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Vol.044 2017.06.16

仕掛学者 松村真宏先生

<後編>

予想は裏切られた方がおもしろい
ゴールに向かう道の途中大切に

大阪大学 大学院経済学研究科 准教授

松村 真宏 (まつむら なおひろ)

1975年大阪生まれ。大阪大学基礎工学部システム工学科卒業。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。2004年より大阪大学大学院経済学部研究科講師、2007年より同大学准教授、現在に至る。研究テーマは「仕掛学」。著書に『仕掛学: 人を動かすアイデアのつくり方』(東洋経済新報社)。近著は『人を動かす「仕掛け」』(PHP研究所)。公文では小1から中2まで、算数・数学を学習。

「仕掛学」という新しい学問分野を切り開き、研究に取り組まれている松村真宏先生。ものごとを多面的に考えることにつながる仕掛学を、子どもたちにも学んでもらいたいと、仕掛学のまんが本を上梓される予定です。先生いわく「仕掛学は一般教養」。いったい仕掛学とはどういうもので、そもそもなぜ仕掛けに関心を寄せるようになったのかをうかがいました。

目次

人の行動を変えるにはデータだけでは不完全

松村 真宏

私の恩師である大澤先生は「チャンス発見」という研究テーマを提唱されています。「『めったに起こらないけれども重要なこと』を見つけよう、それはコンピューターだけでは見つけられないので、人間と一緒に協調しながら探していこう」というアプローチです。コンピューターも人間の知識もフル活用して、どううまくミックスできるかが研究テーマでした。

この「データは便利だけれど不完全なので、それしか使わないのは不十分ではないか」というのは、仕掛学も同じです。当時ぼくは人工知能の研究をしていましたが、データは不十分だし、それだけを研究テーマにしていてはできることが限られていると思っていました。とはいえ大澤先生と同じアプローチをとるわけにもいかないので、「人の知識や経験」を使うのではなく、「行動を変えることで問題解決する」というアプローチに進むことにしました。

当初は「フィールドマイニング」と呼び、データに頼ることなく、街なかの魅力を発見しようと活動していました。そこに何らかの仕掛けがあると、街の魅力に気づきます。たとえばぼくが最初に見つけた仕掛けは2006年、天王寺動物園の「筒」でした。望遠鏡のような形で、真ん中に穴があり、ついのぞきたくなる。何の説明書きもなかったのですが、動物以外の見どころに気づいてもらうための仕掛けでした。そうした仕掛けを収集していたら、魅力を発見するだけでなく、いろいろな問題解決に応用できると気づきました。そこで「仕掛学」と名前を変え、現在の研究に至っています。

でも仕掛けを自分で考え出すのは難しい。ですからぼくは、人が集まっているところはとりあえず見に行きます。人が集まっている理由、つまり仕掛けがわかるからです。人だかりは、隠れた仕掛けを他の人が見つけてくれていると言えます。人の行動がどう変わるか、実験をしたこともあります。繁華街にある、普通の木の根元を、友人と何人かで集まって写真に撮っていたら、まわりの人が寄ってきて同じように撮影をし始めた。何かがあると思ったんでしょうね。つまり、ちょっとしたことで人の行動は簡単に変わる、ということです。

松村先生から学生たちへのメッセージ

うまくいかなくても焦らなくていい
予想は裏切られたほうがおもしろい

松村 真宏

大学院を修了後、工学研究科にいた私が大阪大学の経済学研究科に講師として赴任したのは、経営学でもデータ分析が求められることから声をかけていただいたのがきっかけです。そのため授業では「データマイニング(大量のデータを分析して有益な知見を得る手法)」を教えています。一方ゼミでは「仕掛学」という、ここでしか学べないことにゼミ生と取り組んでいます。

今の学生は就活やインターンシップなどですごく忙しそうですね。彼らにアドバイスするとしたら、これはぼくの生き方かもしれませんが、“皆が向かっている方向には行かない方がいいかもしれない”ということでしょうか。大勢がいるところでは競争が激しいし、一時の勢いで流行ったものはすぐにすたれてしまうことが多い。ですから、一歩引いて考えた方がいいこともあるよ、と伝えたいです。

たとえば今は人工知能がすごくはやっていますが、ぼくはそこから線を引いています。これまで人工知能を研究してきたので、人工知能ができることとできないことがわかるのがぼくの強み。それで、仕掛学では人工知能ができないことを対象にしようと思っているのです。

仕掛けの実験は、たいてい最初は失敗します。もちろん、取り組むときには失敗するとは思っていないのですが、どこかで「失敗してほしい」とも思っています。なぜかというと、「こうしたらこうなるだろう」と仮説を立て、そうならなかったということは、「自分の知らなかった原因がそこにある」ことに気づくきっかけになるからです。

つまり、最初の仮説は「思っていること」で新発見でも何でもないんです。その仮説が覆された後に、分析や再実験をしたら違うことが見えてきて新発見につながることがよくあります。そう考えると失敗がスタートだといつも思っています。

松村先生のこれからの目標とは?

学びは好奇心をもって取り組むことに意味がある

松村 真宏

ぼくの座右の銘のひとつに「Stop and smell the roses.(立ち止まってバラの香りをかぐ)」というのがあります。「ゴールに行くことが目的ではなくて、ゴールに向かう途中が大事」ということで、答が出なくても失敗しても、途中でいろいろあるからこそ、ゴールについたときがうれしいし、それを楽しむ余裕が大事だと考えています。

結果は出ないと焦りがちですが、学生には焦らなくていいよと伝えています。ある意味途中経過が目的なので、毎日のディスカッションを大事にしていて、結果にはそんなにこだわりません。

ぼくにとって「学び」とは、好奇心を満たすもの。好奇心をもって勉強しているときとそうでないときとでは、吸収力や理解力がまったく違います。好奇心と結びついてこそ、学びが活きると思います。

ぼくには2人の娘がいますが、彼女たちの可能性を広げるように育てています。「これをしなさい」とはなるべく言わず、娘たちがやりたいことを優先し、どうしたらできるか一緒に考えます。そのせいか、娘たちはダンスやピアノなどたくさんの習い事をしています。

学校の勉強とは関係ない習い事がほとんどですが、それらの習い事を通しては、世の中のいろんなことを楽しめる素養を身につけてもらいたいと考えています。自分がダンスをしているからダンスを見て楽しめるし、ピアノをしているから音楽に親しめる、というように。

最初にお伝えした通り、ぼくが目指すのは、子どもたちに仕掛学を伝えること、大学で仕掛学を突き詰めること、社会に向けて実装していくことの3つ。これらをできるところまでやっていくのが今後の目標です。

その第一弾として、近々小学校で仕掛けをテーマに講演をします。仕掛学はカリキュラムとしての導入は難しいでしょうが、「夏休みの自由研究で作ってね」という形でリテラシーとして導入できればと考えています。社会の問題に目を向けて、解決策を創造的に考えてもらうんです。ゆくゆくは「仕掛けコンテスト」をしたいですね。アイデアというのは、パッとは出ないもの。出るまではすごく大変。だからおもしろい。そんな体験を多くの子どもたちにしてもらえたらと思っています。

前編を読む

関連リンク松村真宏先生研究室サイト


松村真宏先生  

前編のインタビューから

-仕掛学とは?
-松村先生の子ども時代
-大学時代に熱中した意外な活動とは?

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