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Vol.049 2018.05.18

広島大学 教育開発国際協力研究センター長
吉田 和浩先生

<後編>

日本は「教育」で世界に貢献できる
持続可能で平和な社会を築くことが
「教育の国際協力」のゴール

広島大学 教育開発国際協力研究センター長

吉田 和浩 (よしだ かずひろ)

長野県生まれ。獨協大学外国語学部英語学科を卒業後、商社に就職。海外コンサルティング企業協会の研究員に転じ、英国のサセックス大学の開発学研究所IDS(Institute of Development Studies)に留学。開発学修士。その後世界銀行に入行、アフリカ局人的資源エコノミストとして、ガーナ、ナイジェリア、ザンビアなどの教育プロジェクト担当、人間開発ネットワーク副総裁室業務官、国際協力銀行開発セクター部社会開発班課長などを経て、2006年4月より広島大学教育開発国際協力研究センター助教授、2009年10月より教授、13年4月から同センター長に就任。

日本の学校教育は、学力・体力・人間性がバランスよく含まれ、全人的な教育が行われているとされますが、世界には、学校に通えない子どもたちが多くいる国や、子どもたちが学校に通っていても「学びが身についていない」という問題を抱える国も少なくありません。そうした問題の解決に向けて、大学の知を有効に活用し教育の分野で国際協力を実践するため、日本で初めての研究拠点として設立されたのが広島大学教育開発国際協力研究センターです。センター長である吉田先生が考える「教育の国際協力」のゴールとは? 教育開発の現状と課題、日本の役割などをうかがいました。

目次

得意の英語が海外に目を向けるきっかけに
「開発とは何か」を問い続けた留学時代

広島大学 教育開発国際協力研究センター長 吉田和浩先生

じつは私は中学時代、職員会議の議題となるような素行不良の少年でした(笑)。そんな私を更生させようとしたのか、あるとき英語の先生から、「英語の弁論大会に出ないか」と声をかけられ、夏休みに猛特訓させられました。結果は、大方の予想に反して県大会5位入賞でした。

当時英語は得意ではありませんでしたが、その直後の英語の試験は98点。がぜん英語がおもしろくなってきました。すると他の教科もおもしろくなり、成績も上がってきたのです。海外のことに目が向くようになったのは、この頃に英語が好きになったことが大きく影響していると思います。

高校は、シェイクスピアの戯曲を学校祭で発表するという名門英語クラブがある学校に進学。そこで発音をはじめ英語を徹底的に鍛えられました。その後、外国語学部がある大学に進み、「国際関係」のゼミで社会問題や時事問題を英語で読んだり議論したりすることに没頭しました。

大学卒業後は英語を使った仕事に就きたいと、商社に入社。そこで発電関連の仕事に携わり、インドやスリランカ、イラクなどの途上国に行く機会に恵まれました。そのように途上国で仕事をするうち、できあがったプロジェクトではなく、最初のストーリーづくりからかかわりたいと思うようになり、海外の開発事業関連の社団法人の研究員となります。そこから、国際的に評価が高い英国のサセックス大学の開発学研究所、IDS(Institute of Development Studies)に留学することになりました。

IDSでは「Development」、日本語でいうところの「開発」について、貧困問題や農村開発、世界経済格差の構造などを含め、多面的に学びました。ハンス・シンガー教授、マイケル・リプトン教授、ロバート・チェンバース教授など、開発経済学の第一人者が教授陣に揃っていましたが、授業は難しく、むしろ「そもそも開発とは何なのか」を考える日々でした。

吉田先生が英国での留学時代から抱いていた葛藤とは?

