加した社内コンテストで準優勝を獲得しました。テーマは「介護用品の開発」で、実際に介護ボランティアに行くなどして調査したことが評価されたようです。そのご褒美で東南アジアに行ったことからボランティアに関心を持ち、やはり「食」に携わりたいと思って退職することを決意。そしてJICAの海外協力隊に応募し、食品加工隊員としてフィリピンへ派遣されました。
海外協力隊の仕事は充実していましたが、頑張りすぎたのか、心身ともに不調になり、任期終了直前に医師から帰国の指令が出されました。任務を全うできなかったという自責の念にかられ、何をしてもやる気が出ず、「この世から消えたい」と思うほどに。挫折感がものすごくありました。
しかしそんな時、JICAの同期が帰国時、実家の近くまで来てくれました。それまでは「いろんな人とちゃんと仲良くやらないと認められない」と思っていたのが、「一人でも自分に向き合って話してくれる人がいればいいのかな」と思えるようになり、だんだんと立ち直っていくことができたんです。
また、帰国後勤務した外資系食品会社の仕事が楽しかったのも、回復の要因だったと思います。そこでは「ひとり広報室長」として働きながら、女子栄養大学大学院の科目履修生、修士・博士課程の学生として計6年通学もしました。早朝出社など、上司に相談して融通を利かせてもらえたのは今でも感謝しています。

大学院で学ぶ内容は会社の業務にはあまり関係なかったのですが、実験テーマを、かつて日用品メーカーで皮膚の研究に携わったので「玄米と肌の関係」にしたところ、結果的に自社商品の売上げに貢献することになりました。修士の時は「玄米のシリアルを摂取することで、肌の赤味が改善し、水分量も増えた」という結果が出て、博士の時には肌だけでなく腸内環境も合わせて調査すると、「小麦ふすまのシリアルは腸内細菌を整え、排便を改善する可能性がある」ことが判明。その内容を大学院にだけでなく、広報としてテレビ番組で紹介したところ、営業部署から「今までとは違うお客さんが売り場に来ている」と言われて驚きました。机上の勉強に終わらせないで、ちゃんと会社に貢献できたのはよかったと思います。
こうした私の経験から思うのは、「やってきたこと」は確実に積み重なって、必ずどこかにつながるということです。今やっていることがすぐに表に出てこないと、そこで諦めてしまったり、耐えきれなくなったりすることもあると思います。でもそんなときは根っこを伸ばしている時であり、その間も「成長している」と信じることが大事だと思います。
私がそうだったように、今やっていることがいつ何につながるか、その渦中にいるときはわからないと思いますが、必ずどこかにつながる。現代はすぐに結果を求める風潮にありますが、そう信じてほしいと思います。
生きている限りすべてが学び
ネガティブなことを好転させる手段にも
JICA海外協力隊に行く前には訓練があり、語学や地理などいろんなことを学びました。すごく楽しくてもう1回やりたいくらいです。そんなふうに、「学び」というのは「好奇心」なのかなと思います。

とくに社会人になって実際に働きだすと、自分の不足部分が見えてきます。それを補うために学ぼうとするわけです。そもそも自分はいつまでたっても完璧にはなれないので、「生きている限りは学び」ではないかと思っています。
私は英語力もそれほどありませんし、論文執筆でも不備を指摘されたりしてきました。ずっと研究し続けてきたわけでもないので、学会誌への投稿などはとても難しいと感じています。しかしアカデミアとはまた別の形で伝えるという、私なりの役割があるのだと思っています。
学ぶのはとても楽しいことで、子ども時代の私にとってはそれが公文式でした。また「本を読む」のも楽しい学びだと思います。私は転校先の学校に馴染めず、ずっと本を読んでいました。とくに心理学者の加藤諦三氏の本は、心の悩みに対する処方箋として愛読していました。私にとって本は気持ちを聞いてくれる友だちのような存在でしたね。本を読む楽しさを知ると、健やかに育つのではないかと思います。
読書でも何でもすぐに結果は出ないと思いますが、過程を楽しんで、積み重ねていくことが大切だと思います。ですから子どもたちには、自分を卑下せず、苦手なことや不得手なことがあっても自信をなくさないでほしいと伝えたいですね。苦手意識やコンプレックスがバネになり、成長したら逆に得意になるかもしれません。
そして保護者の方は、わが子の特性や強み・弱みは隣のお子さんとは違うということを理解して、人と比べないようにしていただけたらと思います。
教育や学びは、ネガティブな怒りをポジティブに変える手段としてとても大切だと思います。教育や学びがなかったら、単に怒りを爆発させたり犯罪につながったりもしてしまいます。でも学びがあれば、憤りを覚えたときに「こうすればいい方向に向かう」と考えを切り変えることができます。
私の場合は、東日本大震災で食品廃棄の現実を知り、悲しみと怒りを感じましたが、それを伝えることで政治家の方と共に法案につなげられ、好転させることができました。
食べ物に敬意を払い
働きやすい世の中になってほしい
私の願いは、すべての人が食べ物に敬意を払う世の中になってほしいということです。豚などは人間が命をつなぐために殺されているのに、食べられずに廃棄されたら二度死ぬことになります。

