スペシャルインタビュー
Academic Milestones - 学びを究める力

2015/03/20更新

Vol.019 眼科医 高橋広先生  前編

寄り添うことで、
人がもつ力を見つけ最大限に引き出し
ときには背中を押す

高橋 広 (たかはし ひろし)
1950年兵庫県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、医学博士。産業医科大学医学部助教授、柳川リハビリテーション病院眼科部長などを経て、現在は北九州市立総合療育センター眼科部長。日本ロービジョン学会前理事長、現理事。獨協大学越谷病院特任教授、慶應義塾大学医学部や福岡教育大学特別支援教育課程非常勤講師なども務める。

視覚に障害がある人たちに寄り添い、もっている機能や力を見つけ、最大限に活かして生活改善につなげる「ロービジョンケア」。その大切さを訴え続けているのが、日本のロービジョンケアの先駆者、高橋広先生です。「ごくふつうの眼科医でした」という高橋先生が、ロービジョンケアに心血を注いで取り組むようになったのは、ひとりの患者さんとの出会いがきっかけだったといいます。

医療だけでは救えない「何か」。ある患者さんとの出会いが大きな転機に

産業医大では、眼科で緑内障を専門に診ていました。あるとき、ひとりの成人の患者さんに緑内障の手術をしたのですが、術後の経過が芳しくない。そこで眼圧を下げる薬を投与したところ、両眼の結膜が充血し、背中など全身の皮膚に水疱などができてしまいました。全身の皮膚細胞が重篤なダメージを受けるという薬の副作用(のちに薬害と判明)がでてしまったのです。最善は尽くしたものの、最終的には両眼球にも重い損傷が生じる状態になってしまいました。言葉がでないほどのショックでした。1992年の秋のことです。

副作用の症状がでたあと、その患者さんが入院中、症状の改善はもちろんのこと、何とかして立ち直らせたいと、われわれ病院スタッフは、ありとあらゆる知識や技術を総動員させました。患者さんの気持ちだけでも前向きにできないかと、精神科の先生のカウンセリングなども試みましたが、その患者さんは落ち込んでいくばかり。退院後の生活のめどもまったく立ちませんでした。

「どうしたらこの状況を打破できるのだろうか」。そう思い悩み続け、気がつけば2年近くの年月が経とうというある日、ひとりの歩行訓練士に相談しました。そして、「奇跡」が起きたのです。その歩行訓練士が、たった3回その患者さんに接しただけで、患者さんの様子が一変しました。患者さんはみるみる元気になり、リハビリにも励み、やがて退院。そのあと、はり・きゅう・あんまなどを学ぶための学校に通い、個人で治療院を開業、立派に社会復帰をされたのです。そのどれもが、わたしたちにとっては驚きの連続でした。
*「歩行訓練士」:正式名称「視覚障害者生活訓練等指導者」

いったい、その歩行訓練士は、患者さんに何をしたのか? 詳しく聞いてみました。すると、それが「奇跡」ではないことがわかったのです。わたしたち医療従事者が、医療としての専門家であるだけにそこにしか目を向けていなかったところへ、その歩行訓練士はふつうに人としての心で患者さんと接しただけのことだったのです。

まず、患者さんと同じ立場で話を聞き、患者さんのいまの気持ちに真摯に耳を傾け、その気持ちについて率直に語りあっていました。さらに、患者さんが生活していくうえで直面するであろう課題や困難を、そのひとつひとつについて、どうすれば改善できるか、解決できるかをいっしょに考え、その具体的な対応や方法を提示していたのです。なるほど、と思いました。「将来の希望」を患者さんとともに考えていたのだと。これにより、患者さんは将来の自分をイメージできるようになり、歩行訓練士とさらにコミュニケーションを密にすることで、みるみる気力を取りもどしていったのです。

 

わたしは、そういう術を知らなかった。そして気づきました。医療の技術だけでは救えない「何か」がある、と。これが、「ふつうの眼科医」だったわたしが「ロービジョンケア」に取り組むことになるきっかけでした。それからほどなくして、医療だけではなく、福祉や心理や教育など、さまざまな分野の情報や技術を総合して視覚障害のある人を支援する「ロービジョンケア」という考え方が欧米にあることを知りました。

しかし、国内ではその当時、「ロービジョンケア」の日本語訳の本もテキストもなかったので、それまで眼科医として培ってきた知識や技術を活かしながら、独学で学んでいくしかありませんでした。たいへんなことはたいへんでしたが、その患者さんのご苦労や心情を思えば、いまでも申し訳なさとやりきれなさとでいっぱいですが、患者さんのためにも、自分が日本での「ロービジョンケア」の道を拓いていかなければという思いを強くしました。


 

   

後編のインタビューから

– 「福祉関係者と医療関係者は、よきパートナーでありチームであるべきです」
– 高橋先生が「親切なおせっかい」と話す、患者さんの背中を押すときとは?
– 高橋先生が考える「ロービジョンケアと公文式学習の共通点」

 

 

