施設での導入事例:友の丘

「ルーナと公文式学習は、人間はいくつになっても、
障害があっても、成長できるということを実証してくれています」

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B型事業所を“一日をすごす居場所”ではなく
“就労をめざすステップアップの場”にしたい

就労継続支援B型事業所・友の丘は山梨県北杜市にあります。南アルプスを間近に望み、山紫水明という言葉がよく似合う地域です。20人ほどの利用者さんたちが、朝9時30分から午後3時まで、食品容器リサイクル関連の仕事をしています。そして、3時になると仕事を終えて着替え、何台かの車にスタッフとともに分乗。20分ほど離れたJR韮崎駅にほど近い学びの場、友の丘ルーナ(韮崎市)へ移動。4時~5時の約1時間、公文式の算数と国語の教材に取り組みます。

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ちなみに、ルーナの道を隔てた反対側は山梨県立韮崎高校のグラウンド。サッカーや野球の練習をする高校生たちがすぐ目の前にいたり、ブラスバンドが奏でる楽曲も聞こえてきたりと、学びの環境としては最適です。韮崎高校はサッカーの強豪校として全国的にも名を馳せ、最近ではノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智博士の出身校としても知られています。(※ルーナは友の丘の学習サテライト的な施設ですが、制度的には「日中一時支援事業所」になります。)

友の丘の浅川さん(統括施設長)に、公文式導入までのいきさつをうかがってみました。

「2006年に友の丘を立ち上げ、きれいな環境で誇りがもてる仕事を目標に取り組んできました。B型事業所ですが、一般就労する人も出ています。6年ほど前から障害が重い子たちが増えてきまして、いまでは全体の3割近くが重度のレベルですね。まず課題になったのが仕事のやり方です。友の丘のメインの仕事は、食品容器のリサイクルなのですが、重度の子は軽度の子と同じようにはできません。そこで、スタッフみんなで考え、例えば軽い子には1工程でよかった作業を、3工程か4工程に分ければ重い子たちにもできる作業や役割があるとわかったのです。それに、障害が軽いか重いかにかかわらず、どの子も何かしら良いところをもっています。手先はちょっと不器用だけど、ていねいにやろうとする子。たまに座りこんでしまうこともあるけれど、いったん仕事をやりだせば早く仕上げられる子。そこを活かして仕事ができるようにしていくことを心がけています」

左が浅川さん(統括施設長)

左が浅川さん(統括施設長)

「仕事の課題をクリアできて、つぎに考えたのが、工賃、お給料のアップです。障害が重くても、自分で働いて稼いだお金で、自分が好きなものを食べる、ほしいものを買う、家族にごちそうするといった経験をなるべくたくさんしてほしいんです。その経験があれば、働く意味やよろこびもわかり、就労にもプラスになるからです。でも、お給料のアップとなると、仕事の量も質も高めないといけません。それには基礎的な読み書き・計算が大切だとわかり、市販のドリルや教具類で試してみました。公文式を導入する半年以上前のことです。けれど、なかなかうまく教えられなかったり、続かなかったりしました。そのうち、就労移行支援事業所で公文式を導入している施設(フォレスト、東京・葛飾)があることを知り、スタッフたちと見学させていただきました。なるほどと思い、あの子たちに公文式を学ばせたいという気持ちが一気に高まりましたね」。

「もうひとつ大切にしていることがあります。いまはB型で働いていますが、将来的には仕事に就くことをみんなの目標にしてほしいのです。そのための公文式学習でもあります。とはいえ、保護者の方たちの賛同が得られるかはわかりませんでした。B型を利用される方ご自身もご家族も、障害が重ければなおのこと、働く場所があってお小遣い程度でもお給料をもらえればいい、一日をすごせる場所が家以外にもあればいいと思われる方が少なくないのが実情ですから。もちろん、居場所があるのはとても大切です。しかし、就労できる可能性はゼロではないのですから、B型を運営する責任としても、学習を積んで、学力も能力も高め、できるだけ就労を目ざしてほしいのです」。

友の丘の保護者のみなさんも浅川さんと同じ想いだったようで、公文式の導入が実現することになり、2015年8月から友の丘での公文式学習がスタートしました。

食品容器リサイクルの仕事風景(友の丘) プラスチック食品用容器などについているアルミ箔部分を剥離し、プラスチックとアルミ箔に分け、リサイクル可能にする。エコで、クリーンな仕事。

食品容器リサイクルの仕事風景(友の丘)
プラスチック食品用容器などについているアルミ箔部分を剥離し、プラスチックとアルミ箔に分け、リサイクル可能にする。エコで、クリーンな仕事。

