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Vol.087 2022.04.01

ピアニスト
中川優芽花さん

<後編>

まずは行動して失敗して学ぶプロセスは
音楽にも勉強にも大切なもの
失敗しても、すべての経験は力になる

ピアニスト

中川 優芽花 (なかがわ ゆめか)

2001年ドイツ・デュッセルドルフ市生まれ。日本人学校を経て小学3年生から現地校へ編入。4歳でピアノを習いはじめ、10歳となった2012年から18年まで学校の勉強と平行してデュッセルドルフ市のロベルト・シューマン音楽大学のジュニアコースで学ぶ。高校時代にはイギリスで最も古い専門音楽学校The Purcell School for Young musicianに留学。現在はドイツのフランツ・リスト・ワイマール音楽大学在学中。2022年3月には日本でソロリサイタルを開催。

若手ピアニストの登竜門として知られるクララ・ハスキル国際ピアノコンクールにおいて、19歳で見事優勝された中川優芽花さん。「ここまでこられたのは、周囲の方々のおかげ」と感謝の気持ちをのべる中川さんは、ドイツで生まれ育ち、学校やピアノのレッスンに加え現地の公文式教室にも通われました。そこで身につけた集中力や理解力は、現在にも活かされているそうです。現在住んでいるワイマールの街が大好きという中川さんに、ピアニストを目指すまでの道のりのほか、街の魅力やドイツでの日常生活など幅広くうかがいました。

目次

自信を失い「ピアノをやめよう」と思ったことも

ピアニスト 中川優芽花様さんワイマールの街中で(カール・アウグストの騎馬像)

ドイツの教育制度は日本とは少し異なります。小学4年生から5年生になる10歳くらいの早い時期に自分の道を決めるのです。ドイツの小学校は実際には4年生までしかなく、小学5年生から先は、5種類ほどの進学の道があり、そこから選択します。私はギムナジウムという8年制の中・高等学校一貫コースに進学しました。だいたい大学を目指す人が通うコースで、日本でいえば小学5年生から高校3年生までが同じ学校に通学しているイメージです。

ギムナジウムに進むのと同じ10歳の頃、ロベルト・シューマン音楽大学のジュニアコースに合格し、2週間に1回週末に音楽理論と歴史の授業を受けに通い、それ以外にも週に1度師事している教授からレッスンを受けられました。その時期からコンサートで演奏させてもらえる機会も増えていき、ピアノは私にとって一段階上の存在になりました。ピアノは楽しいけれど、あくまでも趣味という位置づけから、プロへの道を考えるようになっていったのです。

そうして学業とピアノを並行していたのですが、15歳の夏、「もうピアノはやめよう」と思ったことがありました。同じ年代の子と自分を比べてしまって、自分に自信がなくなってしまったのです。趣味のレベルではなくなってから、世界的なコンクールに触れる機会が多くなり、そこで受賞する子たちをみて、「自分はここまでの才能はないのでは」と感じてしまいました。ピアニストではなく、普通の職についたほうがいいかもしれない、と考えることもありました。

その思いが変わったのは、あるアカデミーの合宿レッスンでピアニストの海老彰子さんに話しかけられたことがきっかけでした。「やめようかな」と思う前に予約していたため、迷う気持ちの中参加した合宿レッスンでした。そこで私が演奏するピアノを聴いてくださった海老さんから演奏後に話しかけられ、「がんばってね」と言ってもらえたのです。それがうれしくて、「自分はそこまでダメではないのかも」と勇気をもらいました。海老さんから掛けられた一言で気持ちが前向きになり、「自分はピアノを続ける」と決心がつきました。

「立体的に」演奏するとは?

「立体的に」演奏できるようになるには、
さまざまな経験をすることが大切

ピアニスト 中川優芽花様さん

とはいえ、普通校に通いながらピアノを究めるのはとても大変です。そのため、高校1年でイギリスの音楽学校に留学・編入しました。ピアノをするには英語は大事な言葉なので、言語もしっかり学びたいと考えました。

はじめての寮生活で、最初は家族と離れて寂しい気持もありましたが、音楽漬けで忙しく、友人もできたし、そこまで不安ではありませんでした。むしろとても新鮮な日々で、多くのことを学べたと思っています。ドイツに戻った後は、師事したい先生がいらっしゃる今の音楽大学に進みました。

