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Vol.086 2015.05.12

第20回日本絵本賞大賞受賞『ふしぎなともだち』

障害有無超えて、
共に生きる大切さを絵本で描き
第20回日本絵本賞大賞受賞
「ふしぎなともだち」

島の小学校に転校してきたゆうすけのクラスには、自閉症のやっくんがいた。いつも教室をでていってしまうやっくんに、最初はとまどうゆうすけだったが、ふたりはしだいに友情を育てていく――。障害の有無を超えて、共に生きる大切さを絵本で描いた『ふしぎなともだち』(たじまゆきひこ作・くもん出版)が、第20回日本絵本賞の大賞に選ばれました。選考委員全員の強い支持を集めたというこの作品は、どのようにして生まれたのでしょうか。

目次

絵本芸術の普及、絵本読書の振興、絵本出版の発展に寄与する「日本絵本賞」

田島征彦氏(前列右から3番目)
出版社として表彰を受けるくもん出版の編集担当者

日本絵本賞とは、公益社団法人全国学校図書館協議会と毎日新聞社が主催する、日本国内で出版されたすぐれた絵本に贈られる賞です。「絵本芸術の普及、絵本読書の振興、絵本出版の発展に寄与する」ことを目的として1995年に創設されました。

前年に日本国内で出版された絵本が対象で、最優秀作品に贈られる日本絵本賞大賞のほか、日本絵本賞、日本絵本賞翻訳賞、一般読者が選ぶ日本絵本賞読者賞(山田養蜂場賞)の4賞があります。

今回『ふしぎなともだち』は、最終選考当初から選考委員全員の高い評価を集め、大賞受賞が決まったといいます。

作者である田島征彦氏は大阪府堺市生まれ。京都市立美術大学(現:京都市立芸術大学)の染色図案科を卒業以来、絵本作家として、また染色家として50年近くにわたり活躍されています。本書に描かれた絵も、竹ですいた竹紙(ちくし)という紙に、切り抜いた型紙と防染糊を使って文様を染め出して描く「型染め」という手法で描かれています。手間のかかるこの技法によって、子どもたちや自然の力強さと優しさがうつし出され、表現に深みが加わっています。

きっかけは元校長先生との出会いから

今回の絵本の舞台となった兵庫県淡路市には、友人だった故・灰谷健次郎さんの住居を買い取る形で2001年に京都から移り住みました。

美しく輝く棚田と海をのぞむ淡路島。暮らしはじめて数年後、島に住む元小学校長・小南廣之さんと出会ったことが、この絵本制作のきっかけとなりました。小南さんは校長時代、障害児と健常児が普通学級で共に学ぶ教育を推しすすめ、退職後も障害のある人たちとの交流を続けていました。小南さんらの努力の結果、自閉症などの障害のある青年たちが町でふつうに働き、島の日々の風景にとけこんでいるのを見て驚いた田島氏は、「絵本にしたい」と強く思いました。

早速、小南さんに紹介された作業所を訪れました。そこには、主人公のモデルとなった治井一馬(はるいかずま)さんがいました。みんなから「かあくん」と呼ばれ愛されている治井さんは、幼少時に自閉症と診断を受け、地元の保育園、小学校、中学校に通い、この作業所でメール便配達の仕事をしています。

絵本の主人公「やっくん」のモデルを治井さんに決め、まずは自閉症についての理解を深めようと図書館に通いました。治井さんのお母さんと小学校時代の担任の先生との間で交わされた膨大な量の交換日記も、くり返し読みました。治井さんを支える人々と深く付き合い話を聞いたり、メール便配達をする治井さんの後をだまって一日ついていったりしたことも。理解は深まりましたが、絵本に描くことは想像以上に難しいものでした。彼らの日々を描いて、1冊の絵本として何を伝えるのか、また、単なる自閉症の啓発絵本のようなものにはしたくないという想いー。構想から約3年が経過していました。

「障害者じゃなく、普通に付き合っている友だちです」

やっくんのモデルとなった治井一馬さん(左)と
ゆうすけのモデルとなった小田陽介さん(右)

そんな中、転機になったのはある人物との出会いでした。治井さんと保育園、小学校、中学校を一緒に過ごし、現在は郵便局に勤務する小田陽介さんです。

治井さんに障害があることは知っていたけれど、それが特別だと思ったことはない。ちょっとかわっているけど、普通に付き合ってきた友だちです。

喜怒哀楽を正直に表現する治井さんといると、落ち着くんです。

大人になっても心に垣根なく付き合っています。

小田さんのこれらの言葉を聞いて、絵本には、障害のある子もない子も一緒に育ち、支え合って生きていくことの大切さを込めようと、心は決まりました。もうひとりの主人公「ゆうすけ」のモデルを小田さんとし、ふたりの友情を軸に据えました。そこから再び手が動き、順調に創作は進み、絵本は無事完成したのです。

「今まで作ってきた絵本の中で、これほど人に喜んでもらった作品はない。それが僕の大賞です。」受賞に際し、田島氏はこう語りました。絵本を手にし勇気を与えられた障害のある子をもつ親御さんや学校の先生から届く、様々な喜びの声は、田島氏にとって大賞受賞の喜びにも代えがたいもののようです。

KUMONでは、障害のある子も健常な子も同じ教材と指導法で学んでおり、それぞれの「ちょうど」の学習を続けることを通じて誰もが可能性を最大限に高めていただけると考えています。多くの方々の心に「障害の有無を超えて生きる」というテーマを深く伝えられる作品を世に出すことの意義の大きさを、強く感じています。

関連リンク
くもん出版 『ふしぎなともだち』『ふしぎなともだち』が日本絵本賞大賞を受賞! | プレスリリース

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