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Vol.040 2017.01.13

森林政策学者 東南アジア地域研究
原田一宏先生

<後編>

人生は一度決めなくていい
回り道
の経験は無駄にはならない
可能性が1%でもあれば挑戦しよう

森林政策学者 東南アジア地域研究

原田 一宏 (はらだ かずひろ)

京都府生まれ。東山高等学校卒業、東京大学農学部農業生物学科卒業、東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻博士課程修了。インドネシア林業省国立公園事務所(JICA長期派遣専門家)、マードゥク大学アジア研究センター(オーストラリア)、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)、兵庫県立大学環境人間学部を経て、2014年4月より名古屋大学大学院生命農学研究科教授。著書に『熱帯林の紛争管理―保護と利用の対立を超えて』(原人舎)など。公文では小5から中1まで算数・数学、国語、英語を学習。

東南アジアの熱帯林の現地でフィールドワークを行っている農学博士の原田一宏先生。森林保全など地球環境保護の大切さがクローズアップされる中、熱帯林の保全をめぐって、実際に現地では何が起こっているのかという忘れられがちな視点から研究をしています。二度も壮絶なマラリア感染を体験しながらも、フィールドに向かい続ける原田先生、その情熱の源は?生い立ちとともに、途上国に対する熱い想いを伺いました。

目次

転機は同世代のインドネシア人の助手との出会い

原田一宏先生

研究室を転々とした私が、ようやく「これだ」と今の研究に至るようになったのは、修士課程のときインドネシアで調査をした際の、同世代の青年との出会いがきっかけです。熱帯林の森林調査のため、暑い中、重い機械を背負って、植物の光合成や水分の含有量などを測定する毎日でしたが、私の助手として手伝ってくれたのが、日雇い労働者の彼でした。
 
同世代だったこともあり、コミュニケーションをとりたくて、最初はカタコトのインドネシア語で会話をしました。私は、彼との長いつき合いでインドネシア語を習得したともいえます。彼は、学校の先生になりたくて免許もとったのですが、なかなか実現することができないと言いました。仮に実現したとしても先生の給料は非常に安いとも。一緒に仕事をしていて彼の優秀さはわかりました。それなのに、なぜ夢が叶えられないのか。途上国の現実を突きつけられた気がしました。
 
一方、自分は修士論文の研究成果を出すために、彼に手伝ってもらっている。熱帯林を研究してはいますが、結局現地の人たちには何のメリットもないのではないかと考えるようになりました。

木ばかり見ているのではなく、もう少し彼らの生活が向上するようなことをしたいと感じて、博士課程では人との関係を考える研究をすることにしたのです。もともと人と話すのが好きでしたが、この青年との出会いが大きな転機となりました。

実は、私は二度マラリアにかかったことがあります。一度目はインドネシアで感染し帰国後に発症しました。入院した病院の医師に家族が「命の危険があり、最悪の場合は覚悟してください」と言われたと、退院後に聞きました。二度目はインドネシアの奥地で発症し、マラリアの薬を飲みながらジャカルタに戻って緊急入院。その後日本に戻ってきたのですが、帰国後も、強烈なめまいに襲われるなど副作用がひどく、回復するのに1か月かかりました。

そうした壮絶な体験をして、フィールドワークは生半可にはできない、精神的にも肉体的にもタフでなければならないと実感しました。そして、このまま研究を続けるべきか、かなり悩みました。悩みに悩んだあげく、自分の人生はこれしかないと結論を出しました。私の研究室に来る学生にもその体験は伝えることがあります。タフさと同時に、人の話を聞いたり、自分の話をするのが好きであること、また開拓精神があることが、過酷なフィールドワークを行うのには大事なことです。

原田先生が最近の学生を見て感じることとは?

