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Vol.008 2014.04.04

フォトジャーナリスト 渡部陽一さん

<前編>

戦火のなかの子どもたちの声を
世界に届けて
彼らの笑顔を取り戻したい

フォトジャーナリスト

渡部陽一 (わたなべ よういち)

1972年静岡県生まれ。大学在学中のアフリカ旅行をきっかけにフォトジャーナリストを志し、世界に飛び出す。これまで130ヵ国以上を訪れ、戦火のなかで人々に寄り添いながら取材を行う。写真展、著書、雑誌掲載等を通して作品を発表するかたわら、テレビやラジオへの出演、講演も数多い。静岡県富士市の観光親善大使も務める。

ゆったりとしながらも真摯な語り口が印象的な、フォトジャーナリスト、渡部陽一さん。死と隣り合わせの戦場に、何度も渡部さんを駆り立てるものとは、いったいなんなのでしょうか。 渡部さんが世界各地で体験し、挑戦することで学んできたことについてうかがいました。

目次

紛争に遭遇したことがきっかけで、フォトジャーナリストに

フォトジャーナリスト 渡部陽一さん

「フォトジャーナリスト」とひとくちに言っても、私の場合、「戦火のなかで暮らす家族」を、取材の主軸に置くようにしています。この仕事に就くきっかけは、大学時代に何の知識もなくアフリカの紛争地域に行ってしまい、血だらけの子どもたちに遭遇したこと。泣いて僕に助けを求めてきたのですが、当時は一介の旅行者で、助けだすことができませんでした。後になって自分に何ができるだろうと考えたときに、好きなカメラを使って、多くの人たちに子どもたちの声を届け、状況を知ってもらうことで、変化を起こすことができるのではないか、と思いつきました。そのころから、戦場の子どもたちの声に耳を向けています。

子どもたちはどの地域でも、気さくで好奇心旺盛ですね。アフガニスタン、イラク、スーダンと、どこでも日本のことを知りたがっていました。日本というと、彼らのなかには車、電化製品、空手、和食というような漠然としたイメージが点在していて、実際のところどういう国なのか、具体的な話を聞きたいというのです。例えば、「子どもは男の子も女の子も、自由に学校に行けるんですか?」と聞いてくる。世界には宗教やさまざまな慣習の縛りのなかで、自由に学校に行くことのできない地域がたくさんあるのです。現地には取材する側のカメラマンとして入って行くわけですが、逆に相手のほうから質問されることのほうが多いですね。

ひとたび海を越えれば、肩書に関係なく一人の人間として、現地の方々と同じ釜の飯を食べ、同じ土間に寝ることで、五感が触れ合っていく。それは冒険心をそそる、旅の醍醐味です。ただ、それができる間柄になるため、気を付けていることはあります。まずは、日本でも同じですが、挨拶を堂々と、しっかりすること。そして、相手の側のルールや規律には従順なることも心がけています。「日本はこうだからこう」という線引きを僕の方からは絶対にしません。その地域の文化や習慣に、敬意を持って寄り添っていくことが大切だと思っています。

戦場での取材を可能にすることとは?

コツコツ、地道な準備とリサーチが戦場での取材を可能にする

フォトジャーナリスト 渡部陽一さん

フォトジャーナリストはとりあえず現地に行ってから対応する、と思われるかもしれませんが、僕の場合、実際は取材のうち80%は地道な準備とリサーチで、残りの20%が現地での撮影です。情報交換、人脈固めなど、徹底的な準備が取材においてはとても有効です。例えば、突発的に事件が起きて避難するとき、誰とつながっているか、どちら側の国境を越えていくのか、バスを使うのか、車をチャーターするのか、軍の車両に乗せてもらうのか。「今まではこうだったから」と決めつけずに、いくつもの選択肢を作っておきます。現地の人々とのつながりを生かし、自分の立ち位置を明確にし、柔軟に動くようにしています。

戦場で取材をしていると、「おまえはどちら側か?」と必ず聞かれます。もちろん、どちら側でもないわけですが、私は、最初は攻撃を受けている側に入ります。なぜ被害をこうむり、どういう状況なのかを確認したら、次に攻撃している側に入ります。どんな状況で戦争が起こり、また終わらせようとしているのか。例えばイラク戦争では、まずイラク側で被害状況の声を拾い、その後に米軍側にも従軍記者として密着しました。双方の言い分のどちらが正しいか。外部の目と国連の監視が最後の“線引き”をする、その基準を見極めていく大切さを双方の取材から感じとります。もし国際的な裁判になった場合、理論を構築した側が無条件に勝つということにならないよう、監視の目を世界に広める。その情報を提供していくのも、フォトジャーナリストの仕事だと思っています。

どちら側にも入って行けるようになるには、時間がかかります。1回目で取材拒否なら3か月後にもう一度トライ。ダメなら1年後と、何年もかけて追いかけてコンタクトを積み重ねていきます。コツコツ緻密な作業を続けていくことで初めて、取材を進めていくことができます。これまで130ヵ国ほどまわっていますが、数十ヵ国の方々とは今もつながっていて、用が無くても現地の方々に電話を掛けたりメールをして家族の話をしたり、とにかく“呼吸”している時間を続けていく。それが特に、情勢が弾けたときに、瞬発的に動くエンジンを提供してくれます。仕事を離れても、移動中の空いた時間を使って遊びに行ったり、彼らが日本に来たときは一緒に遊んだりと、友人、家族のようになっています。

戦場の子どもたちが笑顔を見せる3つの瞬間とは?

