「夢」「学び」を支えるKUMONの「いま」を伝えます

記事検索
Vol.048 2018.04.27

書写書道教育研究者
宮澤正明先生

<後編>

人をおもんばかる気持ちを育む
書写の学習効果

書写書道教育研究者

宮澤 正明 (みやざわ まさあき)

1952年静岡県生まれ。二松学舎大学大学院博士課程満期退学。都留文科大学専任講師、同大助教授に就任した後、1991年に山梨大学に移り助教授を経て教授(教育学部)に。現在、山梨大学大学院教育学研究科特任教授。全国大学書写書道教育学会会長、全国大学書道学会会員、全日本書写書道教育研究会副理事長、日本書写技能検定協会評議員・中央審査委員、毎日書道展会員。著書に『美しい毛筆の書きかた』『常用漢字書きかた字典』(以上、二玄社)、『新 字形と筆順』(光村図書)、『楽しめる漢字仮名交じり書』 (日本習字普及協会)ほか。新学習指導要領改訂に関する、中央教育審議会(中教審)国語ワーキンググループ委員を歴任。

書写教育の第一人者で、大学で教鞭を執るほか、小・中学校国語科書写、高等学校芸術科書道の教科書などの編集・執筆もされている宮澤正明先生。ご実家が書道塾だったこともあり、子どもの時から「書」には親しんでいたものの、書写・書道教育の道に進むとは考えていなかったそうです。手書きすることが少なくなってきている今、書写教育には何が求められているのか。書写教育に精力的に取り組まれるようになった背景を含めてうかがいました。

目次

「変な文字」をずっと書かされたことで
「書道のおもしろさ」に開眼

書写書道教育研究者 宮澤正明先生

私が書写教育の道に進むことになったのには、父が筆耕の仕事や書道教室を開いていたという環境のほか、いくつかの出会いがあります。父はもともと小学校教員でしたが、戦後、毛筆で筆耕の仕事をするようになり、わたしは物心がついたときから、父の手書きによる表札や名刺、広告などを見て育ち、父の「整った字」が最高の字だと思うようになりました。

書の道に進むきっかけとなった出会いのひとつは高校時代の書道の先生です。授業中、あることがきっかけで、ある個性的な字を書かされました。私は書道にちょっと自信がありましたし、父の字が一番だと思っていたので、「なんだ、こんな変な字。先生はぼくを下手にさせようとしているのだな」と思いました。なぜか、私だけ、ずっとその「変な字」を書かされ続けていたのです。

ところが書いているうちに、「書道ってこんなにおもしろいんだ」と開眼。今思えば、その先生は、私にいろいろな字があることを、教えてくれようとしたのかもしれません。それまで父から教えられたことはありませんでしたが、「こんな変わった字を習った」と伝えると、父は「待っていました」とばかりに、書棚の奥からその「変な字」の関連書籍を出してきていろいろ教えてくれました。私が自ら関心をもつことを待っていたのかもしれません。それから芸術的な書に目が向くようになりました。

その「変な字」とは、じつは中国の北魏(ほくぎ)時代の文字でした。それでそのうち漢字のおもしろさにひかれ、愛読書の著者である中国古代文化の研究者、加藤常賢先生が学長を務める二松学舎大学に進学。学長でありながら教鞭も執られていて、私は学部でも大学院でも教わりました。予習をしてこないと退出されるような厳しい先生で、学問に対する真摯な態度は、今でも見習いたいと思っています。

書写教育の重要性を感じた学生とのエピソードとは?

