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Vol.023 2015.08.28

指揮者 浮ヶ谷孝夫さん

<後編>

「なりたいこと」「欲しいもの」
ために 叶うまで努力をする
「できる」喜びが未来を拓く

指揮者

浮ヶ谷孝夫 (うきがや たかお)

1953年埼玉県川口市生まれ。1978年に渡独してベルリン芸術大学指揮科のヘルベルト・アーレンドルフ教授に師事。1986年にはポメラニアン・フィル(ポーランド)のドイツ演奏旅行の指揮者に抜擢され、欧州でデビューを果たす。その後は欧州のさまざまな交響楽団の客演を経て、2003年にはブランデンブルク国立管弦楽団フランクフルトの首席客演指揮者に就任。現在はドイツ在住。夫人はフルート奏者の浮ヶ谷順子さん。

ドイツのブランデンブルク国立管弦楽団の首席客演指揮者であり、現在は日本の交響楽団にも招聘され、多くのファンを持つ指揮者、浮ヶ谷孝夫さん。鋳物職人の一家に生まれ、音楽とは縁遠い環境ながら、「指揮者になりたい」という夢を一途に追い、それを叶えられました。コネもなく経済的にも厳しい逆境から、どのように夢を実現したのか。音楽、そして無限の可能性を持つ子どもたちへの熱い思いをうかがいました。

目次

チャンスをつかむのに大切なことは「できるまでやること」と「願うこと」

指揮者 浮ヶ谷孝夫さん

こうしてお話ししてくると、運や偶然に導かれた半生のように聞こえるかもしれませんが、それらがひとりでにやってくることはありません。僕は、チャンスをつかむのに一番大事なのは、「あきらめないこと」だと思っています。そしてできないまま放っておくのではなく、確実に「できるまで努力」する。どうしたらできるようになるかを考えて、試行錯誤を積み重ねることです。

もうひとつは、「こうなりたい」とか「欲しい」と強く思うこと。願わなければ何も始まりません。じつはそうしたことを願った瞬間、すでにその希望の10分の1は手に入っているかもしれないと考えます。たとえば、いい楽器はとても高価です。あるピアニストが、大学でも教えていてそれなりに収入もあるはずなのに、「スタンウェイ(※世界の一流ピアノメーカー)は高すぎて私にはとても買えない」と言っていたのですが、そういう人は一生それを持つことができないでしょう。

逆に、「いい楽器をもっていい音を覚えることは大事だ」と言われて、お金はないけどぜひスタンウェイが欲しいとつねに願っていた学生が、ひょんなことから「うちにおじいさんの古いスタンウェイがあるよ」と、それを手に入れてしまえることもあるんです。それはきっと、「欲しい」ということをあきらめずに願い続けていたから。

僕自身、レッスンに通える余裕はない家庭でしたが、指揮者になりたいと思う一心でできることをやっていたら、ジュニアオーケストラの先生に「僕が教えよう」と言っていただけたし、ベルリンの先生に自分の指揮を見ていただける千載一遇のチャンスがやってきたとき、そういう機会のためにありったけの曲の指揮を暗譜していたから、「こいつは」と見込んでいただけました。

ベルリンの音楽学校にいたころ、僕の前後に指揮を学んでいた生徒は20人ぐらいいましたが、実際に指揮者になれたのは僕だけです。当時、先生から「君は絶対に指揮者になれる。そういう人間だからだ」と言われましたが、いまになって、先生がおっしゃっていたのは、大事なことは才能のあるなしではなく、自分のやりたいことのためには、それこそ寝食を忘れて頑張れるほどの情熱があれば夢は叶う、という意味だったのだと分かります。

指揮者という仕事は舞台の上でライトを浴び、何十人ものオーケストラに指示を出して音楽を作り、拍手をいただける。こんなにいい仕事はないですね。だからこの仕事をするためだったら、どんな努力も惜しむまいと思ったのです。夢を叶えるには必ず代償がつきものですが、僕の払える代償は「努力」と「考えること」だけでしたから、どうしたら叶うのかを一生懸命考え、努力しました。

浮ヶ谷さんが考える「いくらあっても荷物にならないモノ」とは?

