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Vol.045 2017.07.14

国連UNHCR協会 島田祐子さん

<後編>

どんなに難しい問題でも
プロセスを踏めば解決できる
自分は何ができるのかを考えてみよう

国連UNHCR協会

島田 祐子 (しまだ ゆうこ)

京都生まれ横浜育ち。地元の公立小・中・高を卒業後、都内の大学にて社会学を学ぶ。卒業後は外資系金融機関に就職、企業のM&Aの提案書作成などに携わり、結婚を機に退職。育児をしながら在宅で企業レポート作成などに従事。その後コンサルティング会社や税理士法人などを経て、2014年から国連UNHCR協会に勤務。現在は企業や団体などの法人を中心に普及活動を担当する。

紛争や迫害などで故郷を追われた人びとを支援するUNHCR(ユーエヌエイチシーアール:国連難民高等弁務官事務所)。本部はスイス・ジュネーヴにあり、活動は各国政府の拠出金のほか、個人や企業など、民間からの寄付によっても支えられています。その民間への広報・募金活動を行う日本の公式支援窓口が、島田さんが勤務する特定非営利活動法人国連UNHCR協会です。外資系企業でキャリアを積んできた島田さんが、転身を図ったのにはどのような背景があったのでしょうか。日本では遠い話になりがちな「難民支援」。島田さんが見出した、そこに関わることの意義、自らのやるべき仕事観について、UNHCRの役割なども含めてうかがいました。

目次

未経験でも自分のバックグラウンドを活かせる仕事

島田祐子さん
 

国連UNHCR協会に転職するには、当然選考試験を受けなくてはなりません。そこで、元国連難民高等弁務官の緒方貞子さんに関する資料なども読み返し、あらためてUNHCRの価値を認識しました。UNHCRはもともと第二次世界大戦の戦後処理のための一時的な組織でしたが、現場のニーズに応えて変革してきた歴史をもっています。「常に現場のニーズをベースに変容してきた組織」であることが非常に魅力的でした。

緒方さんは、それまでUNHCRが支援対象としていなかった「国内避難民」にも支援の手を差し伸べる選択をするなど、次々と改革を進めてこられました。それは「目の前で人の命がリスクにさらされている。ではあなたはどうしますか」という根源的な問いに根ざす改革であり、現在でも私たちが皆さんに問いかけたいことでもあります。

それまで勤務してきた数社の民間企業で、私は企業側の論理を叩き込まれてきました。であるからこそ、今、企業に提案する時に、「こうすれば納得いただけるかな」、と企業の立場に立って考えることができるように思います。働く上で共通している私の思いは「相手に喜んでもらいたい」ということ。これまでも今も、相手が違うだけで、「相手のニーズを理解して提案する」ことは同じです。

現在は提案したことが、企業やCSR担当者の喜びになり、それが支援現場のメリットにもなり、自分の学びにもなる、すべてが「win-win」の関係になることを意識していますが、「目の前の命のため」に行動することは「人としての原点」に立ち返ったような気がしています。

今の私の仕事は国内での活動が中心です。海外の現場へ行くことへの憧れはありますが、自分のバックグラウンドを考えると、今ここが一番私が役に立てる場だと思っています。現場に行くとすれば、実際に支援がどう活かされているのかを見るために、企業や団体の担当者と一緒に行きたいですね。

島田さんが日々の仕事で心がけていることとは?

極限状況にあった人たちが発する
「人のために何かしたい」というメッセージの重み

島田祐子さん
©UNHCR/B. Diab

私自身が直接現場に行くことはなくても、難民となった当事者から話を聞く機会はあります。そうした現場の話が、働く上での一番のモチベーションになっています。

たとえばアフガニスタン出身の少数民族の男性は、10代で父と生き別れ、母と幼い兄弟と親戚の家を点々とするも、親戚が目の前で殺されてパキスタンに避難しました。UNHCRの旗を見たときようやく「これが平和だ」と感じたそうですが、本当の平和は日本に来てはじめて知ったと言います。彼は日本語を習得し、昨春から日本の大学院で学んでいます。また、イラク出身の20代の女性の場合は、密航業者に騙されて家族と引き離され、ヨーロッパを転々としましたが、今はコペンハーゲンに落ち着き、弁護士を目指して勉強中です。