葛藤を抱きながら途上国の「教育開発」に携わる

広島大学 教育開発国際協力研究センター長 吉田和浩先生

IDSの初代所長、ダドリー・シアーズ氏は、開発を「経済発展」というよりは、貧困問題や就労など人の側面から捉えていました。そのため、IDSには「開発というのは人間が中心だ」という考えが強くありました。そこで自分も「人にかかわる部分で開発に携わりたい」と考えるようになりました。

人が外に向かって成長していくだけでなく、中に向かって成長していく「内面的な開発」こそが、重要ではないかと思うようになったのです。宗教の領域でもあるかなと、日本から仏教の本を取り寄せて、人の心の構造など深層心理学のような知識も得ました。

昔から関心があって鶴見和子氏の『内発的発展論』を読んでいたこともあり、「人が成長していくというのは財をなすことではなく、社会が発展するというのはものが豊かになることではない。一人ひとり違うものがありながら、認め合い、活かし合い、助け合いながら、人間が人間として成長していく。それが“Development”ではないか」と思うようになりました。

そんなことをずっと考えながら留学時代を過ごし、留学中に応募した世界銀行への採用が決定。インド局のエネルギー課で半年働いた後、「Human Development(=人間開発)」についての仕事ができる部署を探し、アフリカ局で教育と保健を担当する課に移りました。そこにはたくさんの問題がありましたが、やりがいもとても大きいものでした。

ただその間、「教育を通じてその国あるいは人の発展に携わることが、私が思っている開発のあるべき姿につながっているのだろうか」という葛藤をずっと抱き続けていました。それはいまも持ち続けています。

しかし幸いなことに、「SDGs」のターゲット4-7の作成にかかわることができ、自分のなかで納得ができるようになりました。「ESD(=持続可能な開発のための教育)」が、何を体現する教育でなくてはならないかを考えたとき、自分が思っていた「人としての在り方」に重なったのです。そういう表現を盛り込んで国際的な目標として合意を得る、そのプロセスに張本人として加わる機会を通して、いままでずっとモヤモヤしていたものが、少しつながり方が見えてきたと感じています。

吉田先生から子どもたちへのメッセージ

人生に失敗はつきもの
その失敗を活かす生き方は必ずある

広島大学 教育開発国際協力研究センター長 吉田和浩先生

振り返るとその時々に、今につながるタネが蒔かれていたのだと思います。私はいわゆる「チャンスの糸」が見えたら、必ずつかむようにしてきました。糸はあちこちに垂れているかもしれませんが、見えないときには見えません。そのときは縁がない。でも、見えたら考える前につかむ。私の人生は、そうやって出来上がってきたのだと思います。

壁にぶつかってあきらめムードに入っている子どもたちにこそ、自分の経験からも「人生に負け組なんてない」と伝えたいですね。失敗はつきものですが、その失敗が活きてくるような生き方は、前を向いていれば必ずできます。無理をする必要も、投げ出す必要もありません。ペースは何でもいい。いつ、どんな才能が出てくるかは、本人にさえわかりませんから。

社会や家庭はその芽を摘んでしまわないようにしてほしいですね。多くの大人は「普通」と思われているものさしで物事を見てしまいます。そこから歯車の食い違いが出てくることも少なくないので、子どもの思いを理解して、見守ってあげてほしいと思います。

「日本の教育は素晴らしい」とお伝えしましたが、現実には問題もあります。私にとっては、それをどう克服していくのかを含め、教育にかかわり続けることが大事な仕事だと思っています。

広島大学教育開発国際協力研究センター長としては、センターでの取り組みを通じて、広島大学という地方の中核大学でありながら世界のSDGsの達成に貢献したいですね。これまでの経験から、「学習成果」を根本的に改善して達成するために何が必要なのか、現場を知っている立場だからこその話ができますし、日本の良いものを対外的に発信し共有し、お互いの学び合いに活かせるよう、ファシリテートすることもできます。それがいま、自分にできるいちばんやりがいのある仕事かもしれません。

SDGsは、「2030年にどういう世の中でありたいか」を考えて行動していくためのものです。私たちが生きていくうえで、何が大切な問題なのかをわかりやすい言葉にまとめたもので、難しい問題でも新しい問題でもありません。自分とのつながり方は日常のあちこちにあるので、一人ひとりが、ぜひ取り組んでいただきたいと思います。

関連リンク広島大学 教育開発国際協力研究センター


広島大学 教育開発国際協力研究センター長 吉田和浩先生 

前編のインタビューから

-広島大学教育開発国際協力研究センターの取り組みとは?
-SDGs達成のために「教育協力」で日本ができること
-社会の教育機能としてのKUMONの優れた点とは?

 

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