地道な「努力」と「我慢」の先にある「できる」という実感と喜びを持ってほしい

指揮者 浮ヶ谷孝夫さん

日本とドイツの子どもたちを見ていて僕が感じるのは、子どもたちの「やる気」の大きさの違いです。日本では親が「高校まで出なさい」「大学までは面倒を見よう」とだいたいのレールを敷いてくれますが、ドイツでは親が口を出すことはなく、小学校を出るときに学問の方に進むか、職人の道に進むかなど、子どもたちが自分で方向性を決めています。だから目的意識がとても高い。親御さんたちはぜひ、子どもたちに自分で将来の目標を設定させてみてはいかがでしょうか。そうすればおのずからエネルギーが湧いてきます。

目標が定まったら「努力」や「あきらめないこと」が必要だというのは先ほどお話ししましたが、もうひとつ、「我慢」も大事だと思います。自分には少し難しいと感じられるところを背伸びして、我慢してやり続ける。しばらくすると、背伸びの幅が小さくなって、難しいと感じなくなる。そうしたらまた少し背伸びをして…これをくり返していけば、人間は無限に成長できると思います。私はよく若い人たちに「能力はいくらあっても荷物にならないよ」と言っています。モノは貯まれば邪魔になるけれど、人間が身につける能力は決して邪魔にならないんです。

「できる」って、とてもうれしいこと。多くの人にこの感覚を持ってもらいたいですね。とくに子どもは可能性の塊です。まずは「なりたいこと」「欲しいもの」を持つこと。そして我慢してこつこつと努力を積み重ねること。その先にあるものを、ぜひ掴んでほしいと思います。

浮ヶ谷さんのいまの夢とは?

「人間が人間らしくあるための感動」を音楽を通して共有することがいまの夢

指揮者 浮ヶ谷孝夫さん

僕のコンサートはおかげさまで2ヶ月前に完売になることもあるくらい好評をいただいているのですが、日本のメジャーなアイドルにはおよびません。でもそこに肩を並べるくらい、もっと多くの人にクラシックコンサートを楽しんでいただきたいという夢があります。

具体的に、山梨のホテルの敷地で欧米のような野外音楽祭を開く話や、数年後にできる東京駅前の公園で、5000人規模の野外コンサートをおこなう話が出ています。クラシックって難しいと思われがちですが、たとえば知識がなくても美味しい食べ物なら誰もが感動できるのと同じように、クラシックの知識がなくたって本当に素晴らしい演奏であれば、どなたでも感動していただけると思います。音楽には、モノであふれた時代だからこそ大切な、勇気や切なさ、喜びといった、人間が人間らしくあるための感情がつまっています。それに触れる感動、幸福感を多くの方に与えることが、音楽、そして文化の意味なのだと考えます。

親御さんの中には、子どもをクラシック音楽に触れさせたいが、どういうものから入ったらいいか迷っている方もいらっしゃるかもしれませんね。最近は幼児向けのコンサートなどもあるので、そういうものもいいかもしれません。ただ僕は、初めての体験には「一流の音楽」を聴かせてあげるのがいいんじゃないかと思います。僕の師匠である偉大な指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤン先生は、定期演奏会では午前中のリハーサルを子どもたちに公開していました。僕も、子どもさんだからこそ本物の音を聴いてもらって、それが好きかどうかを感じてほしいと思います。

はじめは何も知識がなくても構いません。でもさらに踏み込みたければ、演奏曲をCDやYouTubeなどで、何度か聞いてから出かけてみるのがいいですよ。たとえばどこかの知らない街を観光で訪れるとき、一度行けば「あそこにああいう建物がある」とインプットができて、そこにあと10回行けばその記憶が完璧なものになると思います。それと同じで、1回、2回と聴くことで、その曲の雰囲気は前よりもつかめるでしょう。大事なことは音楽を論評することではなくて、「よかった!」という感動が得られるかどうかなのですから。

カラヤン先生は、「コンサートの回数はできるかぎり少なくし、十分に準備をして、やる気満々で臨めるような演奏家になりなさい」とおっしゃっていて、実際、年に12回くらいしか指揮はしませんでした。私もコンサートの前には時間をかけ、最低300パーセントの準備をします。100パーセントの準備の後に、さらにそれをもうふたつ。やることはもうないと思っても、おさらいをします。「前のコンサートよりよくする」と決めているのです。私は、お客さまが聴いて“生きていてよかった”と感じられるような「圧倒的な感動」を与えられる音楽があると思っています。どうしたらもっとよくなるか?を突き詰めて考え、そのような「圧倒的な感動」を与えられる演奏をお客さまにお届けできる指揮者でありたいと思います。

指揮者 浮ヶ谷孝夫さん  

前編のインタビューから

– 将来の夢を決定づけた初めて聴いたコンサート
– チャンスを引き寄せた熱意と努力
– 指揮者デビューの舞台、緊張を解いた妻の言葉とは?

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