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Vol.045 2017.11.02

英語教育学者 高橋 美由紀先生

<後編>

英語は人生を変える手段にもなる
「英語を」学ぶのではなく
「英語で」学ぼう

英語教育学者

高橋 美由紀 (たかはし みゆき)

岐阜県生まれ。三菱商事(株)で棉花輸入業務を担当。結婚退職後、英会話専門学校や岐阜県内の中学校、短大、大学等で教鞭をとりながら、京都大学にて「シンガポール華人社会における児童とその母親に見る言語環境の動態の研究」で博士号を取得(地域研究)。文部省大学入試センター研究開発部客員研究員、文部科学省大学共同利用機関メディア教育開発センター客員助教授、シンガポール国立大学にて客員研究員、兵庫教育大学大学院で助教授などを経て、2007年度より愛知教育大学教育学部外国語教育講座・大学院教育学研究科英語教育専攻教授、2017年度より同大大学院教育実践研究科教授。現在は外国語教育メディア学会副会長・中部支部支部長も務める。全国の小中学校外国語活動の調査、研究を行い、「小学校英語活動地域サポート事業」、「初等教育段階における英語教育のための教師研修会」などを数多く実施し、理論に基づいた実践的な指導法を紹介している。

日本人の英語を「使える」ものにしようと、文部科学省では2020年に向けて英語教育改革を進めています。そこで、小・中学校における英語教育の現状と課題について、調査・研究を続けているのが、愛知教育大学大学院教授の高橋美由紀先生です。諸外国との比較もしながら指導法を紹介し、英語初級者の英語力を図るTOEFL Primary(R)の開発会議にも参加されている高橋先生ですが、実は「英語は好きな科目ではなかった」とか。ご自身の体験を踏まえ、英語の魅力、英語教育の今とこれからについてうかがいました。

目次

「英語」ではなく「外国」に興味
商社、英会話学校を経て公立中学の教員に

英語教育学者 高橋美由紀先生

私は今でこそ義務教育における英語指導法などを教えていますが、身近に沢山教員がいてその仕事の大変さを間近に見ていることから教員を仕事にしようとは思っていませんでした。しかし、「教えること」は好きでした。転機は、受験に失敗して入学した高校を辞めたくて相談した担任の先生から、海外の高等学校で学ぶこと(日本私立中学高等学校連合会主催)を勧められ、高校1年生の時にアメリカを訪れたことです。その時に、留学経験者である家庭教師の先生からは「英語の語学上達」よりも「英語を学ぶことで世界が広くなる」ことを教えていただきました。また、幼少の頃からのお稽古事であるバレエやピアノ、声楽等が「小学校英語」でも活かせた点も大きいです。

でも、実は英語は特に好きではなかったのです。ただ、「外国」には興味がありました。そのきっかけは読書とお稽古事です。私は子どもの頃から読書が大好きで、外国文学の本で知った西洋文化や「レディファースト」や「男女平等」といった考え方がとても気に入っていていました。また、幼少の時からのお稽古事や、両親が絵画(洋画)等の西洋芸術が大好きだったこともあり、西洋文化に触れる機会は多かったと思います。

当時暮らしていた地域では、外国に行く高校生は珍しく、帰国後、頼まれて中学生に英語を教えたりしていました。学生時代のアルバイトは、小中学生に英語を教えることでした。その時、「入門期が肝心」だと実感しました。当時使ったテキストはすべてとってあります。今でも十分使えるんですよ。

就職にあたっては、英語力が活かせるかもと総合商社を受けました。最終面接で落ちるかな、と思っていたのですが、面接官にフランス語で「フランス語を話せますか」と聞かれ、フランス語で「Je ne peux pas parler francais.(私はフランス語を話せません)」と返しました。すると「話せるじゃないですか」と。それが合格につながったのかはわかりませんが、その時、「あ、外国語ってこういうときに役立つんだな」と思いました。実は、このフランス語はKatherine Mansfield(キャサリン・マンスフィールド)の『私はフランス語が話せない』の作品のタイトルなんです。

入社後は繊維部で綿花の輸入業務を担当し、英文の書類を扱うように。この時は「英語を使えるようにしておいてよかったな」と思いましたね。結婚を機に退職し、学生時代にやっていた英会話学校でのアルバイトを再開しました。英語の教員免許をもっていたこともあり、「子ども英語を教える先生にその指導」もしていました。そのうち、恩師から声がかかり、公立中学の英語教師に。その間にスキルアップしたいと思うようになり、大学院へ進むことにしました。

高橋先生が英語教育研究に熱中するようになったきっかけとは?