一人の学生のおかげで研究テーマが決まった

書写書道教育研究者 宮澤正明先生

漢字への興味から、今度は古代文字を紐解こうと、大学院のゼミでは古代文字研究者の赤塚忠先生のもとで、甲骨文字を研究するようになりました。一方、前衛的な書に憧れ、将来的には書家を目指していました。

大学院では書道の授業はないので自分で書き続けていました。じつは今でもそうですが、私は「あるもの」を追究するより、「ないもの」を作り出していくことに関心があり、当時も「自分の世界を作り出したい」と考えていたのです。ところが博士課程を終えるころ、都留文科大学の専任講師の話があり、そこで出会った一人の学生が、わたしのその後を方向づけてくれました。

私は書写・書道では初めての専任教員だったため、その学生から「書写教育で卒業論文を書きたいので指導してください」と頼まれました。しかし書写教育をしっかり学んでいなかったので断ったのです。すると学生は「専任の先生なのに」と不満顔に。それはそうですよね。そこで、「これを機に学び直そう」と思い直しました。それまで「書写はこういう原則でできている」と教えてくれる人はいましたが聞き流していましたし、「書道をやっていれば書写はわかる」と高をくくっていたのです。

それが、学生と一緒に論文を探し始めたら、書道に比べとても少なく、勉強する糧がない。これでは発展しにくいだろうと、一から書写を真剣に見つめ直すようになりました。学生とともに探求した3年間があったからこそ、今の私があると思います。その学生は、「やりたいことだけをやっていればいい」という自分本位の考え方を「待てよ」と引き戻してくれた、私のテーマをつくってくれた恩人です。彼はいま、立派な教師になっています。

書写教育の重要性を再認識するようになったのは、教壇に立つようになったころ、まんが字が流行したことも影響しています。毛筆文化を守っていきたいと思うようになり、書の作品は二の次にして現在に至っています。

宮澤先生から子どもたちへのメッセージ

「子どもがチャレンジできる環境作り」をするのが大人のチャレンジ

書写書道教育研究者 宮澤正明先生

そんな私の経験を踏まえて子どもたちに伝えたいのは、そのときどきで夢中になれることを一生懸命やってみようということです。あれこれやるのも必要ですが、1回、とことん夢中になってみることをお勧めします。私は高校時代の書道の先生からきっかけをいただき、書道をがむしゃらにやっていて、そこから書の深い世界に入り込むことができました。勉強でも部活でも趣味でも何でもいいと思います。興味をもったことに深入りしてみると、表層的な部分ではないものが見えてきます。どんな分野でも、ほじらないと見えないものがあると思います。

少子化のなか、保護者はひとり一人を大切に育てていると思いますが、子どもの可能性を広げてあげるには、冒険させてみることも大事だと思います。子どもがチャレンジできるような環境作りをするのは、親のチャレンジといえるでしょう。そして、親は「やらせる」のではなく、一緒にやってみてはどうでしょうか。

書写書道教育研究者 宮澤正明先生
 「愚直」
(68.2×35.0)

私自身の今後については、「新しいもの」を作ってみたいという野望はあります。書道は古典をベースにしていますが、それを超えたものとはどういうものか、それがある種の前衛だと思うので、そういう作品作りをしてみたいですね。命が命をつくっていく、そんな「人間くさい生命観」が感じられるような書が書けたらと思っています。

そして何より、書写教育を充実させるのが私の夢です。いままでやってきた書写教育のあり方をもっと深め、子どもたちが文字を書くことに興味をもつような指導法や、整って書くための方法を究明したいですね。「字は読めればいい」だけではありません。そうした意識改革も、広く推進していきたいと思っています。

※左の書は本記事のために宮澤先生がお書きくださったものです。一つの方向に正直に進む意がこめられています。

 

 

関連リンク 山梨大学教育学部・大学院教育学研究科


 

書写書道教育研究者 宮澤正明先生  

前編のインタビューから

-きれいな字を書くために必要なこととは?
-「とめ・はね・はらい」が重要な理由
-書き文字の効果とは?

    この記事を知人に薦める可能性は、
    どれくらいありますか?

    12345678910

    点数

    【任意】

    その点数の理由を教えていただけませんか?


    このアンケートは匿名で行われます。このアンケートにより個人情報を取得することはありません。

    関連記事

    バックナンバー

    © 2001 Kumon Institute of Education Co., Ltd. All Rights Reserved.