関連記事

2015/03/27更新

Vol.019 眼科医 高橋広先生

寄り添うことで、 人がもつ力を見つけ最大限に引き出し、 ときには背中を押す

2015/05/29更新

Vol.021 小児科医 田中恭子先生

「自分には何ができるか」。 “気付き”を一歩先につなげること、 をつねに問いつづけ子どもたちと ご家族によりそう医療をめざす

2015/05/22更新

Vol.021 小児科医 田中恭子先生

「自分には何ができるか」。 “気付き”を一歩先につなげること、 をつねに問いつづけ子どもたちと ご家族によりそう医療をめざす

2014/12/05更新

Vol.015 リハビリ医 橋本圭司先生

みんなが同じでなくていい 自分の「できる!」「得意」を知って、 それを伸ばそう

2014/12/10更新

Vol.015 リハビリ医 橋本圭司先生

みんなが同じでなくていい 自分の「できる!」「得意」を知って、 それを伸ばそう

バックナンバー

2018/09/28更新

Vol.050 大阪市立大学大学院 経営学研究科 教授
山田 仁一郎先生

「学問」は先人から受け取った 人類の「知恵の蓄積」 未来につなぐため、学び続けよう

2018/05/11更新

Vol.049 広島大学 教育開発国際協力研究センター長
吉田 和浩先生

日本は「教育」で世界に貢献できる 持続可能で平和な社会を築くことが 「教育の国際協力」のゴール

2018/04/20更新

Vol.048 書写書道教育研究者 宮澤正明先生

人をおもんばかる気持ちを育む 書写の学習効果

2018/03/23更新

Vol.047 英語教育学者 町田 智久先生

英語は新しい文化を 教えてくれる「扉」 楽しみながら学んでいこう

2017/12/22更新

Vol.046 教育心理学者 宮下孝広先生

家庭や地域でも学びをうながし 子ども自身の力を発揮させよう

記事アクセスランキング

おすすめ記事 Recommended Articles
KUMONトピックス
Feature Report 進化し続ける活動
カテゴリーを表示
NEW
Vol.277
English Immersion Camp 2018
英語をツールに広がる世界 ~イングリッシュ・イマージョン・キャンプ2018開催~
Vol.276
KUMON60周年スペシャルコンテンツ(4) 伊藤健先生
社会的投資の専門家、伊藤健先生が語る KUMONは「イノベーション」を作り出す企業
Vol.275
ビーチテニス選手として活躍する公文式OB
ビーチテニスに生きている 公文式学習で身につけた力
Vol.274
公文書写―毛筆教材が新しくなりました!
はじめて毛筆を持つ幼児など あらゆる世代の方々が 学びやすい教材に
OB・OGインタビュー
Catch the Dream 夢をかなえる力
NEW
Vol.058 後編
コピーライター
佐々木圭一さん
「伝え方」を学べば、  人の心を動かし行動を変えられる。  子どもたちの夢を後押しできる。  
Vol.058 前編
コピーライター
佐々木圭一さん
「伝え方」を学べば、  人の心を動かし行動を変えられる。  子どもたちの夢を後押しできる。
Vol.057
イラストレーター ももろさん
成長していこうと思う限り 学びに終わりはなく、 人生を拓くきっかけになる
Vol.056
朝日新聞社
編集記者 逸見那由子さん
人生に成功も失敗もない 周囲と競わず 自分のペースで進んでいこう
KUMON now! フェイスブックページ
KUMON now!に「いいね」して、子育てに役立つ情報を受け取ろう!

What’s
KUMON?

これまでも。これからも。
KUMONはずっと
「学ぶ集団」であり続けます。

KUMONは、50の国と地域に、 「学び」を提供しています。

乳幼児から高齢者まで。
生涯を通じて学ぶ喜びをお届けします。

Baby Kumon / 書籍・知育玩具 / 学校・施設・企業への導入 /
認知症の予防と維持・改善 / 書写 /
日本語/ フランス語/ ドイツ語

公文教育研究会
代表取締役社長
池上 秀徳

指導者も社員も
「子どもから学ぶ」。
KUMONはいつも
学び続ける集団です。

私たちが大切にしている、創始者の
ことばがあります。

学ぶ力は、やがて生きる力へ。
KUMONは一組の親子の
絆から生まれました。

KUMONは、公文式学習を通して、
「生きる道を自らの力で切り拓いて
いける健全で有能な人材」の育成を
目指しています。

公文式教材のひみつを
わかりやすくご紹介。

公文式になくてはならない
指導者の役割とは。

私たちには「夢」があります。教育を通じて世界平和に貢献することです。

時を越えて。国境を越えて。
すべては、一人ひとりのために。

日本の子どもたちから
世界中の人たちへ。

    • KUMONグループ会社一覧
    • さまざまな場で「個人別・
      ちょうどの学習」を実践。
      世界各地に広がっています。
    • お問い合わせ・資料請求
      KUMONへのご意見、ご質問などを
      お寄せください。
    • お問い合わせ
    • ロゴに込められた想い
    • この、KUMONのロゴ。どこかで見かけたことありませんか?
      このロゴには私たちの想いがたくさんつまっています。