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Vol.014 2014.10.31

脳科学者 中村克樹先生

<後編>

できたらすぐにほめる”の
くり返しで子ども伸びていく

京都大学 霊長類研究所 人類進化モデル研究センター長・教授

中村 克樹 (なかむら かつき)

1963年生まれ。京都大学大学院理学研究科修士課程修了後、同大霊長類研究所の助手に。国立精神・神経センター神経研究所モデル動物開発部部長などを経て、現在は高次脳機能分野の教授として、京都大学霊長類研究所内・人類進化モデル研究センター長を務める。

たったひとつの受精卵から、どうやって意識や感情が芽生えるまでになるのか――そんな疑問をきっかけに、研究の道を邁進されている京都大学霊長類研究所の中村克樹先生。脳の働きの特性において、いかに学習することが重要か、さらには言葉を使わないコミュニケーションの大切さについてもうかがいました。

目次

サルの脳機能を調べることで、ヒトの病の解明につなぐ

脳科学者 中村克樹先生

国立精神・神経センターでの研究では、「コモンマーモセット」という400グラムくらいの小さいサルを飼って、いろいろな病気のモデルをつくり、研究を進めました。このサルは、群れではなく家族で生活して、目と目を合わせてコミュニケーションをとるなど、かなり人間に近く、ほかのサルには見られない特徴がたくさんあります。そのため、ヒトの病気や障害を研究するにはとても適しているのです。

マーモセットは、ある程度大きく育った子には厳しく、離乳したばかりの幼い子には寛容にと、ヒトの育児さながら、親の態度が変化するのですが、そこにある操作をしたことがあります。愛情ホルモンといわれているオキシトシンを脳に作用させると、ある程度大きく育った子にも親が寛容になることがわかったのです。こうした研究が進めば、愛着障害・幼児虐待・無視といった子育てに問題のある人の脳の状態も解明できるようになり、適切な対処法を探れるかもしれません。

動物やヒトも含め、障害や性格など、一匹一匹、一人ひとりの個体の成育に関係しているのは、遺伝子なのか環境なのか、まだよくわかっていませんが、もしかすると未知の何かが影響している可能性もあります。それに、生き物というのは、生存のためにはかなりすごいことをやってしまう場合があります。たとえば、周りにオスがいなくなったら、メスがオスに性転換して子孫を残す魚もいます。1つの個体がいくつかに切り分けられても、それぞれがもとの個体と同じになり、さらに増えていくというプラナリアのような生き物もいます。

そうした潜在能力は、もしかするとヒトにもあるのかもしれません。ただ、そうした能力は便利かもしれませんが、同時にややこしい事態を引き起こす可能性があるので、抑制されているのではないかと考えれば、それを何かの力か作用で外せば、また新たな能力が見つかるかもしれません。ちょっと怖い気もしますが……。

ヒトだけにある「微笑み合う」ことの大切さとは?

言葉を介しないコミュニケーションの大切さ

脳科学者 中村克樹先生

何事も同じだと思うのですが、大人でも子どもでも、「おもしろい」「楽しい」「なぜこうなるのかな?」と感じないと長続きしませんよね。子どもはとくにそうだと思います。ただ私は、どんな状態、どんなことにでも、おもしろさや楽しさを見つけられると思っています。はじめから「これはいいや」と切り捨てないで、まずは「今やっていることを見つめ直してみる」のを大切にしたいですね。それができれば、そこから先が見え、道が開けてくると思います。

そしてもうひとつお伝えしたいのは、言葉を使わないコミュニケーションの大切さです。「ノンバーバルコミュニケーション」とも言います。言葉は文章や音声に残すことができ、時間や空間を超えるやりとりに優れています。だからこそヒトの文明が発達したといえます。一方、表情や動作などの言葉を使わないコミュニケーションは、動物の場合、仲間とより良い関係をつくるためのものだと私は考えているのですが、それが人間の発達にも非常に大切なことがわかってきました。

たとえば「微笑み合う」こと。赤ちゃんとお母さんが微笑み合ったとき、脳がどう変化するかを調べたところ、お互いの脳にとても良い刺激を与えていることがわかりました。微笑みは、親子の絆をつくる第一ステップと言えるのです。

ところで、この「微笑み合う」ということですが、皆さんも目の前の誰かが笑っているのを見たら、特におもしろくなくても笑ってしまったことはありませんか。それは、相手の表情を見たときに、無意識につられてしまうという脳の仕組みがあるからだと考えられています。その仕組みのもとがミラーニューロンと呼ばれる脳細胞です。相手が痛がっていると自分もしかめっ面をしてしまったり、泣いている人をみると思わずもらい泣きをしたりという経験がありますよね。それは、このミラーニューロンがあるからで、互いに共感し人間関係をうまくつくることに役立つ脳のシステムだと考えています。

「微笑み」に話しを戻しますと、動物にも表情はありますが、「微笑み合う」とか「笑顔」は、人間にしかない行為です。会議で気まずい雰囲気になっても、ひとりが笑顔を見せれば場が和む、という感覚を共有できるのは人間特有のことです。ヒトだけがもつ非常に大きなこの“武器”は、ぜひ効果的に使っていただきたいですね。

中村先生が考える「良い脳」を育むカギとは?

「くり返し」や「即時フィードバック」が「良い脳」を育むカギ

脳科学者 中村克樹先生

俗にいう「頭が良い・わるい」というのを測る方法はないのですが、客観的に比較するとしたら、ある脳細胞が別の脳細胞に情報を伝えるとき、その伝え方が「無駄なく効率よく速くできる脳」が「良い脳」、という見方ができます。

情報を伝えて処理するのが脳細胞の役割なのですが、AからBの脳細胞に情報を伝えるということを何回もくり返していると、伝わり方の効率がどんどん良くなってきます。どれだけそういうくり返しをして、いかに効率のいい結びつきをつくるかが、脳の発達を考えたとき大切になります。

スポーツを例に考えても、うまくできないことを何回もくり返していると、上手にできるようになりますよね。これはくり返すことによって「情報を伝え処理することをくり返し、効率のいい結びつきをつくる」という脳細胞の変化が起こったからなのです。「広い意味での学習」ととらえてもよいかもしれません。スポーツしかり、料理しかり、公文しかり。くり返すことで上手にできるようになる。それは、脳の働きがよくなるからこそなのです。

もうひとつ、動物の行動を研究してきたプロセスで私がいえるのは、「即時フィードバック」をすることが、学習でもしつけでもとても重要だということです。「できたらすぐにほめる」というくり返しで子どもは伸びていきます。子どもだけでなく、大人も同じです。反対に、子どもがイタズラしたとき、お母さんがその場で叱らず、「お父さんが帰ってきたら叱ってもらうからね」と言うのは、とくに小さい子にとってはワケがわからなくなってしまい、叱る効果がぐっと薄れてしまいます。

脳の特性として、何かと何かが結びつくのは「時間的に一緒に起こる」ことが大事なのです。「できた⇒すぐにほめる」「いたずらをした⇒その場で叱る」ということです。そう考えると、「くり返し学習」や「即時フィードバックでほめる」を大切にしている公文式学習は、脳にとっても効果的な学習方法だといえますね。

脳科学者 中村克樹先生  

前編のインタビューから

– クワガタを200匹も捕まえて、家族を驚かせたこともある子ども時代
– 「ヒトの人生がすべて遺伝子で説明できる」に疑問をもった大学生時代
– 大学の学部生時代、たいへん尊敬する教授の「しゃあない喧嘩するか」の一言で研究者の道へ

前編をよむ

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