お父さんも、お母さんも、お友だちも、きょうはみんなうさぎ!?
少し涼しくなってきた、九月のある日。朝起きたら、「わたし」は“うさぎ”になっていました。この町の住民はみんな、一年に一日だけ、うさぎになってしまいます。
![]() こばようこさんが、不思議なうさぎの一日を、のびやかに描きます |
けれど、住民たちは慣れたもの。うさぎの姿で学校へ行き、会社へ行き、一日を過ごします。わたしも、さっそく学校へ。とはいえ、いつもと同じという訳にはいきません。ランドセルは重くて持てないし、授業はすべて体育です。給食は、食べられるのは野菜だけ。なのに今日に限って、野菜が少ない!
うさぎになったわたしは、思いっきり走り回ったり、ジャンプしたり、草を食べたり、運動場に寝転んで、気持ちのいい風に吹かれたり…。人間のときにはできなかったこと、わからなかったことを、たくさん体験します。そして、つぎの日。町はいつも通りの朝を迎えるのでした。
相手の気持ちに寄りそい、思いやること
『一日だけうさぎ』は、「発想の面白さと、ユーモアのセンスが抜群」と絶賛され、「2015おはなしエンジェル子ども創作コンクール」の最終選考会では満場一致で最優秀賞に決まりました。「一年に一度だけ、町の住民全員がうさぎになってしまう」という設定の魅力もさることながら、小学生である「わたし」の日常そのものの世界を、「うさぎ」という新しい目線で切り取っているところに、新鮮な驚きと豊かな発想力を感じさせます。
学校で飼育されているうさぎの意外な不満を聞いたり、国語や算数がなくて体育だけの授業はつまらないと気づいたり、たぬきの親子に出会い町の自然環境の変化について考えたり…と、あたりまえの日常で見過ごされていることに気づかせてくれます。
作者、原知子さんは、身近な存在のうさぎに思いを寄せて、「自分がうさぎになったらどうなるかな?一人だったら寂しいけれど、みんな一緒になったら楽しいな」と空想して、この作品を書いたといいます。
著者の原知子さんインタビューは、記事末尾の関連リンクからご覧ください。
何か(誰か)の目線でものを見ることから、新しい発見がある。それは相手の気持ちに寄り添い、思いやることにもつながるでしょう。それを象徴するかのように、『一日だけうさぎ』のラストはこう結ばれています。
「まいとし、うさぎの日がおわると、町がまえよりずっといい町になっている。わたしはこの町が大すき!」
![]() うさぎだから、給食をくばるのも、食べるのも、大変! |