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Vol.024 2014.02.18

学習療法-映画『僕がジョンと呼ばれるまで』

ドキュメンタリー映画
『僕がジョンと呼ばれるまで』
メイキングストーリー
海を渡った「学習療法」

日本で2001年に研究開発がスタートした「学習療法」。2011年5月に国境を越え、アメリカ合衆国オハイオ州クリーブランドの高齢者介護施設エライザ・ジェニングス(以下「EJ」)でのトライアル(実証実験)がスタート。23人の認知症高齢者が参加し、半年間におよぶ挑戦が始まりました。今回は、その様子を収録したドキュメンタリー映画のご紹介です。

目次

「テレビ番組だけではあまりにもったいない」

KUMON EJでの学習療法の様子
EJでの学習療法の様子

日本ではこの10年間で約1,600施設、13,000人の方が「学習療法」(以下「学習療法」)を実践され、多くの驚くべき効果が表れています(前回のトピックスVol. 023「学習療法誕生秘話」をご参照ください)。しかし、今回のトライアルは海外。言葉や習慣や文化も違うアメリカで、同じような効果が得られるのか? それは全くの未知数でした。

このトライアルの情報を、学習療法の開発メンバーのお一人である川島隆太先生(東北大学加齢医学研究所教授)から聞いていた仙台放送(フジテレビ系列の放送局)は、トライアルの様子をぜひ取材したいと考えました。当初はテレビ番組の一部としてオンエアすることを視野に入れ、取材が開始されました。ところが、毎月渡米して学習者(認知症高齢者)の様子を取材するうち、たくさんの奇跡ともいえるような事例を目の当たりにした仙台放送の取材スタッフから、「この取材内容をテレビ番組だけで終わらせるのはあまりにもったいない」との声が上がり、「ドキュメンタリー映画化」という決定がなされ、この3月の公開に至っています。

「ジョン」って誰?

題名にもある「ジョン」は、EJの実在のスタッフ。役者さんではありません。この映画ではナビゲーター役として登場し、ナレーションも担当しています。興味深いことに、彼はもともとは施設のメンテナンスをする仕事で、介護とは直接関係のないスタッフだったのです。EJが学習療法のトライアルをスタートするとき、その記録ビデオを撮る役目を担うことになり、学習療法にひかれ、ついには自身が学習療法のサポーターに立候補、高齢者の方々とじかに接するようになったのです。

トライアルがスタートすると、高齢者の方たちはどんどん変化していきました。少しずつ昔の記憶を取り戻す。まったく身なりを気にしていなかったおばあちゃんが、鏡を見て身だしなみを整えだす。オムツをしていたおじいちゃんが、尿意がもどり自らトイレに行こうという気持ちが湧き、やがてオムツをはずすことができる。そんな姿や変化を見て、「ジョン」自身が「人間が最後まで人間らしく生きる」ということの大切さを深く考え、「自分もやがては年を取っていく」と実感する印象的な場面が描かれています。

これは同時に、私たちにもあてはまることです。年齢だけは誰しも平等に重ねていきます。それだけはどんなに裕福であろうと幸せであろうとも抗えない事実。自分の家族のこと、やがては自分自身の未来のことを考える、そんなきっかけを与えてくれる映画になっています。

「撮影秘話」

KUMON アメリカで使用されている学習療法の教材

KUMON アメリカで使用されている学習療法の教材
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アメリカで使用されている学習療法の教材

この映画には、トライアルのわずか半年間で、どのおじいちゃん、おばあちゃんもとても大きな変化をされている姿が収録されています。ネタバレするのであまり詳しくは書けませんが、取材に立ち会うために何度かEJを訪れた日本のKUMONのスタッフも、予測していたとはいえ、その変化に本当に驚かされたといいます。

例えば、あるおじいちゃんは、最初にお会いしたとき、表情も乏しく、まったく無気力で、ほぼ一日ベッドにいるという状態でした。それが3か月後には、自ら歩いて大広間に出て、ほかの高齢者とおしゃべりをするまでになっていました。また、別の方は、常に落ち着きがなく、そばにある何かをいじっていないと気が済まなかったのですが、現在は少々手は落ち着きがないものの、人とのコミュニケーションが徐々にとれるようになり、表情も明るく笑顔が出るようになってきました。さらには、車イスにたよっていた方が、歩行器を使って歩こうとしたり、学習をしても初めのうちはほとんど何を書いているかわからない状態だったのが、3か月後には自分の名前、曜日や時間も記入できるようになり、字も別人が書いたかと思うほどしっかりとしてきました。