好きな作曲家は……モーツァルトもリストも、シューマンもバッハも好きですし、回答に困りますね。作曲家は皆、すばらしい作品をのこしていて、それぞれの曲を弾くのが毎回楽しみです。弾くときは探索するというか、自分でいろいろなことを感じて、自分なりの発見をするのが好きです。楽譜の上に書いてあることは作曲家のメッセージだと思っているので、それをくみ取りつつ、自分の個性を自然に出すことを意識しています。

そのためにはレッスンを重ねるのはもちろんですが、それだけが大切ではないと思います。他の人とコミュニケーションをとったり、いろいろな経験をしたりすることも音楽には大事です。それらによって感情がより深まり、繊細なニュアンスも表現できるようになると思うからです。

例えば、旅行することも大きな経験だと思います。作曲家が生まれ育った地に行って、その国の文化を学んだり、言語のアクセントを聞いたりすることは、いろいろな発見がありますし、より作曲家を理解することにもつながります。

あるコンクールで、審査員の方に言われたコメントが心に残っています。音楽を演奏するにあたり、「観る」と「聴く」だけでなく、においや感触までを出せるような演奏の仕方をイメージしなくてはならない、立体的に感じるようにならなければならない、というような内容でした。最近は、YouTubeで何でも見たり聞いたりできますが、それだけでなく実際現場に行ってみて、体全体で感じることが大事なことなのだと実感しています。

また、音楽を演奏するときには、ポジティブな感情だけでなくネガティブな感情も大切だと思っています。元々私はポジティブなタイプですが、イギリスでは親元を離れて最初は不安でした。そうしたネガティブな感情を持てたのは、いい経験だと思っています。

このようにさまざまな経験をさせてもらい、温かくサポートしてくれた両親には感謝してもしきれません。逆にその分、「自分で決めたからにはしっかりやりなさい。周囲の方々への感謝の気持ちと思いやりを忘れないように」とも言われていますが、その言葉によって自分を奮い立たせることもできています。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

好きなことを楽しくやろう

人と比べるのではなく
自分が楽しく続けられることが大事

ピアニスト 中川優芽花様さん

心がけているのは、自分が好きだと思ったことを全力で行動すること、何ごとも挑戦することです。これは、子どもの頃から変わっていません。先にもお伝えしたように、失敗もいい経験だと前向きに捉えるのが私のポリシーです。

「好きなことを全力で楽しむ」というのは、演奏にも共通して言えると思います。コンサートなどで自分自身が「これは好きだ」「これは楽しい」と思って演奏していないと、観客の心もつかめないと思うのです。

ピアノの作品というのは、人生ですべて弾き終えないくらい本当にたくさんありますが、さまざまな音楽家の作品を演奏するのが目標です。私はとくに内田光子さんの演奏が大好きで、よくCDを聴いています。音色(おんしょく)を魔法使いのように使い、聞いていて楽しくなるのです。とても魅力的で、私もそんな演奏をしたいと思っています。

感情を表現するには音色が大事だと思うので、「音色」や「音の質」の研究も、これからもっとしていきたいです。例えば、「寂しい」「悲しい」感じの音を表現するには、心細い繊細な弱い音を使いますが、芯がしっかりしていないと音が通りません。やはり立体的に考えて研究していくことが必要だと思っています。聴きに来る方々は、そうした演奏を聴いて楽しむために会場に足を運んでくださるのだと思うので、いろいろな音楽をいろいろな感情で提供できたらと思っています。

また、言語にも興味があるので、コンサート活動を通していろいろな国に行き、いろいろな人たちとコミュニケーションをとったり、文化に触れたりしたいです。そうして知識や感情・経験を深めていきたいと思っています。

自分の経験から、人と比べるのではなく、自分が楽しく続けられることが大事だと思っているので、まだ小さい子たちには「失敗を恐れずに前向きに進んで。行動しないことには何も始まらないよ」と伝えたいです。そうすることで広い世界につながると思います。小さな歩みも、やがて大きな歩みになると思うので、がんばってほしいです。

私もピアニストとして、学ぶことはまだまだたくさんあります。私自身、常に前向きな気持ちを忘れずに、目標をしっかりと持ってこれからもがんばりたいと思います。

前編を読む

関連リンク Prize 2021, Yumeka Nakagawa – Chopin – YouTube


中川優芽花様さん   

前編のインタビューから

-バッハ、リスト、ゲーテ、シラー……偉人たちに出会える歴史と文化の街ワイマール
-子どもの頃から好奇心やチャレンジ精神旺盛 熱中しすぎて親を慌てさせたことも
-ドイツ語は不得手でも公文式で算数が得意になったことが自信に

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