イライラが減り、穏やかな顔、笑顔が増えた

公文式学習のリーダーであり、ルーナの責任者でもある仲沢さんに、この2年間の利用者のみなさんの変化をうかがってみました。

「公文を始める半年くらい前に、市販のドリルや教具類で文字や数を教えていたとき、読んだり書いたりするのを彼らが楽しんでいることは感じていました。ただ、こうして公文の教材を本格的にするのはどうだろうか、それも重度の子たちを含む20人ほどが、同じ部屋で同時に学習するわけですから、教材に取り組めるかどうかさえ気がかりでした。座っていられるか、騒いだりしないか、ストレスにならないか、いろんなことが頭に浮かびました。スタートしてみると、騒いだり、走りまわったりする子もいて、しばらくはあわただしい学習状態でしたが、それも1か月ほどでおさまってきて、全体がだんだんと落ち着き、3か月目にはほとんどの子が静かに学習できるようになりました。これは、できることをさせ、できたことを認めてほめる。これを毎日続けた賜だと考えています」。

こう書くと、それほどたいへんでなかったようですが、じつはスタートした月はほぼ毎日、公文式学習の約1時間をビデオ撮影。学習終了後、指導に関わったスタッフ全員(4~5人/日)で録画を見て、利用者さんの学習の様子や教材提出時の動線の確認、スタッフの役割分担(指導・採点)などを再考し、翌日の学習に反映していました。こんな努力もあってこその“静かな学習”であったのです。

「公文をスタートしてそろそろ2年がたちますが、その学習効果にはびっくりするばかりです。障害が軽度の子は教材進度が高くなり、あわてて教材を発注するという場面も増えました。この子たちは学習姿勢もですが、仕事っぷりに磨きがかかりました。重度の子たちは、知的にも重度なので教材進度は2年たっても同じ教材か1教材進んだという子がほとんどです。しかし、仕事や日常生活では大きな変化があります。以前は仕事を放棄したり、その場にしゃがみこんで動かない状態が目立ちましたが、いまはそういう状態はかなり少なくなりました。生活面では、落ち着かなかったり、イライラしたりする日も多かったのですが、これも驚くほど減りました。反対に、穏やかな表情や笑顔を見ることのほうが多くなった気がします」。

こうした変化は別の面でも現れてきています。重度の利用者のみなさんはとくにだそうですが、抗不安薬(精神安定剤)の服薬量が減った方が多いといいます。薬を飲まなくてもだいじょうぶなほど、心が安定している時間や日が増えてきているのかもしれません。

仲沢さん

仲沢さん

こんどは、公文式学習のスタッフ、太刀川さんにうかがってみましょう。

「わたしは、ルーナで学習のサポートをさせてもらうようになってまだ半年ちょっとなので新米ですが、その半年のあいだでも、みんな変化していますね。甘えが強く、何度もスタッフに聞いて補助してもらわないと学習を始められなかった子が、自分ひとりで学習できるようになる。学習開始5分前には、教材セットを自分の机に置き、“手はおひざ”できちんと待てるようになった子。以前は、学習開始の合図が待てず、座るとすぐに学習をはじめてしまっていた子が、いまは時計を見ながら待ち、開始の合図でスッと書き始める。みんなすごく成長していると思います。そういう変化が見られるので、わたしもとてもうれしいです」。

太刀川さん

太刀川さん

保護者の“想い”
障害があるからこその、学習の大切さ

さて、ここで友の丘の利用者さんの家族お二人の“想い”をご紹介しましょう。まず、お一人めは、26歳の男性(自閉症・重度)、Kさんのお父様からいただいたお便り(一部)です。

生活サイクルのなかに「労働」「運動」「衣食住のための基本動作」に「学習」が加わったことで、Kの生活に徐々に変化がおきてきております。

1.帰省中の自宅での学習が、親子関係を梃子(てこ)にした半強制的な学習から、自発的な学習に変化しています。自宅での学習でも、学習前に挨拶をしてから学習するようになり、文字や数字・数量に関する関心を持つようになりました。

2.以前は、「労働」と「運動」、「衣食住のための基本動作」の「すきま時間」に突然の走りだしや奇声、歯笛などの意味不明な行動が多発していましたが、そのような行為が少なくなり、自分のケアホームの部屋、帰省中の自分の部屋でCDを自ら聞くなど行動が落ち着いてきております。

3.1、2の副次的効果と想定しておりますが、夜尿も大幅に減ってきております。成人してからも夜尿が多かったのですが、この夜尿は生理現象というより、無意識ながら自分の存在が十分にみとめられていないことへの反抗という側面があると私は考えており、ルーナの「学習」という自己肯定感につながる生活サイクルが加わったおかげであると感じています。

ルーナと公文式学習は、人間はいくつになっても、障がいを抱えていても成長できるということを実証してくれています。私自身63歳ですが、あらためて自身の生活サイクルに「学習」プロセスを意識的に組み入れたいとあらためて感じております。<原文のまま>

