大人気の正月遊びー凧
凧あげの歴史は古く、日本では平安時代に編纂された『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』という書物に、中国語での凧の呼び名「紙老鴟(しろうし)」が出てきます。
その後、「紙鳶(しえん・いかのぼり)」と呼ばれ、宮廷の遊びとして上方(京都を中心とした地域)から広がり、江戸時代にはこま回しや羽根つきとともに、健康によい正月の外遊びとして、庶民の間にも普及しました。
またこの頃には「凧」と表記するようになり、その形状がイカやタコに似ていたことから、上方では「いか」、江戸では「たこ」と呼ばれるようになりました。
江戸時代は凧の黄金期で、特に江戸では爆発的な人気により、凧あげによる市中往来の妨害やけんかが頻発し、幕府が何度も街中での凧あげ禁止令を出したほどです。
そんな大人も子どもも夢中になった凧あげですから、流行に敏感な当時の浮世絵師たちにより、季節の風景や庶民の生活を描く題材の一つとして数多く描かれました。

上の絵をご覧ください。これは江戸時代後期に歌川国輝が描いた「春の明ぼの(あけぼの)」という浮世絵で、子どもの背丈を超える、大きな凧が印象的な作品です。
“ももひき”を履き、頭に鉢巻をしめた男の子が、嬉しそうに凧を持っていますね。
この凧に描かれている勇ましい武者絵は、曽我物語として知られている、鎌倉時代の有名な仇討ちがモチーフです。
江戸時代、この物語は歌舞伎や浮世絵の題材として人気があり、仇討ちを果たした曽我兄弟は、今であれば人気マンガの主人公といったところでしょうか。大人気キャラクターの凧を手にした男の子は、とてもうれしそうな表情です。
往来で羽根つきをしている女性たちも、手を止めてその大きな凧をながめています。
右の店の格子の向こうには黄色の花を咲かせた福寿草の鉢が、そして店の前には大小の門松など、縁起物が飾られています。
そして晴れた空には、連凧、龍の字凧、タコ入道、トンビ凧、角凧、奴凧、剣凧など、たくさんの凧が大空を舞い、お正月の賑やかな様子が伝わってきます。
当時の凧には、浮世絵師が元絵を描いたものや、浮世絵から取材した優れた図柄が描かれており、武者絵のほかにも、金太郎や縁起物のだるま、七福神や宝船などが描かれました。
美しい浮世絵を大きな凧に仕立てて、空の展覧会をやろうと、江戸の人々は思ったのかもしれません。凧と浮世絵は、庶民文化の中で深く結びついて発展していたのです。
凧のおもちゃ絵

また、凧は既製品だけでなく、手作りもされました。
左の絵をご覧ください。上の絵をご覧ください。こちらは江戸時代後期につくられた「新板きりぬき凧づくし」という浮世絵です。
描いたのは、子ども向けの浮世絵「おもちゃ絵」を数多く手がけた、「おもちゃ芳藤」こと、歌川芳藤。
子どもたちはこの絵を切り抜き、ひご(竹を細く割って削ったもの)に貼り、豆凧に仕立てました。小さな豆凧は、室内で火鉢の上昇気流を使ってあげることもでき、また豆凧を竹竿に結びつけると、幼い子どもでも楽しく遊ぶことができたようです。
ちなみに、この浮世絵1枚から、12点の豆凧を作ることができます。
右上から時計回りに、江戸奴凧、鯉滝登り、舌出し三番叟、鳶頭姿凧、波うさぎ、剣凧(三筋こうもり)、たぬき姿凧、剣凧(雲雷)、とんび凧、お化け唐傘、武者凧、烏凧。
図柄が多彩で、どの子もお気に入りの1点を作ることができそうですね。
江戸時代には、このような子どもが遊びに用いる浮世絵「おもちゃ絵」が多くつくられました。おもちゃ絵は、値段も安く、庶民の子どもがお小遣いで買うことができるものだったのです。
江戸の空を彩った凧

最後にご紹介するのは、江戸時代後期につくられた「子宝春あそび」という浮世絵です。
この絵を描いたのは、勇壮な武者絵からコミカルな絵柄まで、幅広い画題を一流のアイデアで描いた歌川国芳。
この作品も、凧あげのよくある風景がユーモラスに描かれています。
左手前は、丹頂鶴が描かれた長い縄尾のついた凧を揚げようとしている3人組。凧を頭の上に掲げた小さな男の子は準備万端ですが、残る二人はまだ準備ができていない様子。
右手前のふたりは、凧糸が絡まってしまいました。右の子は懸命に糸をほどこうとしていますが、左の子は他の子の凧に気を取ら、手が止まっています。
その後ろでは、竹飾りに引っかかった蘭の字凧を外そうと、門松によじ登っている子どもの姿が。凧糸を握る子どもは小さな弟をおんぶしたまま遊んでいるようです。
そして画面左上には、凧糸の切れたトンビ凧がふわりと飛んでおり、その様子を三河万歳の太夫や挟み箱を持った従人に扮した子どもが、口をぽかんとあけて見上げています。
現代でもお正月が近づくと、カラフルなデザインやキャラクター凧、立体的なカイト(西洋凧)など、様々な種類の凧が店頭に並び、凧あげ大会や手作り凧のワークショップも開催されるなど、伝統と遊び心が融合しながら、凧あげは今でも愛され続けています。
「風を読んで凧を操る」「空高く舞い上がる凧を見上げる」という楽しさや開放感は、昔も今も変わらない魅力です。
この冬は、澄んだ空気を感じながら凧あげを楽しんでみませんか。
風に乗って舞う凧が、新しい一年を軽やかに運んでくれるかもしれません。
※記事内で紹介している浮世絵は全て公文教育研究会の所蔵史料です。
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