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Vol.015 2014.11.24

サイエンスCGクリエイター 瀬尾拡史さん

<後編>

難解なものを「正しく、楽しく」
理解できる仕組みを作りたい

サイエンスCGクリエイター

瀬尾 拡史 (せお ひろふみ)

1985年生まれ。株式会社サイアメント(SCIEMENT)代表取締役。東京大学医学部医学科卒業。大学在学中に専門スクール、デジタルハリウッドにも入学してCG制作を習得。現在は医学の専門知識に裏付けされたCG技術を医療や科学に活かす、サイエンスCGクリエイターとして活躍中。

「サイエンスを、正しく、楽しく。」をモットーに、日本でただひとりの“サイエンスCGクリエイター”として活躍する瀬尾拡史さん。東京大学医学部卒という異色のクリエイターが、サイエンスCGへと突き動かされた力とはいったい何か。そのルーツと展望を探ります。 注)CG:コンピュータグラフィックス(computer graphics)

目次

「もうひとつの学校」で出会った、異なる世界の人たち

サイエンスCGクリエイター 瀬尾拡史さん

大学時代にはダブルスクールでCGの専門スクール、デジタルハリウッドにも通っていました。そこでは今まで自分が触れ合ってきた友だちや先生方とはまるで異なったタイプの人たちと出会うことができました。たとえば水道管工事の仕事をしながらCGクリエイターを目指している人がいたんです。人生で初めて水道管工事の仕事をしている人に出会い、その人がCGを学んでいる。とても新鮮な気持ちでした。自分のまったく知らない世界を知っている人たちといっしょにCGを学んで、世の中にはさまざまな考え方の人がいるのだということを思い知りました。

ダブルスクールだったと話すと「すごく忙しかったんじゃない?」とよく聞かれますが、そんなことないんですよ。東大の場合は最初の2年が教養課程。当時はその2年間で必要な単位を取ればよかったんです。入学して最初の半年、1限から5限までフルに授業を入れて全部合格すれば、それで単位は十分に取れる。そうすればあとの1年半は週に2~3コマの必修がある以外は自由になります。

面白いのは、たとえば社会人向けの講演会などでこのエピソードを話すと、「おお、それはすごい!」と言われるんですけど、現役の中高生に話すと「ふ~ん…」ていう反応。それもそのはずで、彼らは大学の1限よりもっと早い8時くらいから学校に行ってるわけですから。この反応の違いは、いかに大学に入ると学ばなくなるか、というひとつの証左ですね(笑)。サークルやバイトに時間をかけて、学ぶということとはかけ離れた大学生活にだけはしたくないと思っていました。だから専門スクールでのCGも、医学部の授業もちゃんとやろうと肝に銘じていました。

瀬尾さんが「すべてのことが一流ではなく二流という認識がある」と考える理由とは?

サイエンスCGクリエイターは”オーケストラの指揮者”

サイエンスCGクリエイター 瀬尾拡史さん

ぼくは今、希望していたとおりの仕事をしていますが、実は今すごく迷っているんです。ぼくにはすべてのことが一流ではなく二流であるという認識があります。医師としては2年間の初期研修しかやっていない、CGデザイナーとしてのスキルも最低限のことは分かりますけど、超一流のデザインを自分で生み出せるかといえばそうではない。

CGアニメーションも同じです。たとえばディズニーみたいなキャラクターアニメーションは作れない。広く浅くはできるけど、突き抜ける何かが足りない。そこをどうしたらいいのだろう……。これが最近いちばん悩んでいるところです。たぶん、オーケストラの指揮者みたいなポジションがあれば、とてもいいのだと思うんですよね。指揮者は楽器の演奏が上手なわけではないけれど、すべての楽器の音色や特性を知っていて、まとめあげ楽曲を奏でることができる。映画監督とかもそうですね。

