スペシャルインタビュー
Academic Milestones - 学びを究める力

2015/02/13更新

Vol.017 多摩大学大学院教授 シンクタンク・ソフィアバンク代表 田坂広志先生  後編

自己肯定感を心に抱き
「いまを生き切る」ことで
人間の可能性は花開く

田坂 広志 (たさか ひろし)
1951年、愛媛県生まれ。東京大学工学部卒業、同大大学院で博士号を取得した後、民間企業に入社。1987年より米国のシンクタンク、バテル記念研究所の客員研究員として勤務。1990年に日本総合研究所の設立に参画。2000年、多摩大学大学院教授に就任。同年、21世紀の知のパラダイム転換をめざすシンクタンク・ソフィアバンクを設立。2011年、東日本大震災に伴い内閣官房参与を務める。2013年、1700名の経営者やリーダーが集まり、21世紀の「変革の知性」を学ぶ場、「田坂塾」を開塾。

シンクタンクの代表であり、ビジネス・経営・教育などの分野でも多彩なキャリアを持つ田坂広志先生。世界経済フォーラム(ダボス会議)グローバル・アジェンダ・カウンシルメンバー、世界賢人会議ブダペスト・クラブ日本代表でもあり、地球規模の知識人、そして実践者として活躍されています。一方で、そこに至るまでには大きな苦難や挫折も体験。それらを乗り越えられたのは、ご両親の「祈り」と「潜在意識への教育」があったからだといいます。

「挫折は天の配剤」

確かに、振り返れば、大学に研究者として残れなかった挫折や、就職した企業で希望する研究所ではなく営業部門に配属された挫折など、人生において、何度も挫折を体験してきました。しかし、どの経験においても、私は、その挫折を「天の配剤」だと思ってきました。なぜなら、その挫折の体験を通じて、必ず、人生における大切なことを学ぶことができるからです。そして、私のこれまでの人生において、最も大きな挫折は、32歳のときに医者から癌を宣告されたことです。

「もう長くありません」と医者から余命宣告をされてから、文字通り、地獄の日々でした。自分の命が失われていく恐怖感で、夜中に目が覚め、それは悪夢ではなく現実であることを思い知る。そんな筆舌に尽くしがたい苦しみの日々を送りました。医者から見放され、誰も救ってくれない絶望感のどん底において、両親が勧めてくれたのが、ある禅寺に行くことでした。その寺に行った人の多くが、病気が治って戻ってくるとのこと。藁にもすがる思いで、その寺に行くことにしました。

しかし、行ってみると、その寺には特別な治療法も何もなく、「献労」と称して、毎日、農作業をするだけでした。ただ、その寺に集まっている人たちは、みな病人。腎臓をやられ、水膨れの足で、必死に献労に取り組む人。献労のための鍬を渡されても、足を患っているため、その鍬を杖にして、坂道を必死に登っていく人。その姿から、大切な何かを感じ始めたころでした。

その寺に来て9日目。ようやく禅師との接見の機会を得ました。私は、この禅師から救いの言葉、癒しの言葉を聴けるものと思い、いまの私が、いかに辛い状況か、絶望的な状況かを切々と訴えました。しかし、その禅師は病気の治し方を話すわけでもなく、私を励ますわけでもなく、ただ、こう言い切ったのです。

「そうか。もう命は長くないか・・・。だが、一つだけ言っておく。人間、死ぬまで命はあるんだ」

一瞬、何を言われたか分かりませんでしたが、帰りの廊下を歩きながら、はっと気がつきました。「そうだ、人間、死ぬまで命がある。それにもかかわらず、自分はもう死んでいた。死の恐怖の前で、もう生きることを諦めていた。もう心が死んでいた。」 そのことに気がついたのです。

そして、その瞬間、禅師が付け加えて言った言葉の意味が、胸に突き刺さってきました。
「過去は無い。 未来も無い。 有るのは、永遠に続く現在(いま)だけだ。 いまを生きよ。 いまを生き切れ。」 その言葉が、胸に突き刺さってきたのです。

振り返れば、医者から宣告されてからの何か月、私は、いまを生きてはいなかった。「なぜ、こんな病気になってしまったのか」と過去を悔いることに時間を費やし、「これから、どうなってしまうのか」と未来を憂うことに時間を費やし、決して、いまを生きてはいなかったのです。

しかし、この禅師との接見によって、私の覚悟が定まりました。不思議なことに、「死」を受け入れられるようになったのです。「ああ、明日死のうが、明後日死のうが、構わない。それが天の定めであるならば、仕方がない。ただし、死の恐怖のために、今日という一日を疎かにすることは、絶対にしない。与えられた今日という一日を、生き切ろう。命の限り、生き切ろう。」 そう心に定めたのです。そして、そう覚悟を定めた瞬間に、不思議なことに、死の恐怖は消えていったのです。

そして、1983年のあの日以来、与えられた一日を精一杯に生き切るという生き方を続け、気がつけば、32年の歳月が経っていたのです。

この話をすると、「それは、大変な体験でしたね」と言われます。しかし、もし我々が人生というものを深く見つめるならば、誰もが同じなのです。実は、我々は、誰もが明日も知れぬ人生を生きている。「平均寿命」という言葉に騙されていますが、実は、我々、誰もがいつ死ぬか分からない。その意味では、癌の宣告を受けようが受けまいが、誰にとっても今日しかないのです。「いま」しかないのです。その「いま」を、どう生きるか。それこそが問われているのです。

そして、もし我々が、「いまを生き切る」という生き方に徹したならば、自分の中から「生命力」が湧きあがってくる。そして、不思議なことに、自分の中に眠っていた才能が開花し始めるのです。本来、人間というものは、退路を断ったとき、潜在的な能力が大きく花開くのです。

むしろ、大きな落とし穴は、自らの内にある「自己限定」の意識でしょう。「俺はもう60歳を越えたし・・・」「技術はわかるけど、営業は苦手だ・・・」といった形で「自己限定」をしてしまう。そして、「自己限定」の意識が心の奥深く固着すると、その意識通りの限定された人生になってしまいます。その意味で、KUMONの創始者、公文公さんは、心底、人間の可能性を信じていた。だから、KUMONが掲げる「自己肯定感」とは、ある意味で、「自己限定をしない」という意識を、子どもたちの心に育んであげることなのですね。

田坂先生が考える「子どもたちに見つめてほしいこと」とは?

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