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Vol.008 2014.04.18

教育心理学者 秋田喜代美先生

<前編>

学びの楽しさは
新しい世界が開けること
夢中になれると人は伸びる

東京大学大学院教育学研究科教授

秋田 喜代美 (あきた きよみ)

東京大学文学部卒業後、銀行員、専業主婦を経て、東京大学教育学部へ学士入学。同大大学院教育学研究科博士課程修了。立教大学文学部助教授を経て、現在、東京大学大学院教育学研究科副研究科長。日本保育学会会長、NPOブックスタート理事も務める。

子どもの育ちをより豊かにするにはどんなことが大切か――すべての大人が認識しておきたいテーマについて、教育心理学者として探究を続ける秋田喜代美先生。大学卒業後、銀行員、専業主婦を経験する過程で、「学びへの探究」に目覚め、再び大学へ。幼子を育てながらの研究生活は、ライフワークでもある「読書と子どもの発達」という研究テーマを紡ぎだし、英国で行われている“ブックスタート”を日本に導入する際の研究にもつながりました。

目次

すべての子どもがより豊かに育つための環境を探究

秋田喜代美先生

教育心理学者としてさまざまな保育や教育の現場に行くと、保育園や幼稚園や学校、あるいは行政によって、保育や教育の質に差異があることを思い知らされます。その子の気質や特性などがあったとしても、どの子もより豊かに発達するには、保育や教育の環境において、何が大切なのか。私はそれを探究しています。

私の研究内容をもう少し具体的にお話ししますと、大きく3つの側面があります。ひとつは、保育や教育の環境が異なると子どもの発達にどのように違いがでてくるのか、全国の保育園・幼稚園の協力を得て、4歳から小学校入学後までの成長を継続的に調べています。2つめは、保育園・幼稚園の保育者や小・中学校や先生方の成長・熟達についての調査です。教える専門家として、どう学ばれ、また教育者自身がどう成長されていくのか。子どもだけではなく、子どもを支える専門家の側が、どのようにプロとして成長し変わっていくかに関心をもって研究しています。

そして3つめは、絵本の読み聞かせや読書をテーマにした調査です。私の研究生活の原点は、わが子への絵本の読み聞かせにあり、また赤ちゃんに絵本と絵本を楽しむ体験を贈る、“ブックスタート”(関連リンクからもどうぞ)という活動をNPOの方々とともに立ち上げるときに協力させていただいたこともあって、絵本をめぐる研究は私のライフワークにもなっています。乳幼児だけでなく、中高生を含めた読書環境などについても研究を続けています。

「子どもにとって幸せな環境とは?」を追い求める背景にあるものとは?

志望の大学に入学、しかし目標を失い「お嫁さん」を目指す

秋田喜代美先生

私自身の生い立ちですが、教育的には恵まれていたと思います。幼稚園のころ、近所にあった有名な塾に通い、小学校受験を経験。小・中・高一貫の学校に通いました。高校は女子校でもあり、わりとのんびりとした学校生活を送りました。ただ、悲しいことに私のなかにある幼児期の記憶は、「ストップウォッチをもった先生がいて、小学校受験問題を解く自分がいる」というシーン(笑)。幼児期の記憶は消せないと、大人になってから実感しました。

私の母は大学受験のことなどを考慮し、私の負担が少なくなるようにと思い、学校を一貫校に決めてくれたのでしょう。その親心には感謝していますが、子どもの発達や教育に関する研究をしてきた今、それが子どもにとって幸せなのかというと、簡単に答えは出せません。電車で1時間かかる小学校に通い、帰宅しても近所に友人が少なかった私は、世間では「良い学校」と言われていても、子どもにとって居心地がいいかどうかは別ではないかと、子ども心に感じたものです。こうした体験があったことも、「子どもにとって幸せな環境とは?」を追い求めている背景にあるのかもしれません。

もちろん一貫校にもいい面はありますが、高校生のころになると私は、「このまま同じところにいていいのかな。外の世界を知らなくては」と考えるようになります。たまたま出会った本で、中根千枝先生という文化人類学者が東京大学にいることを知りました。「こんな先生に学びたい」と、東京大学に挑戦。幸い希望はかなったものの、いざ入学してみると、自分は本当はどうしたいのか、目標を見失ってしまいます。そうなると、講義より遊びに励み、夢は「お嫁さんになること」に。今思えば、遊んでおくべき幼児期に十分遊んでいなかった反動が、大学生になってから出たのかもしれません。

結婚し長女の出産後に起こした行動とは?

「世間の常識」は本当なの? 子どもの発達の真実を知りたくて、再び大学へ

秋田喜代美先生

「結婚相手を見つける」ことが大学生活の目的になった私は、卒業論文も「家族社会学」、そして「幸せな家庭を築くには?」をテーマに書き上げました。卒業後は、いわゆる「9時-5時」の仕事がしたいと、当時大卒女子を大量採用していた銀行に就職。人事部の研修課へ配属になり、入社1年目から研修プログラムや教育のテキストをつくらせてもらう機会に恵まれます。

実は大学でも教職課程をとっていた私ですが、教室の一番うしろに陣取り、お菓子を食べたりおしゃべりしたりで、不まじめを絵に描いたような学生でした。けれども、銀行員のための研修プログラムをつくることになり、どうしたら銀行員の意欲を喚起できるか考えたり、研修の模擬セミナーをしたりしているうちに、教育のおもしろさに目覚めます。また幸いなことに、オフィスで仕事として教育研究に関連する書籍を読む機会も与えられました。

そんなころ、大学のサークル時代から付き合っていた彼氏が鹿児島に赴任することになり、それを機に寿退社して、家庭に入ります。夫は転勤族で社宅暮らし。社宅では、奥様同士でお菓子づくりやおしゃべりの日々。毎日が日曜日という感じだったのですが、しだいに退屈になっていきました。

そして長女を出産してからは、子どもの発達に興味が湧いてきます。社宅の先輩ママから「子どもは泣くのが運動だから放っておいてもだいじょうぶよ」と言われたりすると、「世間の常識」は本当なのか、子どもの発達について何が明らかにされているのか知りたいと思うようになります。

そこで、通信教育を受講したいと夫に相談すると、「大学で徹底的に学んだら」と背中を押してくれて、東京大学教育学部へ学士入学することに。当時の住まいは長野でしたので、子どもを背負って東京へ行き、夫の実家に子どもを預かってもらい大学へ通いました。周囲からは「大学も出て就職したのに、夫を放って、子どもを預けて、なぜそこまでするのか」など、いろいろ言われました。「家族に迷惑かけてまで勉強していていいのだろうか?」と悩んだこともあります。しかし、だからこそ、時間を無駄にしたり、いい加減に学んだりするのは家族に申し訳ないと思い、必死で学び続けました。

関連リンクNPOブックスタート日本保育学会

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