それは「通訳」ととらえてもよいのかもしれません。心臓のCGアニメーションを作ったときに、まずは専門のお医者さんや研究者から、研究内容をワ~っと一気に聞くわけですね。すごく専門的なことは分かりませんが、ある程度感覚としては分かる。最低限何が理解できていないかくらいは分かる。しかし、その研究者から提供された膨大なデータをそのままCGデザイナーに渡しても、デザイナーは困ってしまいます。ですから、研究者の話をまずはぼくが受けて、いったんかみくだいて、頭のなかで技術的なものをシミュレーションしながらCGのプロットを立てていく。

一方で、デザイナーの思考も何となくは分かっているつもりで、論理的というより直観的な思考タイプが多い彼らが、その美的センスを存分に発揮するための土台だけは用意しておきたいのです。研究者とデザイナーという、職業上の使用言語や文化が違う人たちの間で、「通訳」しながらよい作品を仕上げていくことこそ、自分のやるべき使命なのかなとも思いはじめています。

講演後、聴いていた少女から伝えられた衝撃的な、けれどしみじみよかったと感じた一言とは?

努力は必ず自信となって返ってくる

サイエンスCGクリエイター 瀬尾拡史さん

公文式で何学年も先の教材に進むことは、自分の経験からすれば、そんなにすごいことではないのかなと思います。だけど、ひとつのことをそこまで努力できるというのは本当に正しいし、まっすぐです。その努力は大人になっても変わらず、自信となって支えてくれると思います。もともと専門外だったCGの専門スクールで学ぼうと思ったのも、「努力すれば何とかなるだろう」という根拠のない自信でした。だけど、突き抜けるには大きな壁もある。その壁を越えるべきか、または別な道に行くべきかを客観的に判断できるのもまた、公文の学習で自分が築いてきた「自信」なのだろうと思っています。

ぼくはまだ30歳にもなっていませんが、それでも年を経るにつれていろいろな制約条件が増えてきます。見えざる圧力が増していくというか、自分のなかに焦りが生まれるというか……。同級生たちはどんどん出世していき、たとえば少し前まで飲み会は本郷の居酒屋だったのに、気づいたら六本木の高級ダイニングになっていたりしますからね(笑)。だから、できるだけそうした周囲の圧力が少ないうちに、失敗を恐れずにチャレンジしたほうがいいと思います。やろうかやるまいかで迷っているなら、早いうちにやったほうがいい。明日失敗するより今日失敗したほうが、ダメージは少ないし、回復も早いと思いますから。

ぼくは今、小さな会社の代表をしていますが、誰かひとりでも、「これいいね!」と思ってくれたら、それは初めて職業として成り立つのではないかと思っています。そういう人がいてくれる限りは、今のこの仕事をがんばっていこうと思います。ただ、医療の場合少しむずかしいのは、たとえ患者さんのために必要な技術やCG作品であっても、患者さんが個人としてその経費を負担するには重すぎるところがあります。エンターテインメント作品のように、気に入ったら気軽にDVDを買うというようなものではないですから。

しかし、自分のなかに大きなモチベーションとしてあるのは、誰もが自分の身体の仕組みを「正しく、楽しく」理解できるようになる世界の実現です。今年、公文の生徒さんたちの集まりで講演したときのことです。ぼくの話が終わり休憩時間になったとき、10歳くらいの女の子が走り寄ってきて、こんなことを話してくれました。「わたしは心臓に穴があいているってママから言われてるんだけど、よくわからなかったの。でも、きょうお話を聞いて、どういうことなのかわかりました。ありがとうございました」。急なことでもあり、その子が背負ったものの大きさに驚き、うまく返事ができませんでした。でも、彼女の役に立てたんだな、よかったなとしみじみ思いました。


サイエンスCGクリエイター 瀬尾拡史さん  

前編のインタビューから

– 「なんでおまえ、足は速いのにボールはダメなの?」と友だちに不思議がられた小学生時代
– 「“掃除”“整理整頓”は子どものころから両親によく言われていましたが、今でも苦手です(笑)」
– サイエンスCGクリエイターになるきっかけは、あるテレビ番組だった

 

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