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Vol.042 2017.03.31

社会的投資研究者 伊藤健先生

<後編>

「誰かのために」と考えたとき
はじめて学びに対する意欲が湧く
「自分ごと」と「社会ごと」を重ねてみよう

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任講師

伊藤 健 (いとう けん)

大学在学中にNPO活動にスタッフとして関わり、台湾への留学を経験。卒業後は日系メーカー勤務を経て、米国にてMBA(経営学修士)を取得。帰国後、GE Internationalに入社し、業務改善や企業買収後の事業統合などに関わる。2008年よりNPO法人の社会起業家の支援育成プログラムの運営に携わる。慶應義塾大学SFC研究所上席所員、慶應義塾大学政策・メディア研究科 特任助教などを経て、2016年より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師に。

貧困や教育格差などの社会課題を解決するための手法を、資金的な問題を含め研究し、一方で社会起業家の育成支援といった実践にも取り組まれている伊藤健先生。フリースクールでの体験が、「社会課題を解決し、人を幸せにするための仕事をしたい」という思いを芽生えさせた原点だったといいます。伊藤先生はご自身の想いをどう実現されてきたのでしょうか。また、変化が激しい時代における「学び」や「働くこと」についてのヒントもいただきました。

目次

寄付や投資の価値をわかりやすく指標化し
資金調達に貢献したい

社会的投資研究者 伊藤健先生

私が特に関心をもって研究している「社会的事業」は、これまでその内容が「いいことかどうか」に着目されてきました。しかし、「いいこと」という理由での投資では、資金が有効に使われない懸念もあります。「いいこと」と同じくらい大事なのは、「本当に問題解決に役立っているかどうか」です。それをわかりやすい指標にして測れるようにしていくのが、私の研究や実践の取り組みだといえます。

たとえば最近では、公文教育研究会が事業を行っている、認知症高齢者の脳機能の維持・改善のための「学習療法」と、認知症予防プログラムであり、元気な高齢者の場づくり、地域の担い手づくりの場として活用されている「脳の健康教室」について、どのくらい社会的な効果があるのかを検証しました。

具体的には、学習療法を導入している介護施設職員や、脳の健康教室の受講者にご協力いただき、施設での介護にどのような効果があると感じているか。脳機能が維持・改善されていると感じているかといった主観的な評価など、複数の項目に答えてもらい、学習療法・脳の健康教室導入前後の変化を比較したのです。

その結果、90%以上の職員が学習療法による対象者の認知機能回復を感じ、ケアが容易になったことを実感したという結果が出ました。社会的に価値があることが実証されたといえます。

このように評価をすることで、「効果のあるいい活動をしているところ」には、資金が集まるようになるのです。その資金調達の流れとしては、大きく2つあります。1つは行政の予算に反映させること、もう1つは民間企業および一般の寄付者からの資金です。

寄付者も、これまでは「いいことをしているから」という判断軸で寄付を決定していましたが、最近では「効果があるから」寄付をする傾向にあります。「どう課題解決しているかデータを見せてほしい」という要望もあり、きちんとしたデータを持つかどうかが資金を集めるカギになります。

チャンスを掴みとるために必要なこととは?

想いの火を燃やし続け、発信し続けていれば
チャンスは向こうからやってくる

社会的投資研究者 伊藤健先生

現在の私の仕事は、社会のニーズや困りごとを解決するために自分が貢献していると実感できるので、とてもやりがいがあります。困難はありますが、それを意識したことはあまりなく、むしろ毎日さまざまな異なる挑戦があり、とてもおもしろいと感じています。

18歳の頃に関心を寄せたことを今仕事にできているのは、やはり頭のどこかでずっと思い続けていたからでしょうか。「こういう社会を実現したい」「こういうことをしたい」と想いの火を燃やし続け、発信し続けていると、チャンスは向こうからやってきます。

そのチャンスを掴みとるためには、自身の力を高めておくことも大切です。現在私は大学で教鞭をとっていますが、日本の教育には「学び方を学ぶ」ことが必要だと思います。私がアメリカの大学院で学んだ際、「考える力」の大切さ、例えば「仕組みを組み立てる力」「異なる事象から共通のパターンを発見する力」などが問われていると痛感しました。日本では知識の獲得が学びとされがちですが、これからの社会で充実した人生を歩むための「学び」については、皆で考えていくべきことだと思います。

私は18歳ではじめて海外に出ましたが、子育て中の保護者の皆さんには、お子さんが中学生や高校生になったら1年間、海外に行かせることをおすすめします。例えば語学は「感覚」です。マネから始めるので、その年頃であれば身につきやすいでしょうし、言葉がわかると現地社会がわかるようになり、おもしろいのです。それを高校生くらいで体験していると、「なぜ単語を覚えなくてはいけないのか」がわかるようになります。言葉は文化であり社会観でもあるので、日本語だけの世界観ではない軸ができ、複眼的な物の考え方ができるようにもなります。

伊藤先生から若者たちへのメッセージ

自分はどんな価値を体現したいのか
社会のなかでそれを実現する生き方を考えよう

社会的投資研究者 伊藤健先生

最近学生と話をしていると、例えば「地元に戻って、家から自転車で通えるところで働き、週末は家庭菜園を」というような将来像を描く学生が目立ち、内向きになっているのが気になります。「衰退する地元をなんとかしたい」という考えはいいと思うのですが、「地域」に視点が置かれている限りは、「地域」以上の視野を持つことは難しい、とも思うのです。

「日本のために」、あるいは「世界のために」、地域で何ができるかを考えたとき、はじめて革新的なやり方で、新しい挑戦ができるのではないでしょうか。成長や学習への意欲は「誰かのために自分は何ができるか」と考えたときに、はじめて湧くものだと思います。私は学生たち世界を知り何らかの気づきを得てもらいたくて、彼らを海外の社会的事業の見学に連れて行ったりしたこともあります。

今は社会の構造自体が変わりつつあります。これまでは学校や会社など何かに所属して生きてきたのが、企業での副業奨励などに見られるように、社会が流動化しているのです。自分がどんな価値を体現したいのか、それをどう社会と切り結んでいくかが問われているし、これからも問われ続けていくと思います。

仕事というものは、「どんな自分でありたいのか」「どんな社会であってほしいのか」の2つがつながるところで生まれ、自己実現はそこでしかできないように思います。単にいい大学、いい会社に行けば自己実現できたと言えるかというと、そうではなく、「いい」とは何なのか、社会のなかでそれを実現する働き方は何か、自分で考えなくてはならなくなっているわけです。

ただ、そうした流れにおいて、学生のなかには、自分が抱いていた「想い」と、社会に出たときの「現実」とのギャップに悩み、心を病んでしまう子もいます。学生と接する立場として、これからはそこを少しでも緩和していきたいですね。そのためには、若者に社会を知ってもらうことも大事ですし、同時に、社会の方をもう少し変えていきたい。そうして若者を含め、みんながもっといきいき生活できる社会になることを目指したい。それは社会起業論を研究している私ができることのひとつだと考えています。

関連リンク伊藤健先生プロフィール


社会的投資研究者 伊藤健先生 

前編のインタビューから

-「社会的投資」とは?
-今の活動の原点となった経験とは?
-伊藤先生がご両親に感謝されていること

 

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