「自我作古」
私が何度か通っている愛媛県の地鶏専門店では、半端肉は餃子のあんにするなどして、鶏1羽まるごとをいただくコース料理を提供しています。全飲食店がそうすべきとまでは言いませんが、“捨てる前提”をやめて、敬意を払うようになれば、自然と食品ロスはなくなるでしょう。これからはそうしたおいしいものを丁寧に作っているお店も紹介していきたいです。
「食品ロスを減らす」ことは働き方改革でもあると思うんです。ファミリーレストランで働いていたイタリア人の知人は、毎日食べ物を廃棄するのが辛くて辞めてしまいました。近年、コンビニエンスストアで外国人の方が多く働いていますが、廃棄食品が多ければ、「日本は食品廃棄を毎日くり返している」と海外にネガティブなことを広報しているようなものです。
公正取引委員会の調査によると、大手コンビニエンスストアでは、食品を1店舗あたり年間468万円(中央値)廃棄しているそうです。しかし同じ系列の店舗でも、店が独自に「見切り販売」をしてほとんど捨てていない店もあれば、年間1000万円以上を捨てている店もあることが、取材を通してわかりました。
「お客さまの満足度を維持するためには食品ロスは出たほうがいい。減らすと売上げが縮むから必要悪だ」という意見が未だに根強くあることは事実です。しかし決してそんなことはなく、改革の余地はまだまだあるのです。例えば、広島県のあるパン屋さんは2015年の秋からパンをひとつも捨てていません。このパン屋さんを取材して書いた本『捨てないパン屋の挑戦』は課題図書になりました。そして売上を維持しながら、労働時間を14時間から8時間に短縮した「働き方改革」も実現。また岡山県に本社があるスーパーは、廃棄率を0.8%から0.4%まで減らして約8億円コスト削減ができ、利益率も上がったそうです。
その一方で、百貨店のテナントに入っているパン屋さんから、「百貨店から『閉店間際でも商品が揃っていないとダメ。値引きもイメージダウンになる』と言われ、毎日パンを捨てている。なんとかならないか?」と相談されたこともあります。「閉店間際も品揃えが豊富な店がいい店」ではなく、「売り切っているのがいい店」だと生活者も意識を変えなくてはなりません。
それでは最後に、家庭でできる食品ロス削減対策をお伝えしたいと思います。
まずは、家庭用生ごみ処理機の利用です。これで生ごみの水分を減らすと、焼却するごみの量が減らせます。わが家では重量で70%以上減らすことができました。自治体から購入補助が出る場合があるので、ぜひ導入を検討してみてください。
次に、お腹がすいているときには買い物をしないこと。空腹時の買い物は、最大で64%も金額が増えるとの研究結果もあります。そして冷蔵庫は食材で一杯にせず、50~70%に納めること。詰めすぎは何が入っているのかわからなくなりますし、食材も冷えにくくなります。また、野菜は食品ロスになりやすいので、鮮度保存袋の活用をお勧めします。
そして使った分だけ買い足すローリングストックも意識してみましょう。普段から常温保存できる缶詰などを手の届くところに置いておけば、買い物が面倒なときにも役立ちます。
できるところからでいいので、ぜひご家族で楽しく取り組んでいただければと思います。私の書いた本は、毎年、入試問題などにとりあげられています。親子で一緒に読んでみてください。
![]() |
前編のインタビューから -食品ロスによる経済損失は約4兆円 |