コミュニケーションとは「言葉のキャッチボール」
皆さんはコミュニケーションという言葉を聞いたことがあると思います。この言葉を知らなかった人は会話のことだと思ってください。コミュニケーションはよく「言葉のキャッチボール」だと言われます。
なぜ「言葉のキャッチボール」と言われるのでしょうか。たとえば皆さんが朝学校で友だちに会って「おはよう」と言います。その「おはよう」という言葉をボールにたとえるのです。
「おはよう」というボールを投げたのに、その友だちが無視して行ってしまうと悲しいですね。だから普通は「おはよう」というボールを投げられたらキャッチする。つまり、それを聞いて受け止める。そして聞いただけで行ってしまうのではなく、受け止めたうえで、またボールを投げ返してあげる。自分も「おはよう」と言ってあげる。そうすると、気分もよくて今日もいい一日になると思えますね。 このように皆さんも毎日のように友だちや家族とコミュニケーションをしていると思います。
ところで、このコミュニケーションもじつは心の働きに支えられています。どのような心の働きに支えられているのか、そのことについて考えてみましょう。
何気ない会話の例を挙げます。
いかにもありそうな会話ですが、A君が言いました。「おはよう、元気?」B君が答えました。「(元気なさそうに)ああ…元気だよ……」A君が返します。「でも、なんか元気なさそうだけど。あっ、昨日のテストのこと、まだ気にしてるの?」B君が答えます。「ああ、お母さんに怒られちゃってさ」
人間ならだれでもこのような会話はできると思います。けれど、他の動物や、ロボットにはまったくできません。動物は言葉がしゃべれないので、会話できないのはわかると思います。でも、ロボットはどうでしょうか。今どきのロボットは言葉もしゃべるし、声も聞きとれます。けれど、ロボットには例に挙げたような会話をするのはすごく難しいことです。なぜかということを次に見ていきます。
最初にA君は「おはよう、元気?」と言いました。B君はそれを聞き取りました。聞き取るというのは、さっき言った言葉で言うと、知覚という心の働きです。
さらに言うと、ただ何と言ってるかを聞きとっただけではなく、その意味がわかったということです。たとえば私はオランダに留学したての頃、いきなりオランダ人に話しかけられて「フーテモルヘン」と言われたことがあります。オランダ語がまったくわからなかったので、はて、何のことやらと思いました。「おはよう」というオランダ語の言葉なのですが、言葉の意味がわからないと、まともな返事ができないのです。だから、B君はここで聞きとった言葉の意味がわかった、つまり言語の理解ということもやっていたのです。
ところが、B君はどう答えたか。「うん、元気だよ!」と答えたのではなくて、「ああ…元気だよ……」と答えました。何がちがうか。言い方がちがいますね。
もしA君がロボットだったら、どのように反応するか考えてみてください。今のロボットは、静かな場所だと言葉の聞きとりについてはほぼ100%できます。ただ、B君に「ああ…元気だよ……」と言われると、それがどんな言い方であっても、「B君は元気なんだ」と判断します。ですから「元気なの。よかったね」などとB君に言葉を返してしまいます。でも、それだと「言葉のキャッチボール」としてはチグハグになってしまいますね。
なぜなら本当はB君は元気がないからです。だから「元気なの。よかったね」と返したら、全然ちがう方向にボールを投げたようなものです。
でも、A君はこう答えました。「元気なさそうだけど」。これができるのは、人間であるA君が相手の気持ち、感情を理解するという働きを心のなかにそなえているからです。現在はロボットに感情を理解させようという研究も進んでいるので、もしかすると、5年後、10年後にはそのようなことが可能になるかもしれませんが、今のロボットにそこまで求めるのは難しいことです。
それからA君は、B君が元気がないということを昨日のテストの点数と結びつけて考えています。昨日のテストの点数を覚えているのは記憶の働きで、元気がないのはテストの点数が悪かったからだと考えたのは思考の働きです。このようにごく当たり前の会話でも、知覚や記憶や思考など、いろいろ複雑で高度な人間の心の仕組みに支えられて実現されているのです。このようなことに少しでも気づいてもらえたらうれしいです。