思うことがあれば、言ってみよう。やってみよう。

原田一宏先生

最近の学生はまじめですが、人と接することにあまり積極的でなく、コミュニケーション力が足りないと感じることがあります。いろいろと考えているとは思いますが、外に向けてあまり表現をしません。これは若者に限らず日本人全体の傾向かもしれませんね。ただ、心の中で思っていても、発言しないと相手には伝わらない。思っていることは、言ってみるほうがいいと私は思います。そうすることで、表現の仕方も学んでいきます。「これでは相手に誤解されるんだ」とか「これでは相手に伝わらないんだ」とか表現方法を試行錯誤する中で、表現の仕方が身につくのです。
 
また、自分がやりたいと思ったことは、たとえ人に突拍子もない無理なことだと思われたとしても、簡単にはあきらめずに、挑戦してみたほうがいい。やってみて、たとえ失敗したとしても、やりたいと思いながらも、やらずに後で後悔するよりはいいのではないでしょうか。可能性が1%でもあれば、やってみたほうがいいと思います。

もうひとつ今の若者に伝えたいのは、自分がやりたいことの目標設定をする時に、「すぐには手が届かない、でも、もしかしたら届くかも」と、やや高いレベルにすること。それで勉強や体験を積み上げながら、筋トレならぬ脳トレをしていくことが大切だと思います。ちょっと高い目標を立てることで成長することができます。私自身そういう生き方をしてきました。私の研究室でも、海外発表の場に学生を積極的に連れて行き、良い刺激を与えるように心がけています。

できるだけネガティブにならないことも大切です。くじけそうになっても「でもまだできるはずだ」と強くマインドコントロールする。スポーツ選手の心理と同じですね。

原田先生が果たしたい役割とは?

「人と接するのは楽しい」
そう実感できる機会を若者たちに伝えていきたい

原田一宏先生

今後、研究はもちろん、「学生に広い世界を見る経験をさせる」ということに、もっと取り組んでいきたいと思っています。最近の若者は内向きだと言われますが、一度経験すればまたやりたいと思えることはたくさんあります。

たとえば、インドネシアのコーヒー農園に学生たちを連れて行ってホームステイをさせると、人と接する楽しさがわかります。コミュニケーションが大事だと実感できるようになり、帰国後、良い意味で人間性が変わります。今や日本では、近所付き合いが希薄ですが、海外にはいまだに、「近くに人が暮らしていて、何かあった時に助け合える」文化がたくさんあります。そういう環境に行けば、「コミュニケーションすることによって広がる世界」を身をもって体験できます。若い人にその機会を与えたいし、そういう世界があるということを知ってもらいたいと思っています。

また、私が研究してわかってきたことを、もっと広く伝えたいという想いもあります。研究者に一番求められるのは研究業績、つまり論文です。研究者としてステップアップするのに研究業績を積み上げることは大事なことですが、論文は一般の人の目に触れることはあまりありません。ですが、研究から導き出された、”マスコミで言われていることとは違う視点”で世界を見ることの重要性を、子どもを含めて多くの人に知ってもらいたい。そこで、この秋に、私の研究をもとに子どもたちにも理解できるように執筆した『コーヒーから地球が見えてくる(仮題)』という児童書をくもん出版から出していただくことになりました。

熱帯林の話はものすごく遠い世界のことのように思われるかもしれませんが、熱帯地域でつくられるコーヒーはお菓子などにも使われ、子どもにとっても身近にあるものです。そのコーヒーを通じて、コーヒーの背景にある環境、社会、文化を知ってもらえる内容になっています。コーヒーひとつとってもいろいろなストーリーがあるということを、現地に想いを馳せながら読んでもらえたらと思います。

コーヒーだけでなく、洗剤やスナック菓子などに使われているヤシ油、そしてバナナやエビ、木材など、日本は多くの農林水産物を海外に依存して豊かな生活を送っています。それなのに、私たちは、それらがどのように現地で生産され、どのように私たちの手元に届いているのか知らない、あるいは興味を示しません。そこに焦点を当て、研究した結果を一般の人に知ってもらうよう発信する努力をこれからしていきたいですね。それが、熱帯林と人との関係を研究してきた、研究者としての私にできる役割だと思っています。

前編を読む

関連リンク名古屋大学大学院 生命農学研究科 森林資源利用学研究室


原田一宏先生 

前編のインタビューから

-東南アジアの熱帯林でのフィールドワーク
-環境に関心を持つきっかけとなった体験とは
-今も影響を与えている母親の言葉とは

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