お二人めは、20歳の女性(知的・重度)、Aさんのお姉様です。この方は大学の福祉学部4回生で、妹のAさんの最近の変化に目を見はり、ルーナを見学してさらに驚き、卒論のテーマを「成人期知的障害者の基礎的学習への支援に関する研究」にしたそうです。

「学習そのものに興味関心をもったのは妹のAが小学5年、わたしが中学1年のときでした。Aは特別支援学級にいたからでしょうか、その年の夏休みは宿題がでなかったのです。いつもの夏休みはドリルなどをいっしょにするのですが、その夏休みはわたしも母も忙しく、ほとんど学習らしいことができなかったと記憶しています。そして、2学期。1学期にできていたひらがなの読みができなくなっていることに気づき、とてもショックでした。続けていないと、できなくなるんだとわかりました。それも、本人の責任ではないところで、できなくなってしまったことに、すごく悲しい想いになりました。そうして、Aが1年ちょっと前にルーナに来て、学習をはじめると変わりはじめました。家でも読めるひらがなを自分でノートに書き写したり、本を手にして、ここに何か書いてあるよと指さしたりと、文字や言葉への興味がずいぶんと高まりました。それで、ルーナでどんな学習をしているのかと気になり、見学してみてびっくりでした。重度の方たちがこんなにしっかり学習している。その学習が生活面やメンタル面にも良い影響を与えていると、スタッフの方たちからうかがいました。自分は福祉学部の学生なので、学習・教育というテーマでどのくらい研究を深められるかはわかりませんが、“障害”と“学習”を卒論のテーマにしようと決めました」。

ともに働く仲間がいる、ともに学ぶ仲間がいる。
そして、可能性はまだまだある

ここまで読まれて、「なぜルーナは仕事場がある友の丘とは離れた場所にあるのだろう?」と疑問に思われた方もいらっしゃるでしょう。じつは、友の丘での公文式学習がスタートした2015年8月からの3か月間は、友の丘内の食堂で、仕事が終わったあとの約1時間、公文の学習をしていました。しかし、利用者のみなさんの学習状態が日に日に良くなり、時間はかかっても就労を目ざしてほしいという友の丘のスタッフの方たちの強い想いから、“より学習に集中できる環境(学びの場)づくり”・“利用者さんのモチベーションアップ”・“地域に開かれた施設”などを目的に、同年11月に山梨県立韮崎高校の真向かいという最良立地のルーナ(日中一時支援事業所)を開所。利用者の方たちは、友の丘での仕事を3時に終えたあと移動、月曜から木曜の4時~5時、公文の教材に向かっています。

公文式学習開始時のあいさつ(ルーナ) 公文の学習では、始めと終わりに、それぞれあいさつがある。始めのときは「これから、公文の算数をはじめます。(礼!)よろしくおねがいします」。このあいさつで、仕事や休憩モードから、学習モードへ切りかわる。

公文式学習開始時のあいさつ(ルーナ) 公文の学習では、始めと終わりに、それぞれあいさつがある。始めのときは「これから、公文の算数をはじめます。(礼!)よろしくおねがいします」。このあいさつで、仕事や休憩モードから、学習モードへ切りかわる。

ふたたび、統括施設長の浅川さんです。

「公文をスタートして、あっというまの2年でしたが、本当にどの子も変わってきました。重度で数は憶えられないと思っていた子が、4までの数(量)がわかっているらしいことに最近気づきました。やはり重度で、もう発語はないのかなとなかばあきらめかけていた子が、発音はまだ不明瞭ながら元気なあいさつができるようになる。日常的に心が安定してきて、精神系の薬の服薬が目に見えて減った子が何人もいる。これらはまだごく一部で、細かく見ていくと、もっと深く広い変化があるので、スタッフたちもですが、わたし自身がいちばん驚いています」。

「こういった変化だけでもすごいことですので、保護者の方たちもとても喜ばれています。ただ、やはり目ざしたいのは就労です。仕事に就いて60歳、65歳までふつうに働く。自分で働いたお給料で、自分の人生を歩いていく。公文をはじめてから2年間の彼ら彼女たちの変化と成長をつぶさに見てきて、その可能性はゼロではない、可能性はまだまだあると確信できました。いっしょに働き、ともに学ぶ仲間がいる。そのなかから、1人2人ではなく、5人10人と仕事に就く仲間が出てくる…。まだ夢のような話ですが、ぜひ実現を目ざしたいですね」。

きょうも、そして明日からも、友の丘の利用者のみなさんとスタッフの方たちの挑戦は続きます。微力ながら、KUMONもそのサポートをさせていただきます。

【おことわり】友の丘のスタッフの方たちは、利用者のみなさん(ほとんどが成人)を「この子たち」「彼ら」などの表現で話しています。これは利用者さんもスタッフも、友の丘を大きな家族のようにとらえているためです。そこで、この記事中でも、あえてそのままの表現で記しています。

(2017年8月現在)

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