原点はフィリピンで出会った少女
日本の子どもたちにも意欲をもって学んでほしい

英語教育学者 高橋美由紀先生

最初の大学院では「早期英語教育をやりたい」と言った時に、「明治時代の研究ですか」と言われてしまうほど、子どもの英語は学問として確立されていませんでした。そこで指導教官とも相談し、子どもが、母語とそうではない言語をどうやって習得していくか、バイリンガル教育をテーマにしようと、第二言語習得研究をはじめました。

先行研究としてカナダの事例研究をはじめましたが、一方で、日本と同じアジアで英語がどう使われているかを見てみたいと、英語が公用語のフィリピンに行きました。そこでの体験が、今私が英語教育に関わる原点となっています。

滞在中はサントトーマス大学や上層階級の子どもたちの通う幼稚園や小学校に通いましたが、ある時に、フィリピンの課題となっている場所へ行くことができました。「ゴミの山」といわれる場所で、絵本の切れ端を握りしめた1人の女の子にまとわりつかれたのです。「お金をちょうだい」というのかと思ったら「アップル」という。文字が読めることをアピールしていたのでした。「How old?(いくつ?)」と聞くと、手で6つと示しました。英語が理解できるということです。

彼女は、勉強したいのに教材がないから絵本の切れ端を集め、それで学んでいたのだと察しました。フィリピンでは、英語が使えれば豊かな暮らしができ、使えないがゆえに貧しい暮らしの人もいます。英語が、子どもたちの将来の生活にまでかかってくるのです。英語さえ学べば1つ上のステータスに行けることを、子ども心にわかっているから学ぼうとしている。その姿に「英語の魔力」を感じ、「このままでは日本の子どもたちは世界で敗者となる!」と思いました。

日本の子どもたちに、ここまでの言語習得へのモチベーションがあるでしょうか。そこまでして勉強したいというフィリピンの子と互角に英語力で戦えるよう、日本の子どもたちにも頑張らせたい。そういう思いで英語教育の研究にのめり込むようになりました。あの女の子に出会わなかったら、今の私はないでしょう。

高橋先生のこれからの夢とは?

「小学校英語」が特別視されないような
現場をつくりたい

英語教育学者 高橋美由紀先生
愛知教育大学での教員研修の様子

今、「小学校英語」というと特別視されていますが、私は英語を特別なものにしてほしくないと思っています。とはいえ小学校教員の中でも、英語を使う自信がある教員とそうではない教員とで差が出てきています。英語に自信がない教員は劣等感を持ってしまっていますが、そこを是正していきたいと思います。他の科目と同じで、どんな教員も「教える」ことに自信をもってもらいたいのです。

英語教育改革に向け、多くの研究者が、英語を第二言語としてして教育している国の言語習得理論や、教育年数や授業時間数も異なる国の教材などを、事例研究の示唆できる点として持ち込もうとしていますが、私が思うのは、研究ありきではなく、目の前の子どもたちを見て、どうやったら学習効果が上がるか、実践的に考えながら理論を盛り込んでいってほしいということです。現状ではまだ理論と実践が乖離しているので、私の立場としては、できるだけ現場に近いものにして効果を上げられるような指導法を研究していきたいと思っています。

小学校の授業で大事なのは、子どもの興味関心をつかんで授業をすること。現在、担任とALTがチームで進めていますが、そこに研究者も入り込み、カリキュラムづくりや授業づくりなどのサポートに、もっと入り込んでもいいのではないでしょうか。

これまで、とくに塾などでは、英語を学ぶ目的が、「成績アップ」や「受験」に比重が置かれていたと思います。しかしそうではなく、英語を使って本が読める、英語を使って話ができる…というように、「英語を使って楽しいことができるようになる」と思って学んでほしいですね。私がそうだったように、英語は、人生を変えていくための手段にもなるのですから。だから、英語が小学校で教科となっても、「英語嫌い」をつくる教育だけは絶対にしないでほしいですね。

関連リンク愛知教育大学TOEFL®の小中学生版、TOEFL Primary®に挑戦しよう!|KUMON now!くもんのシールでワーク 英語絵じてん※こちらの書籍は高橋美由紀先生に編集にご協力いただきました。
 


英語教育学者 高橋美由紀先生  

前編のインタビューから

-英語教育委改革の3つの課題とは?
-高橋先生が日本人に英語を学んでほしい理由
-高橋先生が考える公文式英語のよさとは?

 

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