この映画では、高齢者の方たちの変化はもちろんですが、それを支えるご家族の気持ちの変化も描かれています。ご家族、特にお子さんたちにとっては、自分の親が、どんどん記憶を失い、わが子である自分のことまで忘れてしまうというのは、想像を絶する辛い出来事です。そして、「病気だから」と自分に言い聞かせ、自分の感情を押し殺し、最期のときが来るまで世話をする。そう心に決める。そんな辛さだけが募る病が、これまでの「認知症」でした。

けれども、一度はあきらめていた認知症の症状が、学習療法によって少しずつ改善し、自分のことや孫のことまでしっかりと思い出し、元気なころの親に戻っていく姿を見て、「本当に施設の皆さんには言い表せないほど感謝をしている」とお子さんたちは話されています。高齢者ですので、やがては見送ることは変わりませんが、認知症で自分のことも忘れたまま他界するのと、親として、人間の尊厳を保ちつつ旅立たれるのとでは、残された家族の気持ちは雲泥の差でしょう。ご家族にとっては、学習療法が一筋の光になっているのではないかと思います。

また、映画のなかではメインの話としては語られませんが、もうひとつ大切なこととして、EJ全体のスタッフたちの変化があります。EJは全米でも120年の歴史を誇る高齢者介護施設で、もともと「人を中心に考える(パーソン・センタード・ケア)」という考えのもと、創設・運営されている施設です。しかし、現CEOであるデボラ・ヒラーさんは「そういう思いは強くても、実際の介護の仕事のなかで、“人を中心に”を実現するための方法はなかなか見つけることが難しく、理想と現実のギャップで、長いあいだ試行錯誤していました」とコメントしています。

そんなとき出会ったのが学習療法だったのです。デボラさんは日本に何度も来日され、自ら学習療法を学び、実践し、強い確信を持って、EJのスタッフに伝え、長い時間をかけて準備をし、トライアルに臨みました。そして、学習療法を始めてみると、映画でも映像として収録されている「奇跡」が数多く見られるようになったのです。

このことで、EJのスタッフ、それも介護に直接かかわっていないスタッフたちまでもが、ジョンと同じように変わってきました。施設のバスの運転手や調理担当のスタッフが、学習療法のサポーターをしたいと名乗り出てくれるようになったのです。今では、EJのスタッフ全員が、学習療法のことを中心に考えて施設の運営をしてくれるのが当たり前になってきたといいます。

EJの後日談

さて、ここまで映画にまつわるお話をしてきましたが、この映画の取材が終わったあと、「その後」も気になるところではないでしょうか。 それについては、こんなメッセージをEJのCEOデボラさんからいただいています。(下段に日本語訳)

In 2011, Eliza Jennings was the site of the first U.S. research trial of SAIDO Learning™. The six-month trial produced significantly positive results, and Eliza Jennings subsequently offered SAIDO Learning™ to residents throughout its communities with equally dramatic outcomes. Now the sole licensee of SAIDO Learning™ outside of Japan, Eliza Jennings is prepared to sublicense SAIDO Learning™ to aging service organizations across the United States beginning in October 2013. We are thrilled to partner with Kumon Institute of Education to provide this breakthrough, non-pharmacological treatment. For the first time in America, we can improve the symptoms of Alzheimer’s disease and dementia and set goals for improvement. We share Kumon’s excitement in the knowledge that SAIDO Learning™ will not only provide hope, but will also have a profound impact on the quality of life of older adults with dementia and their families.

2011年、エライザ・ジェニングス (EJ) で6か月にわたるSAIDO Learning(アメリカでの「学習療法」の登録商標)の実証実験が行われました。そのトライアルの目覚ましい成果を目にした私はEJの施設の入居者全員にSAIDO Learningの機会を提供することにし、そこでもまた劇的な効果をあげています。このたび、海外では唯一のSAIDO Learningのライセンシーとして、2013年10月より全米の高齢者福祉サービス提供者に学習療法のサブライセンスを付与する体制を整えました。公文教育研究会と提携してこの画期的な非薬物療法を提供できることを心から喜んでいます。私たちは、アメリカで初めて、アルツハイマー症や認知症の症状の改善に取り組み、改善に向けての目標を定める活動に取り組む機会を得たのです。SAIDO Learningは、認知症高齢者に希望を与えるだけでなく、ご本人やご家族の人生を輝かせるものとなるのです。私たちは公文教育研究会とその興奮を分かち合っています。

そうなのです。学習療法に確信を持ったEJのみなさんが、今度は全米に学習療法を広げるべく、活動を開始されたのです。日本以上に多くの認知症高齢者がいるアメリカに、「学習療法」が「福音」となること願ってやみません。

関連リンク 「学習療法」誕生秘話|KUMON now! 学習療法センター 学習療法の記録がドキュメンタリー映画になりました

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