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Vol.033 2016.06.10

気象庁 有田 真さん

<後編>

自分の好きなものの中に、
未来の自分がある
与えられた環境でベストを尽くそう

気象庁

有田 真 (ありた しん)

鳥取県生まれ。2004年気象庁に入庁。金沢地方気象台、気象庁海洋気象課、地磁気観測所女満別出張所(現女満別観測施設)を経て、地磁気観測所在勤中の2010年には第52次日本南極地域観測隊宙空越冬隊員として南極観測隊に参加。現在は網走地方気象台勤務。

第52次日本南極地域観測隊宙空越冬隊員として南極観測隊に参加し、現在は網走地方気象台で気象観測の仕事をしている有田真さん。南極という厳しい自然環境の中で有田さんを支えたのは、同じ目標に向かう仲間との絆、そして、根気強く続けることでようやく見えてくる自然の真実の姿。好きなことをあきらめない気持ちで人生を切り拓いてきた有田さんにお話をうかがいました。

目次

こつこつと誠実に続けた先に見えてくるもの

有田 真さん

南極では多くのことを学びました。意外と寒さや雪にはすぐ慣れましたが、一日中太陽が沈まない「白夜」や、その逆で太陽が全く上らない「極夜」には驚きました。極夜中に気持ちが落ち込むことはなかったものの、2か月ぶりに上った太陽を見てすごくうれしかった。生き物としてやはり太陽に生かされているのだと感じました。

また、南極には私のような観測部門に所属する隊員以外にも、機械整備や調理や医療など、その道のプロたちが日々の観測を縁の下で支えてくれています。仲間と協力しなければ極地のような厳しい環境で生きていくことはできません。南極観測隊に参加して同じ志をもつ仲間と出会えたことは何よりの財産です。幼いころは友だちが誘いに来ても気乗りがしないと遊ばなかったような自分が、変わるものですね……。

有田 真さん
みずほ旅行で使用した大型雪上車

南極では野外に出て移動することを「旅行」と呼びます。私も昭和基地から南極大陸内陸にあるみずほ基地まで、約270kmを雪上車にたくさんの燃料を積んで「旅行」に出かけました。その目的の一つは、燃料のドラム缶をみずほ基地に置くことです。これが夏にさらにそこから約700km内陸のドームふじ基地に行く別のグループのガソリンスタンド代わりになるんです。

長い年月をかけて行われてきた南極観測を引き継ぎ、そして次の隊に伝えていくこと。自分ができることは一つの点にすぎませんが、その点が線となり、自然現象の解明へとつながっていくのです。より正確なデータを出すには細かく観測するしかありません。

例えば昭和基地の年平均気温の推移。1年ごとのデータで見ると、年によって高かったり低かったりしています。これまでのデータを見る限りでは、南極の昭和基地の平均気温は上がっているとも下がっているとも言えません。しかし観測が毎年ではなく数年ごとだったりした場合、急激に温度が上昇しているかのように見えてしまうことが起こりえます。長期にわたりこつこつと誠実に続ける。そうしないと、自然は本当の姿を見せてはくれません。

南極観測と子ども時代の勉強の共通点とは?

子どもたちの毎日の勉強は将来への「基礎研究」

有田 真さん

南極観測には多くの予算が必要です。しかし、それに見合った何か即効性のある結果ばかりが得られるとは限りません。「これが何の役に立つのか?」といった費用対効果を求められることが多くなり、私たちの仕事もそれを問われています。
 
もしかしたら勉強も同じかもしれませんね。今やっている算数が直接将来の仕事には結びつかないかもしれません。しかし、今は与えられたものを頑張ることに意味があるのだと私は思うのです。やれることを少しずつでもやってみる。それをしなければ発展はない。南極観測のように、長く続けないと答えがあるかすらわからない、そんなものが世の中にはたくさんあると思います。子どもたちにとっての勉強は、地磁気研究のような、将来人々を助ける、人々の役に立つ何かを生み出すことにつながる「基礎研究」なのです。

では、私たち大人は子どもに何ができるのでしょうか。子どもを見ていると、子どもって本当に勉強したくないんだなと思います。ただ、横でみていてあげるだけでがんばれるというのも確かなことです。認めて、興味の対象を広げて、その上でどうやって背中を押すか。私は子どもに、「自分の頭で考えられる人間」に育ってほしいと思っています。人から教えられることには限界があります。学んだことを自分の経験と照らし合わせ、自分なりに解釈して自分の力に変える人間に。その過程で子どもには嫌われることがあるかもしれません。が、どんなに嫌われても、18歳までにやらなければならないことはやる、自分の力で社会で生きていくための土台を作ってやるのが親の務めだと思っています。

有田さんから子どもたちへのメッセージとは?

「夢」がなくてもいい
「好きなこと」を忘れないでほしい

有田 真さん

今の子どもたちは、色々な場面で「夢」を持つことを期待される環境にあります。ただ私は、夢や具体的な目標がもてなくても大丈夫だよということを一番に伝えたい。実際私がそうだったので。これに向かってがんばろうという具体的な夢がなくても、「先生や親にほめられるのがうれしいから次もがんばってみよう」とか、「自分はこれが好き」とか、そういう気持ちがモチベーションでもかまわないと思います。

私は『宇宙兄弟』(小山宙哉、講談社)という漫画が大好きで、子どもたちの前で話しをする時もよく『宇宙兄弟』のエピソードを使わせてもらっています。宇宙にあこがれる中学時代の主人公が、教室で友だちに宇宙の話をしても、友だちからは「星なんて見て何がうれしいんだよ」とまったく共感されません。しかし、大人になり宇宙飛行士を目指す人々と出会ったとき、自分と気持ちを同じにする仲間がいることに気づくのです。

たとえ今、誰かに好きなことを否定されても、自分だけは自分の好きなことを否定しないでほしい。世界には、自分と同じようなことを考えている人が必ずいます。そういう人たちはライバルでもありますが、一番の仲間にもなるはずです。自分の好きなものが、この先、きっと自分を動かす力になります。

今、夢と言えるようなものがなくても、自分の好きなものの中に、未来の自分があると私は思います。『宇宙兄弟』に登場するブライアン・J宇宙飛行士の言葉を借りれば、「恐れずに目の前にあるドアを一つずつ開けていけば、いつか夢につながる大きな扉に出会うことができる」でしょう。私が紆余曲折ありながらも南極という扉にたどり着いたように。

前編を読む

関連リンク気象庁国立極地研究所


有田 真さん 

前編のインタビューから

-南極地域観測隊での有田さんの仕事は?
-勉強は嫌いではなかった子ども時代
-有田さんが南極に行きたいと思ったきっかけとなった経験とは?

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