どちらの方も、ようやく語れる状況になったからこそつらい体験も語ってくださったわけですが、共通しているのは、静かな目をして淡々と語られること。そして「いま自分には何ができるんだろう」と考えていることです。極限状態を体験したのに、それでも「人のために何かしたい」と思う。人間はここまで崇高になれるんだと、ヒューマニズムの力強さを感じると同時に、同じ人間なのに、なぜこうしたことが彼らに起きたのか、怒りや理不尽さも強く感じます。

私が企業や団体の担当者に伝えなくてはならないのは、この怒りや理不尽さの感覚であり、そういう気持ちになっていただくような報告をしなくてはならないと肝に銘じています。人間界には「難民」や「避難民」という人種はなく、これらの言葉は人が置かれた「状況」を指しているにすぎません。彼らは難民・避難民である前に、親であり、子どもであり、恋人であり、職業人なのです。

私たちと同じ人、誰かにとってかけがえのない大切な人であり、「6560万人の難民・避難民」と数字ですべてを語れるものではありません。だからこそ、私たちのような仕事、一人の人間としての視点で、人間としてのストーリーを紹介する仕事に意味があるのだと思っています。もっともっと、「難民・避難民当事者の声」を日本の皆さんに届けたいと思っています。

島田祐子さん
©UNHCR/Olivier Laban-Mattei

私は法人チームの担当者として、日本の主要な企業のCSR報告書すべてに「難民・人道支援」の項目が掲載される日を夢見ています。現在、協会への寄付収入の9割近くは個人からの寄付で、法人担当としては法人の割合を増やしたいですが、一方で、個人の方からの継続的な支援が重要なのは言うまでもありません。

月々の安定したご支援があるからこそ、迅速な援助活動が可能になります。協会では月々一定額のご寄付を続けていただく「毎月倶楽部」を設けています。ぜひ国連UNHCR協会のサイトを見ていただきたく思います。(※「毎月倶楽部」については、次ページ末尾の関連リンクからご確認ください。)

島田さんから子どもたちへのメッセージ

「なんで?」という根本的な問いかけをし続けよう

島田祐子さん

難民を取り巻く状況は、残念なことに悪化の一途をたどっており、現地からの報告は厳しい内容にならざるを得ません。時には支援者から「状況が改善されていない」などお怒りの電話をいただくこともあり、落ち込むこともあります。

けれどもそんなとき、同僚とは、「『なぜこの仕事をしているか?』と疑問を感じずに取り組める仕事だよね」と励まし合っています。1円でも多く送ることができれば、確実に成果につながるのです。「目の前に助けられる命があるから助ける」というぶれない信念があり、意義ある仕事だと思っています。

最近は、子どもの将来の夢に「国際支援」があがるようになってきたと聞き、うれしい限りです。夢の実現には、英語のほかにもうひとつ言語をマスターしておくと、可能性がさらに広がりますよ。「海外とつながる仕事」を目指していなくても、ニュースをよく見て「なんで?」と根本的な問いを持ち続けることはとても大事だと思います。

理不尽を強いる現実に「なんで?」と反発する力と、そうした状況に置かれている人への共感や、「自分だったらどうだろう」と想像する力は、人として生きるうえでの基本になるはずです。

想像する力を伸ばすには、本を読んで知識として吸収するだけでなく、読後はすぐ次の興味対象に移る前に、「この感情はなんだったのかな」と考えたり、自分が主人公になった気分になったりして、「頭を遊ばせる時間」を持つことが大事ではないでしょうか。私自身の経験から、それが共感する力や想像力につながるのではないかと思います。

自分自身を含め、最近の親御さんは何でも「早く」と子どもを急がせがちですが、中学生くらいまでの感受性が豊かな時期に、なんの制約もなく頭と心を開放して、好きなように想像する自由、そのための時間をたくさん用意してあげることをおすすめしたいです。

最近、わが家の大学生と高校生の娘たちも、多少わたしの仕事を理解してくれているのか、積極的に家事をしてくれるようになりました。もし娘たちが「国際支援の現場に行きたい」と言い出したら……危険もあるので、正直、親としては少し躊躇するでしょうが、でも、もちろん応援したいと思っています。

前編を読む

関連リンク
国連UNHCR協会第12回UNHCR難民映画祭公式サイト国連UNHCR協会「毎月倶楽部」


島田祐子さん 

前編のインタビューから

-国連UNHCRの活動
-外国に興味を持つきっかけとなった子ども時代の経験とは?
-外資系企業から国連UNHCR協会に転職したきっかけとは?

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