戦争は武器で止めるものではなく、教育で止めることができる

フォトジャーナリスト 渡部陽一さん

戦場では、どんなに過酷な状況でも、子どもたちが笑顔を見せてくれる瞬間があることに驚きました。ご飯を食べるとき。破壊しつくされた学校が地域の方々によって一部修復され、再び行けるようになったとき。電気の無いなかで、村の長老が自家発電機を動かし、日本のアニメを上映したとき……。戦場という極限状況と子どもたちの笑顔のコントラストに、胸が揺さぶられました。食事、教育、娯楽こそ、人間に力を与える最初の一歩なんですね。特に教育の力は大きく、戦争は武器で止めるものでなく、教育で止めていくことができると感じています。

危険な体験という意味では、2006年の7月に訪れたレバノン取材は忘れられません。イスラエルとの衝突が起きたレバノン紛争のさなか、首都ベイルートに飛び込むと、空が花火のようにピカピカっと点滅しているんですね。地上からカメラを構えてなんだろうと見上げていると、数秒後に目の前の高層ビルごとあたり一帯が吹き飛ばされて、爆風のなか、カメラを持ってシャッターを切っていました。逃げまどい、避難民の方々と生活をともにしながらの取材でした。

そういった極限の恐怖のなかで、少しでも平常心に戻るために、僕は戦場で絶対に一人ぼっちで駆け回りません。その地域で生まれたガイドさん、運転手さん、爆撃が起きたときのセキュリティの方と、最低4人で最前線を動きます。ガイドさんが「この壁からワンブロック先へは行ってはいけない」と言ったら、すぐに言いつけを守り、一歩引きます。僕が感じ取れない危険が迫ってきていることを、その地域で生まれ育った方々は肌で感じ取るからです。現地の方の声に従う。この原則をカラダに入れることで、恐怖心を抑えることができます。

もうひとつ、日記に思いを書きとめるようにもしています。出会った人の話、勇気をくれた言葉、今日食べたもの、映画から学んだキーワードなどなど。気持ちがぶれたとき、それらを読み返すと、スッと初心に返り、平常心に戻ることができる。日記を書くことが、自分の乱れた恐怖心を整えてくれる。勇気の源ですね。

国境を超える高揚感、取材の醍醐味

フォトジャーナリスト 渡部陽一さん

海外の人々と接していると、彼らはとても家族を大切にしています。日本人が見ると気恥ずかしいほどに溺愛している(笑)。でもだからこそ、何かが起こったときにも、家族皆が一緒にいて、限られたものを分け合って生き延びることができる。家族といることが、彼らの生きる力になっているんです。両親への敬意の払い方を見ていると、大人になってもまるで小学生のときのような濃い関係で結ばれています。

そんな彼らのなかには、外国人の僕が突然訪れても、見ず知らずのゲストにもかかわらず、迎え入れるという習慣が本能的に根付いています。戸口に立つと、扉をあけて「君は誰ですか? どうしたんですか? 分かりました、入ってお茶をどうぞ」というコトバがよどみなく出てくるんです。もちろん僕も彼らに対して敬意を払い、たどたどしくてもていねいに、思いをしっかり伝えるようにしています。彼らは島国の日本と違って、陸路で他の国々と国境が接しているので、多民族、多宗教、多文化。外とのつながりの風の速さが体にしみこみ、オープンマインドなんですね。そんな人々の懐の深さに、取材を抜きにして僕はとりこになりました。

20歳のときに初めてアフリカに行き、国境を越えたときの緊張感とドキドキ感。たくさんの方々と出会ったときの震え上がるほどの高揚感というのは、41歳になった今でも、変わらず湧きあがってきます。「この地域に行ってもしょうがない」「ここでは何も起こっていない」と見えるような場所にこそ、僕は行きたいです。「これは無意味だ」とは一概に言えない、そのなかでは深い意味が蠢いている。いろんな現場を経験するなかで、そう感じます。僕は動きや話すスピードこそゆっくりですが、この世界のダイナミックなスピード感に乗り、「見る前に飛べ」の精神で飛び出して行きたいです。

関連リンク
渡部陽一オフィシャルサイト

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