スペシャルインタビュー
Academic Milestones - 学びを究める力

2013/11/22更新

Vol.003 経営学者 野中郁次郎先生  前編

体験の質量が
新たな「知」を生み出す
リスクを恐れず実践しよう

野中 郁次郎 (のなか いくじろう)
1935年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。
カリフォルニア大学バークレー校経営大学院にて修士号(MBA)、および博士号(PhD)を取得。
2002年に紫綬褒章、2010年に瑞宝中綬章受章。現在、一橋大学名誉教授。

日本を代表する経営学者の野中郁次郎氏は、「知の創造」という視点で経営の研究を続け、提唱する経営理論「知識創造経営理論」は世界中に広まっています。野中氏はどのようにして経営学を究められてきたのでしょうか。また、むずかしそうだけれど、わかると面白い経営学の本質についてもうかがいました。

経営学とは、生き方を問う学問

私たちは誰でも、自分の経験から得た知識や価値観をもっています。それは言葉では表現しにくいものですが、このように言葉で語り切れない主観的、身体的な経験知のことを「暗黙知」といいます。一方、論理やデータ、マニュアルなど文字化、客観化できる知を「形式知」といっています。

自分の考えや悩みを周囲の人に話したら、共感されたり助言されたりして、考えが変わったという経験はありませんか。これは自分の中の「暗黙知」を、言葉という「形式知」にしていくことで、相手と「暗黙知」が共有され、新しい「知」が創られた結果といえます。企業であれば、個人の中にある経験知や価値観、思いなどを、言葉にして形式知化し合うことで、思いもよらないアイデアが出て、それがヒット商品になることもあります。

このように「知」は、「暗黙知」と「形式知」が絶えずスパイラルに相互作用していく中で創られます。私はこの「知識創造のプロセス」こそが、経営の本質だと捉えています。分析データのような「形式知」だけでなく、思いや信念という極めて人間的な「暗黙知」を合わせまとめながら、新たな知を創りあげていくということです。

こう考えると、経営というのは、単に「企業利益を最大化するための方法」ではなく、「なにをしたいか」「どう生きたいか」ということを究極の目標にしていると考えられます。経営学とは、まさに「生き方」を問う学問なのです。

この「暗黙知と形式知が絶え間なく相互に作用して、新たな知を創造する」という考えを、私は「知識創造理論」として1990年代から提唱しています。長年、この理論を提唱してきたおかげで、今では国内外で知られるようになり、多くの企業で取り入れられています。

ここで重要なのは、一人ひとりの知を、いかに組織的で持続的なものにしていくかということで、人の潜在能力を解き放つことともいえます。これは企業においてだけでなく、家庭や地域コミュニティ、国家、そして世界全体にも必要なことです。

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